ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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8章 このゲームはこの世界のどこまで影響を及ぼしているのか

そのことによって気付かされた、より大きな異常

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「ウォルターのパーティには騎士と賢者がいる。賢者というものは1国の軍に相当する戦力たりうると言われている。だから5人でもアイス・ドラゴンを撃破しえたのだろう」
「そうはいっても……」
「それからマリオン嬢は私と同じくバッファーだ。強力な戦力である2人を底上げしているのだろう。戦略が異なるんだ。加えて術式装備を開発している」
「あれは確かに素晴らしい効果があるわ」
「その他にも市井の商人同士協力して色々と開発をしているらしい。だから私がダンジョンに潜り直す間、新しい技術の開発、特に国外の技術の調査と取り入れをお願いしたい」

 不凍ゴーグルというものは素晴らしいものだった。
 アレグリット商会が手に入れた不凍スライムというものが原料となっているそうだ。アレグレットは国外から来た吟遊詩人だそうだ。国外であればこの国に存在しない知識や技術があるのだろう。ダンジョン攻略に役立つような。
 だからエリザベートにはそのような素材、技術、魔法、何でも良いがダンジョンを倒せるものを探して欲しい。そこでふと気がつく。結局私はマリオン嬢に張り合っているわけだ。思っていたより私には子供っぽい部分が多いなと最近思う。
 けれどもそれは頓挫した。

「アルバート、国外に出られないの」
「どういうことだ?」
「わからない、わからないけれどこの国はこの国内に閉じ込められている」

 その報告は国王を始めとしたエスターライヒ首脳部を混乱の渦に叩き落とした。
 本格的な調査が行われ、何人もの研究者が仮に『結界』と名付けられたその境界を調査したが、国内の者は誰も出られなかった。そもそもその『結界』まで近寄ることが困難なのだ。未知の力で認識が阻害され、いつのまにか回れ右をして戻っている。
 けれども外国から来た商人は『結界』の外から訪れ、そして『結界』の外に出ることができる。
 そしてこの極めて重要な事実は、即座に王国会議に諮られた。

「エリザベート、これはどういうことなのだ。一体いつからなのだ」
「王に申し上げます。原因については未だ調査中でありますが、時期はおそらく1年半程前、グローリーフィアが発生した前後と思われます」
「何故、何故そんな重大なことに誰も気づかなかったのだ、1年半だぞ。商人などから相談や報告もなかったのか」
「グローリーフィア発生から1月ほどは国外に出られないという申立てが多発したそうです。けれどもその時期はグローリーフィアの発生で国の全ての機関が麻痺し、対ダンジョン以外は後回しにされました。そして2ヶ月も経つうちには誰も申し立てをしなくなり、後ほど管轄部署が申立者に確認したところ、問題は無くなったと申立は取り下げられています。そして今回改めて申立者に再調査しましたが、そもそも申し立てたことを失念しておりました」

 議場は理解できない、というようにどよめいた。私もそうだ。エスターライヒは当然ながら他国と接している。そして物品の往来がある。
 そんな長期間、他国との交流が途絶えているとは思えない。けれどもその詳細についてもエリザベートなら調査しているだろう。

「魔法卿、それでは国が成り立たないのではないか」
「軍務卿、それでもこの国は回っていたのです。そもそもエスターライヒには十分な山河水系が存在し、農業も大きく栄えています。つまり国内でその経済を回し完結することが可能です。究極的には他国との取引がなくとも成り立ちうるのです」
「そうは言っても貴金属や貴重な素材など手に入らぬものがあるだろう?」
「ええ、それらは国外からの輸入によって賄われていました」
「輸入……ということは国内の輸出業者はどうなっているのだ。国外に出られないのであれば商売が継続できぬだろう」
「そのような商売形態の者が主に多く申立をしていたのですが、そのうち国外から訪れる業者を通じて代理購入委託を行い、あるいは継続的取引が見込める場合は国外業者が直接買い付け、輸入されたものを購入販売することで現在は生計を賄っているようです」
「それでは収入が減るだろう?」
「ええ、けれども今は非常事態なのです」

 非常事態という言葉に再び議場が揺らめく。
 確かに国外に出られないのは大きな非常事態だ。けれどもそれは1年半前から継続している。

「それならますます、問題は何ら解決していないのではないか?」
「いえ、軍務卿。そんなことより大きな非常事態があるのです。皆様、どなたか気づかれる方がおられますか。私も気づいておりませんでした」

 非常事態。
 他に非常事態というとウォルターの廃嫡。第一王子が廃嫡となるなど、この国の歴史にも類を見ないことだ。周辺にもほとんどないだろう。そしてその原因に思い至る。グローリーフィア迷宮。迷宮がウォルターを狂わせた。そして私をも。
 けれども迷宮自体は安定している。スタンピートや魔王の侵略などはずっと起きていない。それはなんだか私の中では起きないことと既に確信めいている。
 既に? 何故だ。
 ダンジョンはまだできて1年半だ。予断を許さない。けれどもずっと平気だった。いや、『ずっと』とはいつからだ。

「エリザベート、グローリーフィアはいつからあるのだ」
「さすがアルバート。お気づきになられましたか」
「アルバート、エリザベート一体どういうことだ」
「王よ。ここからは魔法卿ではなく王子エリザベートとして申し上げます。グローリーフィアが発生したのはおよそ800年前です」
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