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第二部 セルフィニエ辺境伯領編
第百二十七話 ケイスくんとお話 その2
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「カレンよ、メトロノームはできたか!」
不敬にも僕を呼び捨てにするのはもちろんテルディナント先生である。
今日は午前中が音楽の授業の日だった。
「そんなに早く出来ませんよ。設計図すらまだ書けてません」
お兄ちゃんに進捗を確かめた訳ではないが、流石に二、三日で出来るものじゃない。
「なんだ、仕事が遅いな」
「遅くないですよ! おに……ウィルは科学の大天才なんですから、むしろ誰よりも早く出来ます!」
常識知らずのテルディナントを僕はキッと睨み付ける。
「ほう、カガクの大天才か! それならオレ様は音楽の大天才だ! 同じ大天才仲間としてシンパシーを覚えるな、そのウィルという者には!」
何故だかテルディナント先生からお兄ちゃんへの好感度が勝手に上がってしまった……ごめんね、お兄ちゃん。
「とにかくそのウィルという者に急ぐように伝えるといい、オレ様はメトロノームが出来上がるのが楽しみなのだ!」
「なんでそんなにメトロノームが出来るのが楽しみなんですか?」
確かにあれば便利だなと僕も思ったけれど、テルディナント先生はそんなに手拍子を自分でするのが面倒だったのだろうか。
「当たり前だろう、メトロノームがあればそれまで曖昧な概念でしかなかったテンポにはっきりとした基準が作れるのだ! これにワクワクしなくてどうする!」
「そうなんだ……」
音楽に詳しくない僕はどこが凄いのかよく分からず、ぼんやりとした返事をした。
音楽の授業を終え、昼食を摂った後。
次のクレア先生の授業を受けに教室に向かっていたら、バスティアンさんと一緒に歩いているケイスくんの姿を見かけた。
ケイスくんの傍らの使用人さんが木剣を運んでいるから、剣術の授業が終わったところなのだろう。
「ケイスくん!」
僕は彼に声をかけた。
「あっ!」
彼も僕に気が付いてぱっと顔色を明るくさせた。
「ケイスくん、剣術やってたの!? すごいね!」
「へへ」
僕が褒めると、ケイスくんは得意げに顔を赤らめた。
「早く僕も剣術習えるようになりたいなー」
「おっ、それなら俺が教えてやろうか? ……じゃなくて、教えてあげましょうか?」
ケイスくんは砕けた口調を敬語に直す。
この間の僕のお願いを聞いてくれる気があるようだ。
「えっ、いいの!?」
「いけません、ケイスお坊ちゃま」
剣を振るうなんてわくわくする、と思ったら何故かバスティアンさんに止められてしまった。
「カレン殿下はお身体が弱いのです。剣術の鍛錬など行ったら倒れてしまうかもしれません」
事前に僕の身体の病弱さを知らされているのか、この城の人たちは僕の体調に過剰に気を遣っている気がする。万が一にでも皇子を倒れさせたら責任問題になるとでも思っているのだろうか。
「えっ、身体が弱い……?」
ケイスくんは初耳だったようで、愕然と目を見開く。
「うん、そうなんだ。もしも大きくなっても剣を握れなかったらどうしよう……?」
楽器と同じように武器の扱いも貴族の嗜みなのではないかと思われる。
ただでさえ後ろ盾がないのに武器も扱えないとなったら将来が危うい、と心配になる。
「殿下、心配いりません!」
「え?」
何故かケイスくんが励ましてくれる。
「もしも殿下が剣を握れなくても、その時は俺が殿下のことを守ります……!」
ケイスくんは顔を真っ赤にしながら誓ってくれた。
「あはは、でも僕はいつか中央に帰っちゃうんだよ」
「あ……!」
いつのことになるかは分からないけれど、ずっと南部に追いやられたままということはない筈だ。
いつか時がくれば僕は中央のリューナジア城に戻ることになる。
「でも気持ちは嬉しかったよ。ありがとね」
「は、はい!」
子供って突拍子もないことを言い出すから面白いなと思いながら、手を振ってケイスくんと別れたのだった。
不敬にも僕を呼び捨てにするのはもちろんテルディナント先生である。
今日は午前中が音楽の授業の日だった。
「そんなに早く出来ませんよ。設計図すらまだ書けてません」
お兄ちゃんに進捗を確かめた訳ではないが、流石に二、三日で出来るものじゃない。
「なんだ、仕事が遅いな」
「遅くないですよ! おに……ウィルは科学の大天才なんですから、むしろ誰よりも早く出来ます!」
常識知らずのテルディナントを僕はキッと睨み付ける。
「ほう、カガクの大天才か! それならオレ様は音楽の大天才だ! 同じ大天才仲間としてシンパシーを覚えるな、そのウィルという者には!」
何故だかテルディナント先生からお兄ちゃんへの好感度が勝手に上がってしまった……ごめんね、お兄ちゃん。
「とにかくそのウィルという者に急ぐように伝えるといい、オレ様はメトロノームが出来上がるのが楽しみなのだ!」
「なんでそんなにメトロノームが出来るのが楽しみなんですか?」
確かにあれば便利だなと僕も思ったけれど、テルディナント先生はそんなに手拍子を自分でするのが面倒だったのだろうか。
「当たり前だろう、メトロノームがあればそれまで曖昧な概念でしかなかったテンポにはっきりとした基準が作れるのだ! これにワクワクしなくてどうする!」
「そうなんだ……」
音楽に詳しくない僕はどこが凄いのかよく分からず、ぼんやりとした返事をした。
音楽の授業を終え、昼食を摂った後。
次のクレア先生の授業を受けに教室に向かっていたら、バスティアンさんと一緒に歩いているケイスくんの姿を見かけた。
ケイスくんの傍らの使用人さんが木剣を運んでいるから、剣術の授業が終わったところなのだろう。
「ケイスくん!」
僕は彼に声をかけた。
「あっ!」
彼も僕に気が付いてぱっと顔色を明るくさせた。
「ケイスくん、剣術やってたの!? すごいね!」
「へへ」
僕が褒めると、ケイスくんは得意げに顔を赤らめた。
「早く僕も剣術習えるようになりたいなー」
「おっ、それなら俺が教えてやろうか? ……じゃなくて、教えてあげましょうか?」
ケイスくんは砕けた口調を敬語に直す。
この間の僕のお願いを聞いてくれる気があるようだ。
「えっ、いいの!?」
「いけません、ケイスお坊ちゃま」
剣を振るうなんてわくわくする、と思ったら何故かバスティアンさんに止められてしまった。
「カレン殿下はお身体が弱いのです。剣術の鍛錬など行ったら倒れてしまうかもしれません」
事前に僕の身体の病弱さを知らされているのか、この城の人たちは僕の体調に過剰に気を遣っている気がする。万が一にでも皇子を倒れさせたら責任問題になるとでも思っているのだろうか。
「えっ、身体が弱い……?」
ケイスくんは初耳だったようで、愕然と目を見開く。
「うん、そうなんだ。もしも大きくなっても剣を握れなかったらどうしよう……?」
楽器と同じように武器の扱いも貴族の嗜みなのではないかと思われる。
ただでさえ後ろ盾がないのに武器も扱えないとなったら将来が危うい、と心配になる。
「殿下、心配いりません!」
「え?」
何故かケイスくんが励ましてくれる。
「もしも殿下が剣を握れなくても、その時は俺が殿下のことを守ります……!」
ケイスくんは顔を真っ赤にしながら誓ってくれた。
「あはは、でも僕はいつか中央に帰っちゃうんだよ」
「あ……!」
いつのことになるかは分からないけれど、ずっと南部に追いやられたままということはない筈だ。
いつか時がくれば僕は中央のリューナジア城に戻ることになる。
「でも気持ちは嬉しかったよ。ありがとね」
「は、はい!」
子供って突拍子もないことを言い出すから面白いなと思いながら、手を振ってケイスくんと別れたのだった。
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