婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

文字の大きさ
8 / 55

第八話 不理解

しおりを挟む
 昼食までの間、側仕えたちが挨拶に来てヴァンの身の周りを整え始めた。
 いちいちペコリと頭を下げていたら、「王太子殿下のフィアンセが、側仕えに頭を下げるべきではございません」と叱られてしまった。
 気疲れを感じながら、荷物を片付けてもらったりなんだりと時間を過ごした。

 昼食刻限が近づいた時、ヴァンの部屋のドアがノックされた。
 つい自分でドアを開けに行こうとしてしまったヴァンに先んじて、側仕えがドアを開けた。
 ドアの向こうにいた人物に、ヴァンも側仕えも息を呑んだ。

「やあ、ヴァン。たっぷり休めたかな? 昼食の時間だよ」

 ギュスターヴ自らが、昼食の迎えに来てくれるなんて。てっきり、側仕えが連絡に来ると思っていた。
 ギュスターヴは一人ではない。すぐ横に、ギュスターヴの側仕えと思しき人物も控えていた。若い男で、彼の周囲には三種類の精霊の気配が感じられた。キッチリとした人物なのだろうといった印象を受ける。

「あの、殿下自らご足労いただくなんて……」
「食堂までの道中、ヴァンと話したくてね」

 眩しいまでの笑みから、屈託のない好意を感じる。
 なぜだか彼を騙しているような気になってしまい、心がますます重くなるのを感じた。

 
 食事をするための部屋に向かうまでの道のりを、長い廊下が続いている。
 ヴァンは、ギュスターヴと並んで歩いている。二人の側仕えたちが、後ろをぞろぞろとついてきている。
 どう考えても、自分は最後尾を歩いているべきだろうとヴァンは感じた。彼と隣り合って歩いているこの状況は、間違っている。

「ギュスターヴ殿下」

 ヴァンは意を決して、口を開いた。

「殿下をつけずに、ただギュスターヴとだけ呼んでくれないか」

 ギュスターヴは、機嫌よさげに微笑んでいる。実際機嫌がいいことは、精霊たちがくるくると待っている気配が保障している。

「え、ええとそれはちょっと、僕にはまだハードルが高いです……」
「それでは、仕方がないな。君の心の準備が整う日が来るのを待とう」

 出鼻を挫かれ、意欲が萎えそうになる。
 それでも今言わなければ、と自分を奮い立たせる。

「殿下、僕は貴方の婚約者に相応しくありません。たとえ過去に僕と貴方の間に何かがあったのだとしても、僕と婚約すべきではありません」

 本当にギュスターヴとの接触が過去にあったのか、定かではない。なのに、ギュスターヴは過去のヴァンを過大評価しているようだ。何があったのだとしても、ギュスターヴは過去の幻影に騙されているのだと思った。今のヴァンは、まったく価値のある人間ではない。
 大変なことを口にしてしまった、とヴァンは顔を青くさせながらギュスターヴを見上げた。

「相応しくない? その逆だ、君以外に私の伴侶に相応しい人はいないんだよ、ヴァン」

 なのに、ギュスターヴは軽い調子で笑った。
 いくら言っても通じないのではないか。胸の内で焦りが急激に膨れ上がる。

「だって僕は! 加護が一つしかないんですよ!」

 思わず大きな声が出た。
 側仕えたちの足音が、ピタリと止まったのがわかった。
 ギュスターヴも足を止め、ヴァンをまっすぐに見つめる。

「僕は風の精霊からの加護しか受けていなくて、そんな人間を娶ったら殿下の評判まで……」
「ヴァン」

 ギュスターヴが、そっとヴァンの肩に手を置く。

「加護の数など関係ない、君は素晴らしい人物だ。君はそのことを知るべきだ」

 加護の数など関係ない。
 その言葉に、ヴァンは強く反感を覚えた。

 十二もの精霊から加護を受けた人物が、何を言うのか。
 恵まれているから、関係などと言えるのだ。
 この王太子だって、自分が加護一つで生を受けていたならば、己の不幸を呪ったに違いない。

 彼には、一切話が通じないのだ。
 お綺麗な笑顔で、綺麗ごとを口にするだけの人形みたいな人間だ。

 ヴァンは、彼を説得することを諦めた。

「……わかりました」

 ヴァンは俯いて顔色を隠す。

「わかってくれて、よかった」

 顔を上げなくたって、ギュスターヴがいつもの完璧な笑みを浮かべていることは理解できた。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました

カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」 「は……?」 婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。 急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。 見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。 単品ざまぁは番外編で。 護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け

処理中です...