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8章 このゲームはこの世界のどこまで影響を及ぼしているのか
私達にとっての世界の根幹の変更
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誰かの怒声が響き渡る。閉塞、鬱屈、行き場のなさ。そしてわけのわからない、存在。
マリオン嬢とは何なのだ。
マリオン嬢しかダンジョンを討伐できないとすれば、私が今潜っていることは無意味なのだろうか。
様々な記録を見た。そしてその中には驚くべきことに、私とマリオン嬢がパーティを組んでグローリーフィアを倒した記録があった。そしてともに倒せないまでも、マリオン嬢と結婚したという記録も。
だから私はマリオン嬢に惹かれるのだろうか。けれどもマリオン嬢がパーティを組む人間はこの国の中で多岐に渡っていた。何百人という規模で。
「ともかくどうすればいいのだ」
「魔法部は資料を収集しながら魔女様にアクセスする方法を試みます」
「魔女様に? 地脈を通じればよいのではないか?」
「それが800年の間に、正確に言うと最初の巻き戻しの直前にこの領域の魔女様が変更になっています。『灰色と熱き鉱石』の魔女様から『泥濘とカミツレ』の魔女様に」
そのざわめきはこれまでで最も大きかった。
魔女という存在はこの国だけではなくこのあたり一帯の、つまりマジカ・フェルムと名付けられたこの巨島全ての魔力を調整してる。いわば魔力の基礎となる方だ。その魔女様が変わってわからないはずがないだろう。なにせ呪文を行使するためには……。
呪文?
「最初に気づくべきは私の魔法部だったのです。祈りの呪文が変更されていたことに何故気づかなかったのか。そこに気がつかないほど、気づかぬまま過ぎ去った800年という時間は長かった」
「祈りの呪文、だと?」
「えぇ。王よ。私たちは呪文を行使する時、その魔力の源に通ずる魔女に祈って魔法を行使します。私たちは1年半より前は『灰色と熱い鉱石』の魔女に祈っていたのに、今は『泥濘とカミツレ』の魔女に祈っています。これは魔法を使わない方にはあまりご理解いただけない概念かもしれませんが、武で例えれば片手斧と両手剣程度に使用感が異なると言われます」
「それほど異なれば使い物にならないだろう」
「ええ、アルバート。けれども私たちは800年かけて、いえ、本当はもっと早くにでしょうけれど、新しい魔女様の武器に慣れたの。今は元の『灰色と熱い鉱石』の魔女様の術式が使いにくく感じるほどに」
私は魔法のことはよくわからぬが、武器というものは鍛錬によって自らの身体と同じく扱えるようになるものと認識している。そうすると、体に染み込むようにその『泥濘とカミツレ』の魔女様の術式がその身に、そしてこの領域に染みているということなのだろうか。
「それよりエリザベートよ。『灰色と熱い鉱石』の魔女様はどうされたのだ。何故新しい魔女様に代わられたのか」
「それもおおよそのことは外国の国使より伺いました。私たちの繰り返しの1年が始まる前に『空白の1月』が存在するのです」
その内容も想像を遥かに超えるものだった。
私たちが認識する2年前までは、この島一帯が『灰色と熱い鉱石』の魔女様の領域だった。
ところがある時、国外で大厄災と呼ばれる災禍が発生した。この島南部の上空、つまりエスターライヒから見ると真東のほど近い位置に次元の穴とでもいうべき大穴が開いたらしい。そしてその穴からさまざまなものが落下し、そしてこの地の多くの魔力が吸い上げられた。その時この地の魔力が枯渇しかけた。
『灰色と熱い鉱石』の魔女様はその魔力の流出を防ぐためにこの島全体に結界を張り巡らせ、他の魔女様の救援を求めた。その間、カレルギア帝国の第3皇子アブソルト=カレルギアが『灰色と熱い鉱石』の魔女様から使命を受けて穴を塞ぐための結界を張り続けて命を落としたそうだ。
私はかつて外交の席でアブソルトと会ったことがある。何やら暗く偏屈な印象を受けた。だがそれから既に800年も経過しているのか。私たちが知る者は国外には既に誰も存在しないのだろうか。それほどの時間が経過している、というのか。愕然とする。私が見知っていた者はこの国内にいる者以外誰もいないということにも。
そして新しく訪れた4人の魔女様を含めた5人の魔女様が共同統治し『泥濘とカミツレ』の魔女様がエスターライヒが存在する島南西部をその統治領域とされたらしい。
議場には困惑しかなかった。
それが事実だとすれば、私たちが知らない間に世界が一度滅びかけたということだ。
「ともあれ、調査を続けよう。私たちが今、どのような状況に置かれているのかを」
「ええ、アルバート。私も調べてみます」
そして会議が終わった後、王とエリザベートと協議した。アレグリット・カッサールの申し入れについて。
記録を紐解くと、そもそも2年目にエスターライヒに残っていた外国の商人というものの記録がないのだ。戦闘職や冒険者がグローリーフィアを倒すためにエスターライヒに残ることはあっても、戦力にならない商人などは危険を恐れてほぼ全てが国外に退去した。或いは安定した後に行商という形でエスターライヒを訪れることになった。
だからアレグリットたちは何らかの理由で、彼らの本職は吟遊詩人と踊り子というのだからおそらくダンジョンを歌や踊りにしようとして、2年目までエスターライヒを去らなかったのだろう。
資料の閲覧については当たり障りのないものについては許可することにした。都度判断する必要があるが、外国の者の知識というのもまた、この事態の解明に必要であると考えたから。
そして何より、この国の誰よりも早くアレグリットがこの異常に気がついたからだ。
マリオン嬢とは何なのだ。
マリオン嬢しかダンジョンを討伐できないとすれば、私が今潜っていることは無意味なのだろうか。
様々な記録を見た。そしてその中には驚くべきことに、私とマリオン嬢がパーティを組んでグローリーフィアを倒した記録があった。そしてともに倒せないまでも、マリオン嬢と結婚したという記録も。
だから私はマリオン嬢に惹かれるのだろうか。けれどもマリオン嬢がパーティを組む人間はこの国の中で多岐に渡っていた。何百人という規模で。
「ともかくどうすればいいのだ」
「魔法部は資料を収集しながら魔女様にアクセスする方法を試みます」
「魔女様に? 地脈を通じればよいのではないか?」
「それが800年の間に、正確に言うと最初の巻き戻しの直前にこの領域の魔女様が変更になっています。『灰色と熱き鉱石』の魔女様から『泥濘とカミツレ』の魔女様に」
そのざわめきはこれまでで最も大きかった。
魔女という存在はこの国だけではなくこのあたり一帯の、つまりマジカ・フェルムと名付けられたこの巨島全ての魔力を調整してる。いわば魔力の基礎となる方だ。その魔女様が変わってわからないはずがないだろう。なにせ呪文を行使するためには……。
呪文?
「最初に気づくべきは私の魔法部だったのです。祈りの呪文が変更されていたことに何故気づかなかったのか。そこに気がつかないほど、気づかぬまま過ぎ去った800年という時間は長かった」
「祈りの呪文、だと?」
「えぇ。王よ。私たちは呪文を行使する時、その魔力の源に通ずる魔女に祈って魔法を行使します。私たちは1年半より前は『灰色と熱い鉱石』の魔女に祈っていたのに、今は『泥濘とカミツレ』の魔女に祈っています。これは魔法を使わない方にはあまりご理解いただけない概念かもしれませんが、武で例えれば片手斧と両手剣程度に使用感が異なると言われます」
「それほど異なれば使い物にならないだろう」
「ええ、アルバート。けれども私たちは800年かけて、いえ、本当はもっと早くにでしょうけれど、新しい魔女様の武器に慣れたの。今は元の『灰色と熱い鉱石』の魔女様の術式が使いにくく感じるほどに」
私は魔法のことはよくわからぬが、武器というものは鍛錬によって自らの身体と同じく扱えるようになるものと認識している。そうすると、体に染み込むようにその『泥濘とカミツレ』の魔女様の術式がその身に、そしてこの領域に染みているということなのだろうか。
「それよりエリザベートよ。『灰色と熱い鉱石』の魔女様はどうされたのだ。何故新しい魔女様に代わられたのか」
「それもおおよそのことは外国の国使より伺いました。私たちの繰り返しの1年が始まる前に『空白の1月』が存在するのです」
その内容も想像を遥かに超えるものだった。
私たちが認識する2年前までは、この島一帯が『灰色と熱い鉱石』の魔女様の領域だった。
ところがある時、国外で大厄災と呼ばれる災禍が発生した。この島南部の上空、つまりエスターライヒから見ると真東のほど近い位置に次元の穴とでもいうべき大穴が開いたらしい。そしてその穴からさまざまなものが落下し、そしてこの地の多くの魔力が吸い上げられた。その時この地の魔力が枯渇しかけた。
『灰色と熱い鉱石』の魔女様はその魔力の流出を防ぐためにこの島全体に結界を張り巡らせ、他の魔女様の救援を求めた。その間、カレルギア帝国の第3皇子アブソルト=カレルギアが『灰色と熱い鉱石』の魔女様から使命を受けて穴を塞ぐための結界を張り続けて命を落としたそうだ。
私はかつて外交の席でアブソルトと会ったことがある。何やら暗く偏屈な印象を受けた。だがそれから既に800年も経過しているのか。私たちが知る者は国外には既に誰も存在しないのだろうか。それほどの時間が経過している、というのか。愕然とする。私が見知っていた者はこの国内にいる者以外誰もいないということにも。
そして新しく訪れた4人の魔女様を含めた5人の魔女様が共同統治し『泥濘とカミツレ』の魔女様がエスターライヒが存在する島南西部をその統治領域とされたらしい。
議場には困惑しかなかった。
それが事実だとすれば、私たちが知らない間に世界が一度滅びかけたということだ。
「ともあれ、調査を続けよう。私たちが今、どのような状況に置かれているのかを」
「ええ、アルバート。私も調べてみます」
そして会議が終わった後、王とエリザベートと協議した。アレグリット・カッサールの申し入れについて。
記録を紐解くと、そもそも2年目にエスターライヒに残っていた外国の商人というものの記録がないのだ。戦闘職や冒険者がグローリーフィアを倒すためにエスターライヒに残ることはあっても、戦力にならない商人などは危険を恐れてほぼ全てが国外に退去した。或いは安定した後に行商という形でエスターライヒを訪れることになった。
だからアレグリットたちは何らかの理由で、彼らの本職は吟遊詩人と踊り子というのだからおそらくダンジョンを歌や踊りにしようとして、2年目までエスターライヒを去らなかったのだろう。
資料の閲覧については当たり障りのないものについては許可することにした。都度判断する必要があるが、外国の者の知識というのもまた、この事態の解明に必要であると考えたから。
そして何より、この国の誰よりも早くアレグリットがこの異常に気がついたからだ。
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