騎士団の繕い係

あかね

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すれちがったもの 前編

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 ある日、手紙が来た。
 それも速達で。手紙が国内どころか国外にも安定的に流通するようになって久しいが、やはり日数はかかる。手紙を預けてから一月はかかる。場所によってはもっとかかるもので、それを早める速達は通常の手紙の数倍は料金がかさむ。よほどでないと送らないものだ。

 よくない知らせ、あるいは、良い知らせ。
 どちらであろうかとラムスはしばし考えた。

「あら、手紙?」

 考えこんでいる彼に妻であるフィルスは興味深げに彼が持っているモノに視線を向けている。

「ああ、速達で来た」

 その返答にフィルスは眉をひそめた。彼女もその不穏さを察したのだろう。
 ラムスは差出人をもう一度確認する。品良い封筒に書かれた文字は読みやすい。読み間違いも発生しないほどに。
 そこに書かれているのは知っている名前ではあった。

「グノー家と付き合いはなかったな?」

「どちらの? よくある家名ですわ。支援や商売の依頼かしら」

「最初の、だ」

「は?」

 驚いた顔で固まる妻にラムスは大いに同情する。
 それほど、衝撃ある名だ。

 グノーと名乗る家は数あれど、最初のと言われるのは建国史に出てくる王の従者に与えられた家名だけだ。その血は絶えず、今も繋がっている。派手なところはないが堅実な家であると聞いていた。
 あちらは山で、こちらは海でと領地が遠いこと、共通の知人がいないため王都での集まりでも会話したこともない。会釈程度ならあるかもしれないが、それで知人とは言えないだろう。
 そういう相手からの手紙である。
 身構えるのもおかしくはないだろう。

「なにをやらかしやがりましたの?」

「儂はなにもしとらんよ」

 どうかしら、と信用してなさそうに返すとラムスの秘書を捕まえて用事を言いつけ、フィルスは二人掛けのソファに座った。あからさまに目線があなたがこっちに来なさい、だった。
 余計に揉める必要もなかろうとその隣に座る。

「早く開けてくださる?」

 封を開けるとふわりと花の匂いがした。中から出てきた紙は装飾があり、見るからに高級そうに見えた。この荒くれものが押し寄せるようなこの地ではまずお目にかからない。

「良い趣味ね。
 ちょっと、見えないわ」

「先に読むよ」

 今は淑女という顔をしている妻は血の気が多い。いきなり暴れられては困る。
 ラムスは文面に二度目を通した。

「……わけが、わからん」

 そうつぶやいてフィルスに手紙を渡した。

「丁寧な字だわ」

 そういいながら文面を追う彼女の顔が怪訝そうになっていく。

「正式な婚姻の申し込み?
 ……え、アトスの? あの子の!?」

 フィルスの驚きには理由がある。
 彼らの三男アトスは見上げるほどの大男でちょっとばかり強面である。このちょっとばかり、というのはこの港町基準だ。
 気の優しさなど良い点は有り余っているもののそれをわかるまで近くに女性が近寄ってこない。
 ラムスにも身に覚えがある。威圧感がある、らしい。政略結婚としても中々相手を探すのは難儀した、らしい。長男であったラムスですらそうなのだから、三男であるアトスはかなり希望が薄いと思っていた。
 王都で気のいい娘さんがいれば、身分など構わずに結婚してくれればいいと考えていたくらいである。

 それが、貴族からの結婚の申し込み。結婚相手は当主となるご令嬢である。婿として迎え入れたいという。
 本人の承諾は得ているという話ではあるが、その本人からの連絡がない。

 一瞬詐欺か、と疑ったがそれにしては現実味が薄い。

「君、最近、手紙をもらったと言っていなかったか?」

「ええ、二月前に書いたものね。その時には何にも。今年は一度は帰ると書いてあったくらいね」

「ふむ。
 一度調べるか。もしかしたら、事業提携の足掛かりとしての婚姻の打診かもしれない」

 そうして調べた結果、グノー家は赤字であることが判明した。それも散財で、というわけではなく、領地で起きた不作の時の出費の返済などである。
 貯蓄も十分と言えず、何かあったらあっという間に詰む。
 兄二人がいるにもかかわらず、その妹が継がねばならないのは二人とも婿に行ってしまったからであるらしい。血なまぐさいものも不幸もなくて幸いである。
 なお、悪評と言えるものはほとんどなかった。

「悪くない相手だが、財政が問題あり過ぎる」

 普通の政略結婚も兼ねての打診であろうとラムスは結論付けた。結婚相手の兄が同じ騎士団に所属しており、紹介でもされたのかもしれない。

「そうだな。
 婿にというが、財政の援助と引き換えに当主としての座をもらうほうがいいかもしれん。そうすれば持参金替わりに色々持たせられる。最終的な実権の有無は二人で決めてもらえばいい」

「そういう感じよね。ある程度、てこ入れすればよくなりそうだから」

 ラムスは一枚目には条件、二枚目には持参金や支援を書いた手紙を書いた。
 封をする前に、ラムスは誰かに呼ばれた気がして席を立った。部屋の扉を開けても誰もいなかった。おかしいなとあたりを見回している間に、ひらりと風が吹き込んで、机の上に置かれた手紙を封筒に入れた。一枚だけ。

「気のせいか」

 そうつぶやきつつ席に戻ったラムスは手紙が入った封筒を目にする。いれただろうかと疑問を覚えながら中身を確認することもなく、封をした。

 一枚入れそこなった手紙を発見するのはその二週間後である。

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