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第二十六話 舞踏会
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「ヴァン様、浮かない顔をされてどうしましたか?」
窓の外を見ながら溜息を吐いていたヴァンは、ちょうど茶を給仕にきたフィリップに心配そうに問われた。
「ああ、ちょっと舞踏会のことを考えていて」
近日、舞踏会に出席することになっていた。
ギュスターヴは、ヴァンの存在を周知するための舞踏会を開くことに決めたのだ。
「ヴァン様をお披露目するパーティのことでございますね」
フィリップは楽しそうに頷く。彼は舞踏会を楽しみにしているようだ。
自分などがメインとして登場したら、どれほど嘲笑われることだろう。
ヴァンは舞踏会のことを思うと憂鬱で仕方なかった。
「城の針子も精を出して、ヴァン様の衣装を仕上げにかかっていますよ。なにせ、殿下からいろいろ注文をつけられた衣装でございますから」
王太子のフィアンセとして相応しいパーティ用の衣服など持っていないので、ヴァンの衣装は新しく針子たちに縫ってもらっている。
その衣装のデザインにギュスターヴが口出ししたらしいのだ。なんでも、「私がどれだけヴァンを愛しているかを、形として見せつけるのだ」などと言って。
一体どういう仕上がりになっているのか想像すると、空恐ろしかった。
「緊張されるのも分かりますが、顔を広めることもフィアンセとしての大事な務めの一つでございますよ。大丈夫です、ヴァン様なら立派にこなせます」
フィリップがにこりと笑顔で励ましてくれる。
「はは、そうですよね……せっかく衣装も作ってもらっているのですし、頑張らないと」
ヴァンはまた大きく溜息を吐いた。
「ね、ねえこれ……やっぱりちょっとこれ、僕には……」
舞踏会当日、ヴァンは新しく誂えられた衣服を身に纏っていた。
舞踏会が開かれる大ホール隣の控室でのことだ。
「よく似合っている、ヴァンの美しさに相応しい。針子たちはいい仕事をする」
ギュスターヴはヴァンの格好に満足気に口角を上げた。
ヴァンは姿見に自分の姿を映す。
青を基調としたコートの裾が、ドレスを連想させるような長さで床まで伸びている。貧弱な細い足が強調されるようでヴァンは恥ずかしかった。
恥ずかしいのはそれだけではない。コートには隙間なく金の刺繍が施されているのだ。おかげで青いコートなのか金色のコートなのかよく分からない始末だ。
おまけに首元のジャボの中心には蒼い宝石が取り付けられていた。
彼の髪の色と瞳の色で全身が埋め尽くされている。ヴァンは私のものだ、と大声で主張しているかのような衣装だ。
姿見に映った自分の顔が真っ赤になっているのが見えた。
「ほんとに似合ってます? みっともなくないですか?」
ヴァンは泣きそうになりながら、ギュスターヴに確認を求めた。
隣で微笑んでいるギュスターヴも、お揃いの青に金の刺繍が施されたコートを纏っている。裾もヴァンのものほどではないが長めで、膝裏辺りまで伸びている。
こんなにも煌びやかな格好は、ギュスターヴのような美丈夫がまとうから似合うのだ。自分のようなちんちくりんがまとっても分不相応なのが目立つだけだ、とヴァンはおどおどしていた。
「似合っていると何度も言ってほしいのか? ヴァンは意外に甘えん坊なのだな」
「ち、違います!」
ヴァンが鏡の前でそわつく様子を勘違いしたのか、彼は上機嫌そうになる。
それからそっと耳元に口を寄せた。
「今日のヴァンは本当に美しいぞ」
低い囁き。
「……っ!?」
甘い囁きにどう反応すればいいか分からず、ヴァンは真っ赤になって口をパクパクとさせるしかなかった。
ヴァンたちのやり取りを微笑ましそうに見守っていたフィリップが、一歩前に進み出る。
「それではヴァン様、仕上げを行いましょうか」
「仕上げ?」
彼がヴァンの眼鏡をそっと外してしまう。
一気に視界がぼやけた。
「星の精霊よ。ヴァン様の両眼に灯火を灯して下さいますよう願います」
フィリップの静かな祈祷と共に、目の前の彼がはっきりと見えるようになった。
輪郭がはっきりと見て取れる。急激に視力が良くなったのだ。
「す、すごいです……! こんな魔術があるなんて!」
「一時的なものですよ。私はこの魔術を、諜報にも利用しております」
もともと視力がいい人が星の精霊の御力を目に灯せば、きっと信じられないほど遠くまで見ることができるようになるのだろう。星の精霊の御力を利用して、諜報に励むフィリップの姿が想像できた。
「舞踏会でヴァン様の美しさを存分に発揮できるよう、眼鏡を外させていただきました。殿下は眼鏡があろうがなかろうがヴァン様の美しさを見抜いておられますが、他の方々はそうはいかないでしょうから」
「そう、ヴァンの美しさを万人に見せつけてやるのだ」
フィリップの言葉に、ギュスターヴが頷く。
二人はヴァンが笑われることになる可能性は、ちっとも考えていないようだった。
「ヴァン、行こう」
掴まれと、ギュスターヴが腕を差し出す。
未だに自分がエスコートされる側に回るのは不思議な気分だ。ヴァンは照れながらそっと彼の腕に手を添える。
途端に、彼の精霊たちが歓声のようなはしゃいだ声を上げるのが聞こえた。心底嬉しそうな様子に、ヴァンは満更でもない顔をした。
勇気をもらえた気分になって、彼と共に舞踏会の会場へと一歩を踏み出す。
窓の外を見ながら溜息を吐いていたヴァンは、ちょうど茶を給仕にきたフィリップに心配そうに問われた。
「ああ、ちょっと舞踏会のことを考えていて」
近日、舞踏会に出席することになっていた。
ギュスターヴは、ヴァンの存在を周知するための舞踏会を開くことに決めたのだ。
「ヴァン様をお披露目するパーティのことでございますね」
フィリップは楽しそうに頷く。彼は舞踏会を楽しみにしているようだ。
自分などがメインとして登場したら、どれほど嘲笑われることだろう。
ヴァンは舞踏会のことを思うと憂鬱で仕方なかった。
「城の針子も精を出して、ヴァン様の衣装を仕上げにかかっていますよ。なにせ、殿下からいろいろ注文をつけられた衣装でございますから」
王太子のフィアンセとして相応しいパーティ用の衣服など持っていないので、ヴァンの衣装は新しく針子たちに縫ってもらっている。
その衣装のデザインにギュスターヴが口出ししたらしいのだ。なんでも、「私がどれだけヴァンを愛しているかを、形として見せつけるのだ」などと言って。
一体どういう仕上がりになっているのか想像すると、空恐ろしかった。
「緊張されるのも分かりますが、顔を広めることもフィアンセとしての大事な務めの一つでございますよ。大丈夫です、ヴァン様なら立派にこなせます」
フィリップがにこりと笑顔で励ましてくれる。
「はは、そうですよね……せっかく衣装も作ってもらっているのですし、頑張らないと」
ヴァンはまた大きく溜息を吐いた。
「ね、ねえこれ……やっぱりちょっとこれ、僕には……」
舞踏会当日、ヴァンは新しく誂えられた衣服を身に纏っていた。
舞踏会が開かれる大ホール隣の控室でのことだ。
「よく似合っている、ヴァンの美しさに相応しい。針子たちはいい仕事をする」
ギュスターヴはヴァンの格好に満足気に口角を上げた。
ヴァンは姿見に自分の姿を映す。
青を基調としたコートの裾が、ドレスを連想させるような長さで床まで伸びている。貧弱な細い足が強調されるようでヴァンは恥ずかしかった。
恥ずかしいのはそれだけではない。コートには隙間なく金の刺繍が施されているのだ。おかげで青いコートなのか金色のコートなのかよく分からない始末だ。
おまけに首元のジャボの中心には蒼い宝石が取り付けられていた。
彼の髪の色と瞳の色で全身が埋め尽くされている。ヴァンは私のものだ、と大声で主張しているかのような衣装だ。
姿見に映った自分の顔が真っ赤になっているのが見えた。
「ほんとに似合ってます? みっともなくないですか?」
ヴァンは泣きそうになりながら、ギュスターヴに確認を求めた。
隣で微笑んでいるギュスターヴも、お揃いの青に金の刺繍が施されたコートを纏っている。裾もヴァンのものほどではないが長めで、膝裏辺りまで伸びている。
こんなにも煌びやかな格好は、ギュスターヴのような美丈夫がまとうから似合うのだ。自分のようなちんちくりんがまとっても分不相応なのが目立つだけだ、とヴァンはおどおどしていた。
「似合っていると何度も言ってほしいのか? ヴァンは意外に甘えん坊なのだな」
「ち、違います!」
ヴァンが鏡の前でそわつく様子を勘違いしたのか、彼は上機嫌そうになる。
それからそっと耳元に口を寄せた。
「今日のヴァンは本当に美しいぞ」
低い囁き。
「……っ!?」
甘い囁きにどう反応すればいいか分からず、ヴァンは真っ赤になって口をパクパクとさせるしかなかった。
ヴァンたちのやり取りを微笑ましそうに見守っていたフィリップが、一歩前に進み出る。
「それではヴァン様、仕上げを行いましょうか」
「仕上げ?」
彼がヴァンの眼鏡をそっと外してしまう。
一気に視界がぼやけた。
「星の精霊よ。ヴァン様の両眼に灯火を灯して下さいますよう願います」
フィリップの静かな祈祷と共に、目の前の彼がはっきりと見えるようになった。
輪郭がはっきりと見て取れる。急激に視力が良くなったのだ。
「す、すごいです……! こんな魔術があるなんて!」
「一時的なものですよ。私はこの魔術を、諜報にも利用しております」
もともと視力がいい人が星の精霊の御力を目に灯せば、きっと信じられないほど遠くまで見ることができるようになるのだろう。星の精霊の御力を利用して、諜報に励むフィリップの姿が想像できた。
「舞踏会でヴァン様の美しさを存分に発揮できるよう、眼鏡を外させていただきました。殿下は眼鏡があろうがなかろうがヴァン様の美しさを見抜いておられますが、他の方々はそうはいかないでしょうから」
「そう、ヴァンの美しさを万人に見せつけてやるのだ」
フィリップの言葉に、ギュスターヴが頷く。
二人はヴァンが笑われることになる可能性は、ちっとも考えていないようだった。
「ヴァン、行こう」
掴まれと、ギュスターヴが腕を差し出す。
未だに自分がエスコートされる側に回るのは不思議な気分だ。ヴァンは照れながらそっと彼の腕に手を添える。
途端に、彼の精霊たちが歓声のようなはしゃいだ声を上げるのが聞こえた。心底嬉しそうな様子に、ヴァンは満更でもない顔をした。
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