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第四十四話 ミレイユの逆恨み
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複数人の足音が、聞こえたのだ。
ヴァンは、ぎくりと身を強張らせる。
「殺せないって、どういうことよ!」
いきなり耳に飛び込んできたキンキンとした怒鳴り声に、心臓が飛び出るかと思った。
ミレイユの声だとすぐにわかった。
「そう言われましてもですね、奴め生意気にも高度な魔術具を装着しておりまして」
答える男の声は、聞き覚えのあるものだった。
この声は、ヴァンを面と向かって非難した二人組の貴族のうち一人……たしかシュヴァル卿という人のものだ。
二人はグルだったのか、と思い至った。
足音は二人分だけではない。
喋っている二人だけではなく、もっとたくさん人間がいるようだ。
「どんなに槍で突こうと、魔術を浴びせようと、傷一つつかないのですよ」
寝ている間にそんなに攻撃を浴びせられていたのか、とゾッとした。
まず間違いなく、ギュスターヴからもらった婚約指輪のおかげで無事なのだ。
指輪をつけていなかったらと思うと、生きた心地がしなかった。まさか殺されかけていたなんて。
「なら、その魔術具を外せばいいでしょ!」
「おそらくは指輪が魔術具だと思うのですが、外すことも敵わないのです。泉の精霊の加護もついているのでしょう」
ヴァンのは泉の精霊の加護の効能を思い出した。
泉の精霊は、時に英雄に武具や防具を与えるという。そんな泉の精霊の加護を装飾品に付与すると、意に反して装備品が外されることを防ぐことができる。
「糸の精霊の加護が付与されていなくて、幸いでした。あれがあれば、拘束することすらできなかったでしょう」
「なんでもいいから、早く殺す手立てを考えなさいよ!」
ミレイユは癇癪を起こしているようだった。
ヴァンは見知った人物から向けられる殺意に、凍りついた。
彼女は本気で自分を殺そうとしている。一体、どうして。
「ご心配なく。猛毒を用意させましたので、今から飲ませます」
毒ならば、効かない。
塔の精霊と花の精霊の加護がある。
そうとわかっていても、身体が震えた。
「あら、聞こえているんじゃないの? ちゃんと耳栓つけたんでしょうね!?」
身体の震えが見咎められたのか、ミレイユの鋭い声が飛んできた。
「は、はい、もちろんつけましたとも!」
ハッと気がついた。
音が聞こえているのは、風の精霊のおかげだと。
風の精霊が、できる限り助けてくれているのだ。
ヴァンは自分を恥じた。
思えば、風の精霊はいつも自分を助けてくれていた。
傷つき寂しい時は、寄り添ってくれた。
風の精霊はこんな自分を選び、加護を与えてくれたんだ。なのに、加護が足りないなんて思うなんて。なんて恩知らずなんだろう。
ヴァンは心に決めた。
もう、加護を増やしたいなんて思わないと。
その結果ギュスターヴと添い遂げられなくっても、それが運命だったのだと諦めよう。
「ともかく、毒を飲ませます。おい、やれ!」
シュヴァル卿が誰かに命じると、人が動く気配がした。
どうやら他の黙り込んでいる複数人は、手下のようだ。
ヴァンの身体が乱暴に掴まれ、ズタ袋がわずかに捲り上げられる。
口の中へと、無理やり液体を流し込まれた。
「ゲホッ、ゲホッ!」
ヴァンは咳きこみ、懸命に液体を吐き出そうとした。
涙が滲むのがわかった。
身体が苦しくなったりはしない。婚約指輪が守ってくれたのだ。
ただ、毒を飲まされたのが怖ろしくてヴァンは咳きこみ続けた。
「なんで死なないのよ!」
ミレイユがキンキンとした声を響かせる。
「塔の精霊の加護もあるようですな、まったく手ごわい」
「さっさとなんとかしてよ!」
「もちろん、もちろんなんとかいたしましょう。それにしても、なぜそこまでこの男の死にこだわられるのですか?」
シュヴァル卿が、ヴァンも疑問に思っていたことを口にした。
ヴァンは思わず耳をそばだてる。
「なぜ、ですって……?」
怒りのためか、ミレイユの声が震えた。
「それはね、ヴァンが出来損ないの癖に私より幸せになろうとしているのが許せないからよ……!」
ヴァンは、ぎくりと身を強張らせる。
「殺せないって、どういうことよ!」
いきなり耳に飛び込んできたキンキンとした怒鳴り声に、心臓が飛び出るかと思った。
ミレイユの声だとすぐにわかった。
「そう言われましてもですね、奴め生意気にも高度な魔術具を装着しておりまして」
答える男の声は、聞き覚えのあるものだった。
この声は、ヴァンを面と向かって非難した二人組の貴族のうち一人……たしかシュヴァル卿という人のものだ。
二人はグルだったのか、と思い至った。
足音は二人分だけではない。
喋っている二人だけではなく、もっとたくさん人間がいるようだ。
「どんなに槍で突こうと、魔術を浴びせようと、傷一つつかないのですよ」
寝ている間にそんなに攻撃を浴びせられていたのか、とゾッとした。
まず間違いなく、ギュスターヴからもらった婚約指輪のおかげで無事なのだ。
指輪をつけていなかったらと思うと、生きた心地がしなかった。まさか殺されかけていたなんて。
「なら、その魔術具を外せばいいでしょ!」
「おそらくは指輪が魔術具だと思うのですが、外すことも敵わないのです。泉の精霊の加護もついているのでしょう」
ヴァンのは泉の精霊の加護の効能を思い出した。
泉の精霊は、時に英雄に武具や防具を与えるという。そんな泉の精霊の加護を装飾品に付与すると、意に反して装備品が外されることを防ぐことができる。
「糸の精霊の加護が付与されていなくて、幸いでした。あれがあれば、拘束することすらできなかったでしょう」
「なんでもいいから、早く殺す手立てを考えなさいよ!」
ミレイユは癇癪を起こしているようだった。
ヴァンは見知った人物から向けられる殺意に、凍りついた。
彼女は本気で自分を殺そうとしている。一体、どうして。
「ご心配なく。猛毒を用意させましたので、今から飲ませます」
毒ならば、効かない。
塔の精霊と花の精霊の加護がある。
そうとわかっていても、身体が震えた。
「あら、聞こえているんじゃないの? ちゃんと耳栓つけたんでしょうね!?」
身体の震えが見咎められたのか、ミレイユの鋭い声が飛んできた。
「は、はい、もちろんつけましたとも!」
ハッと気がついた。
音が聞こえているのは、風の精霊のおかげだと。
風の精霊が、できる限り助けてくれているのだ。
ヴァンは自分を恥じた。
思えば、風の精霊はいつも自分を助けてくれていた。
傷つき寂しい時は、寄り添ってくれた。
風の精霊はこんな自分を選び、加護を与えてくれたんだ。なのに、加護が足りないなんて思うなんて。なんて恩知らずなんだろう。
ヴァンは心に決めた。
もう、加護を増やしたいなんて思わないと。
その結果ギュスターヴと添い遂げられなくっても、それが運命だったのだと諦めよう。
「ともかく、毒を飲ませます。おい、やれ!」
シュヴァル卿が誰かに命じると、人が動く気配がした。
どうやら他の黙り込んでいる複数人は、手下のようだ。
ヴァンの身体が乱暴に掴まれ、ズタ袋がわずかに捲り上げられる。
口の中へと、無理やり液体を流し込まれた。
「ゲホッ、ゲホッ!」
ヴァンは咳きこみ、懸命に液体を吐き出そうとした。
涙が滲むのがわかった。
身体が苦しくなったりはしない。婚約指輪が守ってくれたのだ。
ただ、毒を飲まされたのが怖ろしくてヴァンは咳きこみ続けた。
「なんで死なないのよ!」
ミレイユがキンキンとした声を響かせる。
「塔の精霊の加護もあるようですな、まったく手ごわい」
「さっさとなんとかしてよ!」
「もちろん、もちろんなんとかいたしましょう。それにしても、なぜそこまでこの男の死にこだわられるのですか?」
シュヴァル卿が、ヴァンも疑問に思っていたことを口にした。
ヴァンは思わず耳をそばだてる。
「なぜ、ですって……?」
怒りのためか、ミレイユの声が震えた。
「それはね、ヴァンが出来損ないの癖に私より幸せになろうとしているのが許せないからよ……!」
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