悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

文字の大きさ
58 / 171
第一部 リューナジア城編

第五十八話 第一皇子エリオットとの邂逅 ①

しおりを挟む
 それから僕は一日一粒を厳守してシアにもらった薬を毎日飲んでいる。

 乳母にも頼んで食事にライ麦パンを出してもらうようにした。
 ライ麦パンを食べたら丈夫になると聞いたと言ったら、乳母は喜んで協力してくれた。
 結果、僕が食べやすい程度に小麦粉とライ麦を半々に混ぜた感じのパンが焼かれるようになったのだった。思いの外美味しい。

 僕はここ最近調子がいい。
 薬の効果が表れるにはまだ早いと思うからプラシーボ効果だろうけれど、シアに会えて良かったと思った。

 それにしても何か忘れてる気がする……。
 あっ! そういえばジルベール先生の妹さんの病気の特効薬を開発したのがシアなのか聞き忘れてた!
 ……しょうがない、ジルベール先生も大人なのだから、シア・ブラックウェルという薬に詳しい人がいるよとだけ教えてあげて、そこから先は自力でコンタクトを取るなりしてもらおう。

 そんな訳で調子のいい僕は今日はお兄ちゃんと一緒に城の中庭を散歩していたのだった。

「今日は天気いいね」
「ああ」

 お兄ちゃんと手を繋いでのんびり歩きながら浴びる日差しが心地良かった。

「勉強は進んでいるのか?」
「うん! もうたくさん本読んだよ!」
「それは凄いな」

 お兄ちゃんに近況を報告すると、お兄ちゃんは微笑んで褒めてくれる。
 それが嬉しくて、僕は「あのねあのね」と思いつく限りのことを喋ったのだった。

「おや? そこにいるのは……ウィルじゃないか!」

 誰だ。聞き覚えのない声が耳に届いた。
 声のした方向を向くと、そこには空色の長髪を後ろで一つに纏めた青年がいた。
 この人、タソトキで見たことあるぞ。

「……エリオット」

 険しい顔をしたお兄ちゃんが僕を守るように前に進み出る。

 そう、この青年の名前はエリオット――――第一皇子だ。
 青空のような髪色と僕たちと同じ碧い瞳。
 彼はタソトキの中と同じように爽やかな笑みを僕たちに向けている。

 月の国の貴公子、エリオット。
 ウィルフリートお兄ちゃんの母親である第一皇妃の第一子。
 お兄ちゃんの実の兄だ。年齢は十七、八歳ぐらいに見える。

「エリオット"お兄様"だろう、ウィル?」

 お兄ちゃんの表情とは対照的に、エリオットはあくまでもにこやかだ。
 ゲームのイメージと変わらない。

「まあ呼び捨てでもいいけれどね。それがウィルなりの親しみの表し方なのかな」

 エリオットはそう言うけれども、お兄ちゃんの顔に浮かぶ表情からは親しみを一切感じない。
 お兄ちゃんは完全に警戒心を露わにしている。

「ウィルが離宮から戻ってきたと聞いて、会って話をしたいと思っていたんだ」
「その割にはしばらく何のコンタクトもなかったがな」
「ボクも色々忙しかったんだ、放っておいてごめんね。寂しかったろう」

 エリオットはにこりと微笑む。
 お兄ちゃんの態度とは違い、エリオットからは敵意のようなものを感じない。
 お兄ちゃんと仲が悪いに違いないと思っていたけれど、そうでもないのだろうか。

「それで、そっちの子は……」

 エリオットの視線が僕に移る。

「何処のお姫様かな? 見かけない顔だけど」

 初対面の時のお兄ちゃんと同じく、エリオットもまた僕を弟だとは分かっていないようだった。
 まあ顔を合わせたことがないのだから仕方ない。

「僕は……」
「この子は知り合いの子供だ」

 僕が答える前にお兄ちゃんが何故か嘘を吐いた。
 なんで嘘を言ったのだろうと思うけれど、お兄ちゃんのすることにはきっと意味がある筈なので、僕は口を噤んだ。

「へえ、ウィルと自分の子を仲良くさせたいと思う奇特な貴族がいるんだね。友達の一人もいないんじゃないかと思っていたから、安心したよ」

 そう言って胸を撫で下ろすエリオットの顔は弟を案ずる兄の顔のように見えた。
 やっぱりエリオットは案外いい人なのかもしれない。
 第一夫人がエリオットを依怙贔屓するから関係が悪化してしまっただけで、エリオット本人には悪意はないのではないだろうか。

「それじゃあ、お姫様にはお近づきの印に……Rütasルタス

 エリオットが僕に近寄ってきたかと思うと、なにか一言呟いた。
 すると何も持っていなかった筈のエリオットの手に水の入ったグラスが現れた。

「どうぞ。ボクの魔力で生成した氷のグラスだよ」
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...