婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

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第七話 異世界に迷い込んだかのように

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 エスプリヒ城の巨大な庭園は、民衆の誰もが入ることが許されている。
 貴族のみならず平民もだ。そうすることによって王の偉大さを擦り込むためだ。ヴァンも王城に入ったことはないが、この美しい庭園は訪れたことがあった。
 
 二人を乗せた純白の馬車は、この巨大な庭園の中央に開いた道を進む。
 
「綺麗……」
 
 見るのは初めてではないのに、美しさに思わず呟く。
 
 深紅と純白の薔薇が咲き乱れるルージュエブラン庭園が、馬車の窓の外を通り過ぎる。
 あの鮮烈な赤と白を。どのように絵の具で表現しようか。つい反射的に思考を巡らせてしまい、もう絵はやめたのだったと思い出す。
 
 薔薇の庭園を通り過ぎると、次は王の散歩道と呼ばれる迷路状の庭園が姿を現す。小さな頃、この迷路で迷子になったことがある。懐かしい思い出だ。
 
 王の散歩道も横目に通り過ぎ、ついには巨大な噴水広場に辿り着く。
 人がちっぽけに見えるほどの途方もなく大きな噴水の中央に、精霊を模した複数の像が立っている。
 
 精霊の姿をはっきりと目にすることができたのは、初代国王だけだと言われている。その初代国王の遺した言葉を頼りに、芸術家が想像で彫り上げた精霊像が噴水の中央で水を浴びているのだ。精霊たちの真ん中で見つめ合う二つの像は、初代国王と精霊神だ。
 大理石を彫られて作られた純白の精霊像が、噴水の中央で水浴びをしている光景は壮観だ。
 
 噴水広場も通り過ぎれば、絢爛豪華な王城が姿を現す。
 屋根がもっとも希少な色である金と青で彩られ、城壁は純白だ。その豪奢な建造物が視界の外までずっと続くほど、どこまでも果てしなく巨大だった。 
 まるでこの城自体がギュスターヴのようだ、とヴァンは感じた。美しく飾られて耽美で瀟洒なのに、それ自体が人を圧倒させる威容を誇っている。ギュスターヴは美しいが、だからといって彼をただの優男と軽んじる人間なんてどこにもいないだろう。彼の堂々たる態度には、風格がある。

 ふとギュスターヴを振り返ると、彼と目が合った。蒼い瞳が、微笑ましげに細められている。そんなに子供っぽく目を輝かせてしまっていただろうか、とヴァンは恥ずかしくなった。
 
 やがて馬車は、門の前で一時停止した。
 
 庭園の正面玄関はいつでも開かれているが、これは王城前の門だ。平民たちが王城の中に迷い込んでしまわぬように、設けられた門だ。門自体も見惚れるほど美しかった。すべてが金でできた細い格子状の門の頂きには、金色の王冠を模した飾りが光り輝いている。
 
 白い馬車を見てすぐに王太子の物だと察したのか、警備の騎士たちがうやうやしく門を開ける。細く華奢な門扉は音もなく静かに開いた。

「我が宮殿へようこそ」
 
 ギュスターヴが静かに呟く。
 彼の言葉に、まるで異界に入り込んでしまったかのように感じられた。
 
 馬車は王城前で止まり、ヴァンは彼にエスコートされながら馬車を降りた。エスコートされる側に回るのは、慣れない経験だった。
 
「君の部屋は用意しておいた。昼食の時間までゆっくりしていてくれ」
 
 彼と別れ、ヴァンは自室まで案内された。
 
 自室に着いたヴァンは、部屋を見回す。
 華美で華奢な家具が調えられた部屋は、とても自分の部屋とは思えない。侯爵家の次男とはいえ、おざなりに扱われてきたヴァンの部屋は必要最低限の質の物しかなかった。ところがこの部屋は、王族に合わせたのであろう格の家具が用意されている。蝶や草木の彫刻が施された繊細な足の細い家具たちに、閉塞感を覚えた。

 何もかもが、これまでの生活とは違う。
 
「僕、これからどうなるんだろ……」
 
 ヴァンはベッドに倒れ込み、天蓋をぼうっと眺めながら独りごちた。
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