ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定

放逐された王子の新しいパーティ作りの試み

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 おかしい。やはりおかしい。
 俺はエスターライヒの第一王子のはずだ。だから、だからええと、なんだ。こんなはずはないんだ。俺も前世で『幻想迷宮グローリーフィア』のパーティにウォルターを加入させたことはある。そんなに頻繁じゃないが、ウォルターは俺のイメージでな能天気なハッピーキャラだった。デフォルトで無駄に幸せそうな少しむかつくタイプ。
 つまり俺の今の現状とゲーム内のキャラクターの整合性が全くとれていない。

 前提を考え直そう。ここは『幻想迷宮グローリーフィア』だ。それは間違いない。そして俺は攻略対象のエスターライヒ国第一王子ウォルター=エスターライヒだ。そしてこのゲームの主人公は俺ではなくマリオン・ゲンスハイマーだ。
 グローリーフィアで規定されるウォルターのハッピーエンド。それは当然といえば当然だが主人公との結婚エンドのみだ。他の攻略対象も同様だろう。だからゲーム内に現れる各攻略対象の行動は主人公に対するものに限定されてそれに集約され、相性はあるものの攻略対象同士の行動や好感度といったものには直接反映されるものではない。当然だ。それどころか検討もされていないだろう。
 それを見落としていた。

 だから俺が主人公と同じ行動をとっても主人公と同様に他の攻略対象に好かれるわけではない。それを履き違えていた。
 よく考えなくても主人公とハンナとカリーナ、ザビーネは同性であり、いわば女同士のパーティだ。その状況でのパーティの雰囲気と、男がその中心に一人入ったハーレムパーティの雰囲気とは大きく違って当然だ。

 そして、おそらくカリーナとハンナ、ザビーネと俺との関係の修復は不可能だ。
 今後何があってもザビーネが戻ってくることはないだろう。既に壊れてしまったのだから。
 そうすると俺はどうするべきなのか。ここから新しく誰かと関係を作り直すとしても、俺には既にパーティを組む余地がない。このあいだ冒険者ギルドに行ったがその雰囲気は一層酷いものだった。誰も彼もが俺を蔑んだ目で見る。もはやギルド経由で新しいパーティを組むなど不可能だ。絶望的だ。そうするとパーティメンバーはギルド以外で見つける他ない。
 そして俺の名誉が回復されるためにはグローリーフィアを攻略するしかなさそうだ。それほど俺を取り巻く空気感は酷かった。

 もう目的はハーレムエンドではなくこのゲーム、ダンジョン攻略に絞ろう。ゲームでは純粋ダンジョン攻略エンドもある。そのルートでは主人公は爵位を与えられてその後も楽しく暮らした、はずだ。そんなモブエンドをわざわざプレイしたことはないがそう聞いている。

 まずは戦力分析だ。
 回復のカリーナはともかくハンナは単体でもそれなりに強い。ハンナはアタッカーとタンクを兼ねるキャラだ。スピード、器用さ、それから魔法関係の能力は低いが放っておけば足止めとしては十分だ。カリーナで回復を重ねがけしていけばものすごく時間はかかるけれども最終的には大抵の敵を攻略することは出来るだろう。だが。

 けれどもここはエンディング後の世界線だ。俺はこの世界で前世の記憶を取り戻した時、主人公以外の様々な貴族のパーティがダンジョン攻略をしていることも知った。主人公パーティ以外でもダンジョンに潜る者は多い。
 それはそもそも主人公の攻略対象、つまりゲームに置いても危険なダンジョンに潜ろうとする者が多いことからも明らかだろう。まあ、ダンジョンには財宝も資源もたくさんあるんだから。

 そしておそらくゲーム終了時点までは主人公が優先的にクリアできるよう、他のパーティは主人公より先に攻略しないというキャップがはめられていたような気はする。
 が、今はすでにない。1年という制限期間は超えてしまった。だからザビーネの実家パーティは俺たち主人公のいたパーティより進んでいたし、だからこそザビーネも実家のパーティに戻っていったのだろう。
 俺たちと攻略するより実家のパーティで攻略するほうが有利に攻略できるだろうからな。
 だからこのままでは恐らく他のパーティが俺や主人公より速く魔王グローリーフィアに到達し、このゲームをクリアしてしまう。そうするともうどうしようもなくなる。本当に。

 やはりハンナだけでは火力がたりない。適正なパーティ人数は4人から6人だ。ギルド以外で使える人材を募ろう。もはや男でもかまわない。好みじゃなくても構わない。
 手近なのは妹のエリザベート=エスターライヒ。つるぺた幼女風のグラフィックで好みじゃないが魔法スキルはザビーネを超える。それから弟のアルバート=エスターライヒ。スペックは俺の上位互換みたいなキャラだが博学でモンスターの弱点看破やバックアタック、地形バフに陽動なんかのスキルを持っていた気がする。

 兄弟仲はそれほど悪くなかったような記憶がある。この2人ならウォルター自身がすでに人間関係を築いているはずだ。だからパーティ勧誘は可能じゃないだろうか。ここにハンナとカリーナを加える。今度はきちんと平民として扱い、言動に気をつける。 この5人パーティでクリアする。それでどうか。
 よし、その方針でいこう。そう思ってひさしぶりに朝食に向かう。最近はいつも時間を外して会わないようにしていたが、この時刻に食堂に向かえば2人はいるはずだ。

 宮廷の廊下に差し込む朝の光が不必要に眩しい。
 俺たち3人は共同生活をしていた。食事は3人でとる。だから行けば会える。いた。
 2人は少し驚いたような顔をして、そして気まずそうに目を逸らせた。心にシークレットダメージが入る。けれどもなんとしても勧誘しなければならない。そうしないと俺に未来はない。

「おはよう、エリザベート、アルバート」
「おはよう、ウォルター」
「おはよう。この時間に会うのは久しぶりね」
「そうだな。それで2人に相談がある。ダンジョンをのことだ」

 2人は再び顔を見合わせる。その表情はよくわからない。俺は前世でこの2人を入れて攻略したことはない。だからこの表情がどういう意味を持つのかを図りかねた。
 だが2人とも主人公の攻略対象だ。ということは2人ともダンジョンを攻略する意思はあるはずだ。だがこれは主人公の攻略ルートではなく俺の攻略ルートだ。だからアプローチは慎重にしなければならない。

「ウォルター、その話は後にしよう。今は朝食だ」
「ウォルターも朝食後に召集されているでしょう? その際に」
「そ、そうだな」

 カチャカチャと静かにカトラリーが動く音だけが響く。
 なんだか妙に静かだ。
 記憶が戻る前はどうだっただろう。その時もこれほど静かだっただろうか。
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