7 / 55
第七話 異世界に迷い込んだかのように
しおりを挟む
エスプリヒ城の巨大な庭園は、民衆の誰もが入ることが許されている。
貴族のみならず平民もだ。そうすることによって王の偉大さを擦り込むためだ。ヴァンも王城に入ったことはないが、この美しい庭園は訪れたことがあった。
二人を乗せた純白の馬車は、この巨大な庭園の中央に開いた道を進む。
「綺麗……」
見るのは初めてではないのに、美しさに思わず呟く。
深紅と純白の薔薇が咲き乱れるルージュエブラン庭園が、馬車の窓の外を通り過ぎる。
あの鮮烈な赤と白を。どのように絵の具で表現しようか。つい反射的に思考を巡らせてしまい、もう絵はやめたのだったと思い出す。
薔薇の庭園を通り過ぎると、次は王の散歩道と呼ばれる迷路状の庭園が姿を現す。小さな頃、この迷路で迷子になったことがある。懐かしい思い出だ。
王の散歩道も横目に通り過ぎ、ついには巨大な噴水広場に辿り着く。
人がちっぽけに見えるほどの途方もなく大きな噴水の中央に、精霊を模した複数の像が立っている。
精霊の姿をはっきりと目にすることができたのは、初代国王だけだと言われている。その初代国王の遺した言葉を頼りに、芸術家が想像で彫り上げた精霊像が噴水の中央で水を浴びているのだ。精霊たちの真ん中で見つめ合う二つの像は、初代国王と精霊神だ。
大理石を彫られて作られた純白の精霊像が、噴水の中央で水浴びをしている光景は壮観だ。
噴水広場も通り過ぎれば、絢爛豪華な王城が姿を現す。
屋根がもっとも希少な色である金と青で彩られ、城壁は純白だ。その豪奢な建造物が視界の外までずっと続くほど、どこまでも果てしなく巨大だった。
まるでこの城自体がギュスターヴのようだ、とヴァンは感じた。美しく飾られて耽美で瀟洒なのに、それ自体が人を圧倒させる威容を誇っている。ギュスターヴは美しいが、だからといって彼をただの優男と軽んじる人間なんてどこにもいないだろう。彼の堂々たる態度には、風格がある。
ふとギュスターヴを振り返ると、彼と目が合った。蒼い瞳が、微笑ましげに細められている。そんなに子供っぽく目を輝かせてしまっていただろうか、とヴァンは恥ずかしくなった。
やがて馬車は、門の前で一時停止した。
庭園の正面玄関はいつでも開かれているが、これは王城前の門だ。平民たちが王城の中に迷い込んでしまわぬように、設けられた門だ。門自体も見惚れるほど美しかった。すべてが金でできた細い格子状の門の頂きには、金色の王冠を模した飾りが光り輝いている。
白い馬車を見てすぐに王太子の物だと察したのか、警備の騎士たちがうやうやしく門を開ける。細く華奢な門扉は音もなく静かに開いた。
「我が宮殿へようこそ」
ギュスターヴが静かに呟く。
彼の言葉に、まるで異界に入り込んでしまったかのように感じられた。
馬車は王城前で止まり、ヴァンは彼にエスコートされながら馬車を降りた。エスコートされる側に回るのは、慣れない経験だった。
「君の部屋は用意しておいた。昼食の時間までゆっくりしていてくれ」
彼と別れ、ヴァンは自室まで案内された。
自室に着いたヴァンは、部屋を見回す。
華美で華奢な家具が調えられた部屋は、とても自分の部屋とは思えない。侯爵家の次男とはいえ、おざなりに扱われてきたヴァンの部屋は必要最低限の質の物しかなかった。ところがこの部屋は、王族に合わせたのであろう格の家具が用意されている。蝶や草木の彫刻が施された繊細な足の細い家具たちに、閉塞感を覚えた。
何もかもが、これまでの生活とは違う。
「僕、これからどうなるんだろ……」
ヴァンはベッドに倒れ込み、天蓋をぼうっと眺めながら独りごちた。
貴族のみならず平民もだ。そうすることによって王の偉大さを擦り込むためだ。ヴァンも王城に入ったことはないが、この美しい庭園は訪れたことがあった。
二人を乗せた純白の馬車は、この巨大な庭園の中央に開いた道を進む。
「綺麗……」
見るのは初めてではないのに、美しさに思わず呟く。
深紅と純白の薔薇が咲き乱れるルージュエブラン庭園が、馬車の窓の外を通り過ぎる。
あの鮮烈な赤と白を。どのように絵の具で表現しようか。つい反射的に思考を巡らせてしまい、もう絵はやめたのだったと思い出す。
薔薇の庭園を通り過ぎると、次は王の散歩道と呼ばれる迷路状の庭園が姿を現す。小さな頃、この迷路で迷子になったことがある。懐かしい思い出だ。
王の散歩道も横目に通り過ぎ、ついには巨大な噴水広場に辿り着く。
人がちっぽけに見えるほどの途方もなく大きな噴水の中央に、精霊を模した複数の像が立っている。
精霊の姿をはっきりと目にすることができたのは、初代国王だけだと言われている。その初代国王の遺した言葉を頼りに、芸術家が想像で彫り上げた精霊像が噴水の中央で水を浴びているのだ。精霊たちの真ん中で見つめ合う二つの像は、初代国王と精霊神だ。
大理石を彫られて作られた純白の精霊像が、噴水の中央で水浴びをしている光景は壮観だ。
噴水広場も通り過ぎれば、絢爛豪華な王城が姿を現す。
屋根がもっとも希少な色である金と青で彩られ、城壁は純白だ。その豪奢な建造物が視界の外までずっと続くほど、どこまでも果てしなく巨大だった。
まるでこの城自体がギュスターヴのようだ、とヴァンは感じた。美しく飾られて耽美で瀟洒なのに、それ自体が人を圧倒させる威容を誇っている。ギュスターヴは美しいが、だからといって彼をただの優男と軽んじる人間なんてどこにもいないだろう。彼の堂々たる態度には、風格がある。
ふとギュスターヴを振り返ると、彼と目が合った。蒼い瞳が、微笑ましげに細められている。そんなに子供っぽく目を輝かせてしまっていただろうか、とヴァンは恥ずかしくなった。
やがて馬車は、門の前で一時停止した。
庭園の正面玄関はいつでも開かれているが、これは王城前の門だ。平民たちが王城の中に迷い込んでしまわぬように、設けられた門だ。門自体も見惚れるほど美しかった。すべてが金でできた細い格子状の門の頂きには、金色の王冠を模した飾りが光り輝いている。
白い馬車を見てすぐに王太子の物だと察したのか、警備の騎士たちがうやうやしく門を開ける。細く華奢な門扉は音もなく静かに開いた。
「我が宮殿へようこそ」
ギュスターヴが静かに呟く。
彼の言葉に、まるで異界に入り込んでしまったかのように感じられた。
馬車は王城前で止まり、ヴァンは彼にエスコートされながら馬車を降りた。エスコートされる側に回るのは、慣れない経験だった。
「君の部屋は用意しておいた。昼食の時間までゆっくりしていてくれ」
彼と別れ、ヴァンは自室まで案内された。
自室に着いたヴァンは、部屋を見回す。
華美で華奢な家具が調えられた部屋は、とても自分の部屋とは思えない。侯爵家の次男とはいえ、おざなりに扱われてきたヴァンの部屋は必要最低限の質の物しかなかった。ところがこの部屋は、王族に合わせたのであろう格の家具が用意されている。蝶や草木の彫刻が施された繊細な足の細い家具たちに、閉塞感を覚えた。
何もかもが、これまでの生活とは違う。
「僕、これからどうなるんだろ……」
ヴァンはベッドに倒れ込み、天蓋をぼうっと眺めながら独りごちた。
455
あなたにおすすめの小説
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる
古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました
カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」
「は……?」
婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。
急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。
見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。
単品ざまぁは番外編で。
護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる