悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

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第一部 リューナジア城編

第七十四話 工房見学 ②

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「失礼いたします。ウィルフリート殿下、カレン殿下が参りました」
「おにーちゃん!」
「ああ、カレンか」

 工房に入ると、何か機械に向かっていた様子の兄がぱっと顔を上げる。
 真剣な顔をしていた兄の顔がふんわり綻ぶ。

 ジルベールは大人しく工房の隅っこに控える。
 使用人は影のように気配を殺して仕えるという風習からだろう。
 貴人同士が顔を合わせる時には極力席を外すか目立たないように行動する。
 先日の会議の時が特殊なのだ。

 兄の作業台の上にはまん丸の形をしたガラスが何枚も置かれている。
 兄が試作したレンズか、これからレンズになる予定のガラスたちだろう。

 そして一番目立つのは中央の作業台に鎮座しているよく分からない筒だ。
 先端にガラスが設置されているから、きっとこれでガラスを削るのだろう。

「いくつか試作したんだ。見てくれ」

 お兄ちゃんが一枚のガラスを僕の目の前に翳す。
 ガラスを通して景色がぼんやりと広がって見えた。

「お、おお……っ!」

 これはもしかして成功したレンズ!?

「カレンの視界には歪んで見えるかもしれないが、オレから見てはっきりと見えるように調整してある」
「す、すごい……! もう完成したの!?」
「まだこの一枚だけだがな」

 お兄ちゃんは凄い! 凹レンズの完成だ!

「……」

 その時、工房の隅でジルベールがそわそわとしているのに気が付いた。
 レンズがどんな物か彼も気になるのだろう。

「ジルベールも来て!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて彼を呼んだ。

「いかがいたしましたかカレン殿下?」

 何食わぬ顔してジルベールがこちらに来る。

「ねえ、ジルベールもこのレンズを覗いてみて!」

 兄の翳しているレンズを指し示す。
 ジルベールは少し屈んでレンズを通して見える光景を覗き込んだ。

「こ……これ、は……」

 ジルベールの細い目がゆっくりと見開かれていく。

「物がはっきりと見えるだろう」

「え、ええ……少しぼやけてはいますが、間近で物を見ているかのようにしっかりと見えます。これがレンズというものなのですか……!?」

 ジルベールは面白いくらいに素直な反応を見せる。
 僕が作った訳でもないのに誇らしい気分になってしまう。

「少しぼやけている? オレから見るとくっきりと写るのだが……」
「ジルベールの方がお兄ちゃんより目が悪いのかもしれないね」
「ああ、なるほど」

 僕はジルベールに向き直ると、にこりと微笑みかける。

「今度ジルベールも視力検査をしようね」
「はて、視力検査ですか……?」

 彼は初めて聞く言葉に目をぱちくりとさせる。

「うん、ジルベールにも眼鏡を作ってあげよう! いいよね、おにーちゃん?」
「ああ。オレとは違う視力に合わせたレンズも作ってみる必要もあると思っていたんだ。丁度いい」

 お兄ちゃんはニヤリと笑ってみせる。

「そ、そんなっ、私のような身分でこのような高価な物を頂くなんていけません……っ!」

 彼の為の眼鏡を作るということがあんまりにも意外だったのか、ジルベールは泡を食って首を振る。

「お前の主人であるカレンがいいと言ってるのだから、いいに決まっているだろう。それに、細かな調整の為にこれから何度も工房に足を運んでもらうことになるからな? これはお前の仕事の一つだ」

 ジルベールに安心して眼鏡を受け取ってもらう為に兄はあえてこういう言い方をしているのだろう。兄のほくそ笑んだ顔の裏に隠れた善意が微笑ましかった。

「かしこまりました……!」

 ジルベールは感謝を込めて深く礼をしたのだった。
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