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楽しい(離婚)商談 1
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「あらぁ、離婚届一枚なの?」
鈴音はやってきた書類を持ち上げた。
「やり直し。
最初の契約通りのものを持ってきてからですわ」
にっこり笑って、持ってきた者に突っ返す。
「私、エカテリーナちゃんと遊ぶのが忙しいの」
それが家を出て2週間後のことだった。
随分と遅いと鈴音は猫のおもちゃをフリフリしながら考える。聞くとはなしに聞こえてくる話では、最初に普通に断られ、次に会ったらお断りしたはずですと塩対応。時間を作って仕事終わりにお食事に誘って、断られ、ならばと職場に役員として出向したら、軽蔑の眼差しを向けられたらしい。
なにが嫌なのだと問えば、既婚者なのに、番だと迫ってくるのが生理的に無理、だと言われたようだ。
おいたわしいという文脈で語られたそれに鈴音は肩を揺らした。
その話をしてきた者は鈴音も同情したと思ったようだが違う。
部屋に戻るまで大笑いをこらえていたのだ。
あの自信たっぷりな旦那様が固まっていたであろう想像がつく。側近もまとめて硬直し、その間に番様はお帰りになったに違いない。
痛快。
大人の仕事命のお姉さんは一味違う。鈴音はそう感心していた翌日にやってきたのが、この離婚届だった。
ようやく思い出したか、既婚だったことを。
それにしても離婚届一枚で方を付けようなど甘ったるい。鈴音が応じると思っているというより、煩わしいからこれでおしまいのつもりだ。これで番に求婚できると思っていそうである。
別の筋から聞いた情報によれば、番の女性は最近、犬を飼い始めたらしい。朝夕と散歩に連れ出すくらいのかわいがりっぷりであるらしい。なお、旦那様は大の犬嫌いである。
ほんと全力お断りされてる。
当の本人はなんで? と思っているだろうが、鈴音には関係ない。
離婚届は出戻っていった。
その次にやってきたのは、黒豹の側近だった。
「その家はあけわたすといっておりますので、このままお住まいいただいて結構です。
では、こちらにサインを」
「馬鹿にしてるのかしら。
決まり通りに進めてちょうだい」
「このぐらいで手をひかれたほうがいいですよ。奥様は、子もおりませんし、今からでも働いて生きていけるじゃないですか。
主は、番様の相手が忙しいのです。煩わせるとこの家も無くなりますよ」
穏やかに脅してくるところが、本当に獣人っぽい。同族以外は常にしたの弱きもの。捨て去っても良心の呵責もない。
鈴音は微笑んだ。
「あら、では、家のほうにもそのように伝えますね。
離婚に伴い、なにをいただいたのかきちんと伝える義務があります。たしか、実家のほうにも慰謝料が払われる約束でしたが、反故にする気であると。
それから私を無一文で放り出すほど、困窮しているのですよね。私、奥方をしておきながら家のお金のことは関わりませんでしたから知りませんでした」
「そのようなことは。では、お持ちの宝石などは」
「ございません」
「は?」
「旦那様、私に、一度も、宝飾品などの贈り物をしてきませんでした。
私が着ていた着物やドレスなどは先代様のお残しでしたので置いてまいりました。見苦しくない程度の衣服は整えましたが、それって普通ですよね?」
鈴音の夫は言えば買うが自発的に用意するタイプではなかった。言わなかった鈴音に非はない。まあ、多少思うところがあってもらっていなかったのだが。花や食べ物などはもらっていたが、それを勘定に入れるのはけち臭い話だろう。
側近は絶句していた。
「ええと、大粒の真珠のネックレスをご愛用でしたよね」
「先々代の奥様が使われていたものを糸を変えて使っていました。ほかのものはデザインが古くなっていて、そのまま使うのも難ありで。同じ理由で一粒ダイヤのネックレスも」
「……では、家財は」
「ベッドが最高級品だからありがたくもらっておけと?」
「…………相談してまいります」
想定を超えたのだろう彼はよろよろと帰っていった。
鈴音はやってきた書類を持ち上げた。
「やり直し。
最初の契約通りのものを持ってきてからですわ」
にっこり笑って、持ってきた者に突っ返す。
「私、エカテリーナちゃんと遊ぶのが忙しいの」
それが家を出て2週間後のことだった。
随分と遅いと鈴音は猫のおもちゃをフリフリしながら考える。聞くとはなしに聞こえてくる話では、最初に普通に断られ、次に会ったらお断りしたはずですと塩対応。時間を作って仕事終わりにお食事に誘って、断られ、ならばと職場に役員として出向したら、軽蔑の眼差しを向けられたらしい。
なにが嫌なのだと問えば、既婚者なのに、番だと迫ってくるのが生理的に無理、だと言われたようだ。
おいたわしいという文脈で語られたそれに鈴音は肩を揺らした。
その話をしてきた者は鈴音も同情したと思ったようだが違う。
部屋に戻るまで大笑いをこらえていたのだ。
あの自信たっぷりな旦那様が固まっていたであろう想像がつく。側近もまとめて硬直し、その間に番様はお帰りになったに違いない。
痛快。
大人の仕事命のお姉さんは一味違う。鈴音はそう感心していた翌日にやってきたのが、この離婚届だった。
ようやく思い出したか、既婚だったことを。
それにしても離婚届一枚で方を付けようなど甘ったるい。鈴音が応じると思っているというより、煩わしいからこれでおしまいのつもりだ。これで番に求婚できると思っていそうである。
別の筋から聞いた情報によれば、番の女性は最近、犬を飼い始めたらしい。朝夕と散歩に連れ出すくらいのかわいがりっぷりであるらしい。なお、旦那様は大の犬嫌いである。
ほんと全力お断りされてる。
当の本人はなんで? と思っているだろうが、鈴音には関係ない。
離婚届は出戻っていった。
その次にやってきたのは、黒豹の側近だった。
「その家はあけわたすといっておりますので、このままお住まいいただいて結構です。
では、こちらにサインを」
「馬鹿にしてるのかしら。
決まり通りに進めてちょうだい」
「このぐらいで手をひかれたほうがいいですよ。奥様は、子もおりませんし、今からでも働いて生きていけるじゃないですか。
主は、番様の相手が忙しいのです。煩わせるとこの家も無くなりますよ」
穏やかに脅してくるところが、本当に獣人っぽい。同族以外は常にしたの弱きもの。捨て去っても良心の呵責もない。
鈴音は微笑んだ。
「あら、では、家のほうにもそのように伝えますね。
離婚に伴い、なにをいただいたのかきちんと伝える義務があります。たしか、実家のほうにも慰謝料が払われる約束でしたが、反故にする気であると。
それから私を無一文で放り出すほど、困窮しているのですよね。私、奥方をしておきながら家のお金のことは関わりませんでしたから知りませんでした」
「そのようなことは。では、お持ちの宝石などは」
「ございません」
「は?」
「旦那様、私に、一度も、宝飾品などの贈り物をしてきませんでした。
私が着ていた着物やドレスなどは先代様のお残しでしたので置いてまいりました。見苦しくない程度の衣服は整えましたが、それって普通ですよね?」
鈴音の夫は言えば買うが自発的に用意するタイプではなかった。言わなかった鈴音に非はない。まあ、多少思うところがあってもらっていなかったのだが。花や食べ物などはもらっていたが、それを勘定に入れるのはけち臭い話だろう。
側近は絶句していた。
「ええと、大粒の真珠のネックレスをご愛用でしたよね」
「先々代の奥様が使われていたものを糸を変えて使っていました。ほかのものはデザインが古くなっていて、そのまま使うのも難ありで。同じ理由で一粒ダイヤのネックレスも」
「……では、家財は」
「ベッドが最高級品だからありがたくもらっておけと?」
「…………相談してまいります」
想定を超えたのだろう彼はよろよろと帰っていった。
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