悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ！ ～商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします～

第一部 リューナジア城編

第七十五話 ジルベールの視力検査 ①

「これはどの方向？」
「えーと、上……でしょうか？」
「じゃあ、これは？」
「……すみません、分かりません」

　翌日、お兄ちゃん同席でジルベールの視力検査を行った。
　お兄ちゃんはレンズの調整の為にも自分の目で視力差を見ておきたいのだそうだ。

「それでは、結果をはっぴょーします！」

　僕が胸を張って宣言すると、ジルベールはごくりと固唾を飲んだ。

「ジルベールの視力は……」
「私の視力は……？」
「なんと！　何故か右目だけ悪いですっ！」
「ええっ！」

　僕の発表にジルベールはびっくり目をまん丸くした。

「面白いな。左右で視力が違うことがあるのか」

　横で視力検査を見守っていたお兄ちゃんがコメントを漏らした。

「左目の視力もあまり良いとは言えないけれど、右目は間違いなく眼鏡が必要なレベルですっ」

　僕はじゃじゃんと断定した。
　意外な結果にジルベールは戸惑っているようだ。

「えっと、それはつまり、私は片目だけの眼鏡を付けることになるのですか……？」

　優秀なジルベールにしては珍しく頓珍漢なことを言い出した。
　この世界の人は皆初めて眼鏡に出会うのだから仕方ないだろう。

「ほう、片方だけの眼鏡か……」

　ジルベールに「あのね、眼鏡は絶対に両目分あるものなんだよ」と教えてあげようとしたら、お兄ちゃんは何か思いついたかのようにニヤリと笑む。

「それぞれ違う度のレンズを入れればいいだけだと思っていたが、片目だけの眼鏡というのも面白いな」
「おにーちゃん！？」
「面白い……！　試しに構想を練ってみるとしよう！」

　止める間も無くお兄ちゃんは乗り気になってしまった。
　机に向かう手間すら惜しんで、テーブルの上に羊皮紙を広げてその場で設計図を描き始めてしまった。
　没頭している……。

「あの……ウィルフリート殿下はいつもこうなのですか？」

　ジルベールが恐る恐る僕に聞く。

「うん、そうなんだ……」
「それは――――何とも頼もしいことですね！」

　ジルベールに不安を与えてしまうのではないかと思ったが、彼は意外にもお兄ちゃんの姿を見て目をキラキラとさせている。

　うん……いい、のかな？