婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

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第二十五話 祠の死守

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「殿下! 大精霊の祠に誰かが侵入しようとしています!」
「何!? それをどうやって……いや、手段なんて今はどうでもいい! すぐに向かうぞ!」
 
 フィリップが衛兵たちを急ぎ呼ぶ。
 衛兵たちの先導を受けながら、ヴァンとギュスターヴたちも中庭に向かった。
 中庭に突入すると、ちょうど逃げていく人影が見えたところだった。彼らはあっという間に、姿を消してしまった。衛兵たちが逃亡した彼らを追う。
 ヴァンとギュスターヴたちは中庭に留まり、ヴァンは彼に事情を説明した。
 
「風の精霊が、何者かの声を届けてくれたんです」
「何だと?」
 
 驚きを露わにする彼に、どんな言葉が聞こえたのか伝えた。
 
「風の精霊に、こんな遠くの声を届ける能力があると聞いたことはないが……ヴァンが言うのであれば、本当のことなのだろう」
 
 祠の様子を確認していたフィリップが戻ってきて、口を開く。
 
「祠に何者かが侵入した痕跡はありませんでした。ヴァン様のおかげで、間一髪賊の狼藉を事前に防ぐことができたのでございます」
「そうだな、すべてヴァンのおかげだ」
 
 ギュスターヴがフィリップの言葉に同意する。
 
「そ、そんな、僕は何もしてなくて、ただ風の精霊が声を届けてくれただけで……」
「ヴァンはそれを素早く伝えてくれただろう。自信を持て、君は素晴らしい人間だ」
 
 謙遜しようとすると、彼がどこまでも真っ直ぐにヴァンの瞳を覗き込んで言った。
 自信を持てだなんて、また無責任な言葉を口にして。僕が舞い上がったらどうする気なのか。ヴァンは彼の言葉に苛立ちを覚えたはずだった。
 
「は、はい……分かりました」
 
 けれども何故だか頬が熱くなっていて、ヴァンは自然と頷いてしまっていた。
 
「しかし、その賊曰く『結界の破壊に成功した』らしいな?」
「それはおかしいですね、結界は現にこうして存在しています」
 
 フィリップが、結界が破壊されていないことを指摘する。ヴァン自身も秘密の中庭に足を踏み入れた際に、以前にも感じた境界を越えた感覚をしっかりと感じた。
 
「あ……あの、もしかしたら、何かの間違いだったのかもしれません……」
 
 ヴァンは項垂れる。ただの聞き間違いだったのかもしれない。
 
「いや。ヴァンはいい加減なことを言ったりしない。宮廷魔術師たちを呼んで、結界を調べさせるべきだろう」
「殿下……?」
 
 ヴァンが顔を上げると、ギュスターヴはにこりとこちらに笑みを向けてくれていた。その笑顔が、自分を励ましてくれているかのようだった。
 
「かしこまりました。では、少々お待ち下さいませ」
 
 少しの間を置いて、フィリップが呼んで来てくれた宮廷魔術師たちがすぐに結界を調べ出した。
 宮廷魔術師とは、王城に勤める魔術師たちの総称だ。王城で魔術が必要とされる様々な仕事を担っている。秘密の中庭の結界の管理も、その一つだ。
 
「大変なことが判明いたしました。結界の一部だけが破壊されており、それが巧妙に隠蔽されてあったらしいのです」
 
 興奮しながら難しい専門用語を喚いている宮廷魔術師たちの言葉を、フィリップが分かりやすく要約した。
 
「恐らく賊は何度も祠に侵入するつもりだったのでしょう、今すぐ修復させます」
「いや、待て」
 
 手をあげ、ギュスターヴが制止する。その顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
 
「私にいい考えがある」


 数日後、盗人たちが捕らえられた。彼らが再び盗みに入ってきた瞬間を捕らえたのだ。すべてギュスターヴの講じた策のおかげだ。
 ギュスターヴはあえて、破壊された結界を修復させなかった。その代わりに結界内に人が入ると、衛兵たちに報せが走る警戒魔術を付与させたのだ。盗人たちがおめおめと再び侵入してくるなり、衛兵たちが素早く駆けつけて彼らを捕らえることに成功した。
 盗人たちは大精霊の祠がどういうところかも知らず、「きっと高価な物が保管されているに違いない」と侵入を画策したのだそうだ。
 
「賊は破壊した結界が修復されていないのを見て、気づかれていないと思ったのであろう。息子よ、見事であった」
 
 ギュスターヴとヴァンの二人は、国王陛下に呼び出されて言葉をもらっていた。
 自らの息子に声をかけた国王陛下は、次にヴァンに向き直った。
 
「ヴァン殿、貴方のおかげでまず賊の侵入に気付けたと聞いた。我が王家の宝ともいえる祠を守ってくれたこと、感謝する」
「そんな、恐れ多いです! 僕自身は何もしていないので!」
 
 ヴァンは慌てて恐縮した。
 羞恥心に顔が熱くなる。本当に自分は何もしていないのに、国王にわざわざ褒め言葉を言わせてしまった。そんな恥ずかしさを覚えた。
 
「ヴァン」
 
 そんなヴァンに、ギュスターヴが声をかける。
 
「精霊のおかげだとしても、精霊が選んだのはヴァンだよ。胸を張ってくれ」
「精霊さんが選んでくれたのは、僕……?」
 
 そんな考え方してみたことなかった、と僕は目を丸くする。
 幼い頃からどんなに孤独な時も、風の精霊が寄り添ってくれていた。風の精霊が褒められたのだと思えば、国王からの評価も素直に受け取れる気がした。
 
「余は当初貴方をギュスターヴの正室に迎えることに難を示してしまったが、今ではそれを恥じている。加護の数だけを見て、ヴァン殿が我が息子の利になるかどうか判断してしまった。それが正しいのかどうか、ヴァン殿のおかげで疑問を抱くことができた」
「国王陛下、それって……」
「余は反対せぬ。ギュスターヴ、他の貴族たちを説得するのはおぬしの役割だ」
「承知しています」
 
 国王の言葉に、ギュスターヴが自信に満ちた笑みで答える。
 国王にも認めてもらえた事実に、胸の内が熱くなっていく。だがそれと同時に新たな不安も生まれた。
 
「ギュスターヴ殿下、貴族たちに認めさせるなんて一体どうやって……?」

 貴族たちに認められなければ結婚できないということはないだろうが、苦労することになるだろう。
 どのような手段を講じれば、ヴァンのことを貴族たちに認めさせるなんてことができるのか想像がつかず、胃の腑の辺りが冷たく感じた。

「まずはヴァンのことを知ってもらわねばならないな」

 ギュスターヴはヴァンに向き直る。

「――――そうだな、ヴァンのお披露目を行うとしよう」
「お、お披露目!?」
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