婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

文字の大きさ
45 / 55

第四十五話 許せない、ズルい

しおりを挟む
「ヴァンが出来損ないの癖に、私より幸せになろうとしているのが許せないからよ……!」

 ミレイユは震える声で語った。

「そもそも私がこの出来損ないと婚約していたのは、お父様がミストラル家との関係を持つために勝手にやったこと。その時点で、ヴァンの存在が許せないでしょう? どうして美しい私の婚約者が、加護が一つしかない出来損ないなの!?」

 怒りの声に、ヴァンは身を縮こまらせた。
 やはり彼女は、最初から自分との婚約が嫌だったのだ。その事実には、不思議と動揺はなかった。
 ただ、彼女の声にこめられた怒りが恐ろしかった。何をそこまで怒っているのだろう。

「私は私の理想の未来のために努力したわ。お父様が侯爵位であるミストラル家との縁を望むなら、それ以上の良縁を持ってくればいい。私はアタックの末に公爵閣下の心を射止めたわ。側室だし、公爵閣下は私よりずっと年上だけれど、ヴァンとの婚約を破棄できて私は満足だった……満足だったはずなのよ」

 シュヴァル卿らも耳を傾けているのだろう、ミレイユの語りが続く。

「なのにあろうことか、ヴァンは婚約破棄したその日に王太子と婚約した! 出来損ないの落ちこぼれの癖に、私より上の相手を射止めやがったのよ!」

 彼女の怒声が、ヴァンの身体を打つ。
 目には見えないが、ミレイユの精霊が荒ぶっているのが感じ取れる。
 理由はともかく、怒りの強さのほどは痛いほど伝わってきた。

「途端に公爵閣下なんかと婚約したのが、色褪せて感じられたわ。私も美男子な王族の正妻になりたかったわ」

 公爵は老けていて、醜い。
 公爵への印象が、言外に伝わってくるようだ。

「出来損ないのヴァンなんかより、私の方が幸福になってしかるべきなのに! 許せない、ズルい……! だから――ヴァン・ミストラルには罰を下さねばならないの」

 最後の一言は恐ろしいほど冷たくて、ぞっとするのを感じた。
 ズタ袋に遮られて見えないが、ミレイユの瞳がじっと自分を見下ろしている気がした。
 視線の気配に、呼吸が苦しくなる。

「ミレイユ様のお気持ち、しかと理解いたしました! 今のお話、決して誰にも漏らしたりはいたしませぬ」
「当たり前よ、貴方が公爵閣下に引き立ててもらえたのは誰のおかげと思っていて? 私のお願いはすべて叶える義務があってよ!」

 どうやらミレイユはシュヴァル卿に恩を売って、従わせているらしい。
 ヴァンを眠らせる前、ミレイユはルナール卿の別邸に向かうと言っていたが、そのルナール卿とやらも同じような理由でミレイユに従っているのかもしれない。

「ええ、ええ、もちろんでございます。貴女様の命にはすべて従います。ですが、少々気にかかることがございまして」
「何?」
「王太子殿下のフィアンセに手を出してしまって、ミレイユ様は大丈夫なのでしょうか? 私は怖気づいたりなどいたしませんが、もしミレイユ様に累が及んだ場合のことを考えますと……」
「あら、そんなこと」

 カツ、とヒールの靴音が響く。ミレイユが振り返ったのだろう。

「ヴァンが王太子に愛されたのなんて、なんかの気まぐれよ。どうせすぐ飽きられるに決まっている、というかもう飽きられてたりしてね? ヴァンに後ろ盾なんかないのよ。実の父親にだって見捨てられてたくらいだしね。ヴァンがいなくなったところで、誰も気にしないわ」

 そんなことない。
 声は出さずとも、心のうちで強く反論した。
 ギュスターヴは本気で自分を愛してくれている。ヴァンは、そのことを知っている。
 右手の薬指に輝く愛の証が、今この瞬間もヴァンを守ってくれているのだから。

「実の父親に、ですか」
「ええ。どれだけぞんざいに扱われているかっていうと、ヴァンの都合の悪い記憶を消すために外国の魔術師に忘却魔術をかけさせたくらいらしいわよ」

 自分の知らない事実に、ヴァンは息を呑んだ。

「精霊魔術には、記憶を忘却させる類の魔術はありませんからね。しかし、一体どんな記憶を?」
「さあ、そこまで興味ないわよ」

 記憶を消されていたことがある?
 自分は何に関する記憶を消されたんだ?

 大事なものが、知らずのうちに失われていたのかもしれない。
 それを意識して、心臓が強く締めつけられた。
 同時に、実の父にそんな仕打ちをされていたことに打ちのめされる。

「すっかり無駄に話し込んじゃったわ。さ、さっさとヴァンを殺す方法を考えて!」
「わ、わかりました。……では、こういうのはどうでしょう。毒を飲ませた際、この男は噎せていました。おそらくは川の精霊の加護はついていないのでしょう。溺死を試みるのはいかがでしょう」
 
 恐ろしい方法に、怖気が走る。
 溺死は苦しいと本で読んだことがある。

「すぐ浴槽に水を貯めさせましょう。水の精霊の加護を得ている者がいないのが、口惜しいですな」
「なんでもいいから、さっさとして」

 シュヴァル卿は部下たちに指示を出していく。
 これからヴァンは水を貯めた浴槽に沈められ、溺死させられるのだろう。

 恐ろしさのあまり滲んだ涙が、ズタ袋を濡らす。
 どうしてこんな風に殺されなければならないのだろう。

 死ぬ。殺されてしまう。
 死の恐怖に晒されたヴァンの頭の中を占めることは、一つだけだった――――ギュスターヴにもう一度会いたい。

(助けて……!)

 思わず、祈った。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。

竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。 自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。 番外編はおまけです。 特に番外編2はある意味蛇足です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

処理中です...