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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定
突然の言い渡しと閉ざされた輝かしき未来
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「ウォルターを廃嫡とし、第一王子をアルバート、第二王子をエリザベートとする」
「第一王子、謹んで拝命致します」
「第二王子、謹んで拝命致します」
「ちょ、ちょっと待って下さい父さん」
「父さん、か。私は今、王としてお主に話している。その分別ももはやつかぬか」
謁見の間において、居並ぶ臣下はこれまでの蔑むような表情ですらなく、最早沈痛な面持ちになっていた。
何故だ⁉︎ 俺は第一王子だ。
そういう設定のはずだ。その設定は『幻想迷宮グローリーフィア』でも1度も動いていない。
「マ、マリーと結婚したからですか⁉︎ それなら俺は」
「そうだな、マリオン嬢には大変申し訳ないことをした。男爵令嬢では第一王子からの婚姻申込みなど拒否することも出来なかったのだろう。まして冒険者などに身をやつしていればなおさら」
「な、なんで。何故なんです父さん」
「控えよウォルター・ビアステット」
玉座に駆け上ろうとする俺の前にアルバートが進み出て遮った。ビアステット? なんだっけ。聞いたことがあるような。
なんだ? 何が起こっている?
「ウォルター。そなたは最早王族ではない。ゆえに王族としての権利は全て剥奪とする。今後は三の塔で過ごすがよい。それからマリオン嬢との婚姻は全てなかったこととし、その名誉の回復はわしが全て行おう」
王族としての権利? それは何だ?
統治権、治外法権、外交特権、それからええと? それに三の塔?
何を言っている? よくわからない。
「あ、あの、俺は必ずダンジョンを攻略してみせます! そうしたら」
「ウォルター・ビアステット。その権利はすでにそなたから剥奪された。以降の探索は第一王子たる私が引き継ぐ」
「そんな、アルバート、それはおかしい。だって俺は第一王子で」
「やめなさいウォルター。それ以上の不敬があってはなりません。あなたはアルバート王子とエリザベート王子にこれまでどれほど庇われていたのか……最早わからないのでしょうね」
その、口惜しそうな声の主を見る。確か……王妃だ。俺の母親のはずだ。
そうだ、確かこの王妃の名前がレイテ・ビアステット。ビアステット公爵家。
その名前に慄く。この国エスターライヒではなく母の公爵家の氏。エスターライヒ性は王位継承権がある者のみに冠されるのだ。
俺は既にウォルター=エスターライヒではない? 王子ですらない? まさか。そんな。
「ウォルター。そなたは今後は臣下としてなすべきことをなすが良い。以上だ」
そう述べて王とアルバート、エリザベートは玉座の背後に立ち去ろうとした。
俺もと思って追いかけると王妃が鎮痛な面持ちで止める。
「ウォルター、あなたはもうこの通路は使用できぬのです。王族のみに使用できる通路は。臣下としての暮らしなどわからないでしょうが、教師をつけます。従者も新たに理解のあるものをつけましょう。どうぞ、お元気で。お父様、後はよろしくお願い致します」
王妃はそう言って奥に去ろうとした。それを追いかける自分の前に近衛兵が素早く立ち塞がる。何故だ。何故近衛が俺を遮る。……既に俺は近衛に、王族として守られる対象でもないの……か。
何故だ。俺は王子だぞ。王子じゃないのか?
呆然としていたら肩に手をかけられた。振り向くと、背の高い老年の紳士が立っていた。
確か……ビアステット公爵?
……俺の祖父にあたるのか。
「あの、俺は」
「よいのだ。何が起こっているのかわからぬのだろう?」
「はい……」
「お主は気づいておらなかったようだが、医者や精霊術師、呪術師、ありとあらゆる者にお主を見せたのだ。けれども何ら異常は見つからなかった。どういう作用なのかわからぬが、治療方法がわからない以上は不具者を王族としておくことはできぬのだ」
「ふ、不具? 俺は」
ビアステット公爵は優しそうな、そして悲しそうにも見える角度に眉を顰めた。
「今後については落ち着いてから考えよう」
「あの、俺は、俺の不具とは一体何なのでしょうか」
「それもわからぬということ自体が不具なのだ。この国を任せることはできない。今後は追って考えようか。……何か希望するものややりたいことがあるかね」
「やりたいこと……俺はダンジョンに潜らなければ」
「ふう、やはり原因はダンジョンなのか。ダンジョンか魔王がお主を狂わせたか。しかしお主を公爵家のパーティにも加えることはできぬ。そして公爵家から冒険者などを出すわけにもいかぬ」
公爵家としても、冒険者としても、俺はもうダンジョンに潜れない?
まさか。馬鹿な。それじゃあ俺はどうやってこれまでをリカバーすればいいんだ。もうダンジョンに潜るしかなかったのに。
だけれどもダンジョンの探索権、探索許可証は剥奪された。おそらくビアステット家以外のどこかの貴族家のパーティに加わることは絶望的だろう。何故なら俺を加えても戦力には全くならないのだから。そして俺の価値であった第一王子という身分は剥奪された。
それでもダンジョンに潜るには、潜るには、潜るには……探索許可証を持っている者……そうだ。
「マリーに会いたい」
「ふむ、そうだな。最後に挨拶くらいは必要かもしれぬな」
「第一王子、謹んで拝命致します」
「第二王子、謹んで拝命致します」
「ちょ、ちょっと待って下さい父さん」
「父さん、か。私は今、王としてお主に話している。その分別ももはやつかぬか」
謁見の間において、居並ぶ臣下はこれまでの蔑むような表情ですらなく、最早沈痛な面持ちになっていた。
何故だ⁉︎ 俺は第一王子だ。
そういう設定のはずだ。その設定は『幻想迷宮グローリーフィア』でも1度も動いていない。
「マ、マリーと結婚したからですか⁉︎ それなら俺は」
「そうだな、マリオン嬢には大変申し訳ないことをした。男爵令嬢では第一王子からの婚姻申込みなど拒否することも出来なかったのだろう。まして冒険者などに身をやつしていればなおさら」
「な、なんで。何故なんです父さん」
「控えよウォルター・ビアステット」
玉座に駆け上ろうとする俺の前にアルバートが進み出て遮った。ビアステット? なんだっけ。聞いたことがあるような。
なんだ? 何が起こっている?
「ウォルター。そなたは最早王族ではない。ゆえに王族としての権利は全て剥奪とする。今後は三の塔で過ごすがよい。それからマリオン嬢との婚姻は全てなかったこととし、その名誉の回復はわしが全て行おう」
王族としての権利? それは何だ?
統治権、治外法権、外交特権、それからええと? それに三の塔?
何を言っている? よくわからない。
「あ、あの、俺は必ずダンジョンを攻略してみせます! そうしたら」
「ウォルター・ビアステット。その権利はすでにそなたから剥奪された。以降の探索は第一王子たる私が引き継ぐ」
「そんな、アルバート、それはおかしい。だって俺は第一王子で」
「やめなさいウォルター。それ以上の不敬があってはなりません。あなたはアルバート王子とエリザベート王子にこれまでどれほど庇われていたのか……最早わからないのでしょうね」
その、口惜しそうな声の主を見る。確か……王妃だ。俺の母親のはずだ。
そうだ、確かこの王妃の名前がレイテ・ビアステット。ビアステット公爵家。
その名前に慄く。この国エスターライヒではなく母の公爵家の氏。エスターライヒ性は王位継承権がある者のみに冠されるのだ。
俺は既にウォルター=エスターライヒではない? 王子ですらない? まさか。そんな。
「ウォルター。そなたは今後は臣下としてなすべきことをなすが良い。以上だ」
そう述べて王とアルバート、エリザベートは玉座の背後に立ち去ろうとした。
俺もと思って追いかけると王妃が鎮痛な面持ちで止める。
「ウォルター、あなたはもうこの通路は使用できぬのです。王族のみに使用できる通路は。臣下としての暮らしなどわからないでしょうが、教師をつけます。従者も新たに理解のあるものをつけましょう。どうぞ、お元気で。お父様、後はよろしくお願い致します」
王妃はそう言って奥に去ろうとした。それを追いかける自分の前に近衛兵が素早く立ち塞がる。何故だ。何故近衛が俺を遮る。……既に俺は近衛に、王族として守られる対象でもないの……か。
何故だ。俺は王子だぞ。王子じゃないのか?
呆然としていたら肩に手をかけられた。振り向くと、背の高い老年の紳士が立っていた。
確か……ビアステット公爵?
……俺の祖父にあたるのか。
「あの、俺は」
「よいのだ。何が起こっているのかわからぬのだろう?」
「はい……」
「お主は気づいておらなかったようだが、医者や精霊術師、呪術師、ありとあらゆる者にお主を見せたのだ。けれども何ら異常は見つからなかった。どういう作用なのかわからぬが、治療方法がわからない以上は不具者を王族としておくことはできぬのだ」
「ふ、不具? 俺は」
ビアステット公爵は優しそうな、そして悲しそうにも見える角度に眉を顰めた。
「今後については落ち着いてから考えよう」
「あの、俺は、俺の不具とは一体何なのでしょうか」
「それもわからぬということ自体が不具なのだ。この国を任せることはできない。今後は追って考えようか。……何か希望するものややりたいことがあるかね」
「やりたいこと……俺はダンジョンに潜らなければ」
「ふう、やはり原因はダンジョンなのか。ダンジョンか魔王がお主を狂わせたか。しかしお主を公爵家のパーティにも加えることはできぬ。そして公爵家から冒険者などを出すわけにもいかぬ」
公爵家としても、冒険者としても、俺はもうダンジョンに潜れない?
まさか。馬鹿な。それじゃあ俺はどうやってこれまでをリカバーすればいいんだ。もうダンジョンに潜るしかなかったのに。
だけれどもダンジョンの探索権、探索許可証は剥奪された。おそらくビアステット家以外のどこかの貴族家のパーティに加わることは絶望的だろう。何故なら俺を加えても戦力には全くならないのだから。そして俺の価値であった第一王子という身分は剥奪された。
それでもダンジョンに潜るには、潜るには、潜るには……探索許可証を持っている者……そうだ。
「マリーに会いたい」
「ふむ、そうだな。最後に挨拶くらいは必要かもしれぬな」
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