騎士団の繕い係

あかね

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兄というもの

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 兄と書いて身勝手と読む。そんな感じ。
 長兄もそうだけど、次兄もアレだし。
 今回は事前予告なしの帰省である。
 ほんとにさーと小言ぐらい言わせてほしい。私の前に正座して私の説教を聞くといいという気分にはなる。数年前に私の結婚式合わせで帰ってきたときに父の説教と兄二人の殴り合いのけんかとかやってたけどさ。
 あれをやられると仲裁するしかなくなるから、ほんと、最悪。
 その時もアトスが二人に一番大変なのはクレアなんだから、ちゃんと謝罪するように宣告していた。あれは、怖かった。
 それで一応、話はつけたことにはなっているけど、なんか思い出すともやっとはする。

 許さんだが、兄が立場を捨てなければ、私は結婚もしていなかったわけで……。と思うと許すべきなのかと苦悩するが、やっぱり、本人の顔を見ると許さんとなる。
 その原因は領地管理。難しい。赤字になる。なんで。
 このあたりは、同じように領地管理している義姉によれば、領地に手厚すぎ、であるらしい。売り上げをあげるか、色々質を下げるかという話になっており、それも頭が痛い。
 うちが微妙に貧乏な方なのはこれが原因と身に染みる。

 平等を突き詰めるとみんな貧乏になるのよと義姉が遠い目をして言っていた。
 世知辛い。

 ……まあ、今回の手袋献上でいくらか褒賞ももらえるそうだし、ちょっと気合い入れて作らねばならない。先代のほうが良かったなんて言われるのも腹が立つし。

 ちょっと集中して疲れたから、また団らん室に顔を出した。寒くなるとわりとここに集いがちだ。誰かいるかと思えば、アトスと兄がいた。
 なんだか楽しそうに布がどうとか言っている。

「仲良くなったね」

 そう声をかけると二人ともびくっとした。恐る恐るこちらを見る動きがシンクロしてる。

「あ、その……」

「別にいいよ。親族なんだし、趣味の話が合う相手ってのは貴重」

「じゃあ、なんで怒ってる?」

 怒ってる? 確かに。

「説明しません。
 ほら、仕事に戻った戻った。私はとても疲れたので癒されるの」

 腑に落ちない顔のまま兄は退場する。アトスも一緒に出ていこうとするので袖を引いた。

「癒しを求めています」

「あ、はい」

 アトスはすとんとソファに座りなおしたので、その膝の上に乗った。え、という反応だけど気にしない。あまり私からスキンシップをはかることがないから驚いたんだろうけど、いつもない理由は単純で、相手からくるからだ。
 総合的に甘やかしたい人なのだと思う。

 アトスの胸に寄り掛かるとびくっとしていた。

「いつもしてるじゃない」

「そうだけど、怒ってる?」

「ちょっとヤキモチ。なんか楽しそうだなぁって。
 でも、仲良くやってくれるのはうれしいかな。身内相手にぎすぎすしたくないし」

 甘いと言われるかもしれないけど、小さい頃は世話されたこともあれば、心配をかけたことも迷惑をかけたこともある。
 重さのつり合いは取れないが、絶縁を選ぶほどに傾きはしない。
 小言は聞け、とは思うけど。これは少々性格が悪いという方面かもしれない。

「兄さんは、勝手に決めて、勝手に捨てた。そういうのが、嫌だったの。
 頼りないかもしれないけど相談してほしいと思うのね。でも、言えないこともあったんでしょうね」

 兄は一つのことを突き詰めるタイプである。精霊のことを知って、もっと知りたいと願ったら、行きつくところまで行きついてしまいそうで怖い。
 おそらく自覚もあるだろうから、黙っていなくなる算段をつけたことはあり得る。

 そうだとしても、違ったとしても、ごめん以外言わないんだから、どうしようもない。
 だから、その件は許さないので、いいように使ってやる。

「好きなことをするんだったら、とことん突き詰めて、利益あげて還元してもらわないと」

「ほどほどにね……」

「長く搾りとるつもりだから、加減はするよ」

「……ほどほどにね」

 念押しされた。

 それから、冬の終わるころに兄は王都へ向かった。色々試すことも終わったらしい。

「また、家族で来てよ」

 そう声をかけると兄は驚いたようだった。
 狩猟の話を聞いて、心配して戻ってきたのだと思う。アトスを信用していないわけではないと思うけど、目の前に力が会ったら揺らぐこともあるから。
 そうだったら、きっと、憎まれ役をするつもりで。

「いつか、お父さんのひどい話を聞かせてあげる。親の威厳が失墜するといい」

 数年後が楽しみである。
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