ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

Tempp

文字の大きさ
148 / 234
8章 このゲームはこの世界のどこまで影響を及ぼしているのか

サンダー・ドラゴンとの決戦 2

しおりを挟む
 気楽に言ってくれるぜ。
 けれども主人公はこのマリーなのだ。このゲームの世界では未だ、それは如何ともし難いことだろう。バグは外縁からこの世界を破壊するのだろうけれど、マリーはその中心にいるんだから。
 ばくばくする心臓をなるたけ無視してニーヘリトレの檻を飛び出す。
 サンダードラゴンは長い首を伸ばして腹立たしげに唸り声を上げている。さっきから檻の内側に上手く雷をおとせずに苛ついているようだ。
 ……サンダー・ドラゴン。俺を見ろ。
 そう思うと途端にサンダー・ドラゴンの視線がギョロリと俺を向く。
 圧がスゲェ。体の周りがピリピリと余計に帯電する。
 おそらく俺に雷撃をターゲッティングしようとしているのだろう。俺を狙った雷は二股に別れてニーへリトレの避雷針と壁に打ち込んだ集雷ポイントに別れて落ちた。けれども檻から離れるごとに俺の近くに落雷する割合が増えていく。
 大丈夫だろうな、俺のラック。急に不安になり足元がぐらりと揺らぐ。落ち着け、俺。考えたって仕方がない。もうやるしかない。こんな一か八かなんて大嫌いだ。
 狙いが定めづらくなるよう縦横に走り続ける。あんまり体力があるタイプでもないんだけどな。
 雷撃が近くに落ちるたびに俺の耳はその轟音で効かなくなり、視界は白に染まる。糞。なんで俺ばっかりこんな役なんだよ。もっといい目を見てもいいんじゃないか。そんな愚痴が沸き起こるけれど、至近に落ちる雷がもたらすヒリヒリとする恐怖にどんどん心は埋め尽くされていく。
 こんな中で当てないといけないのかよ。糞。

 懐からスリングを取り出し弾をセットする。
 投石というものは古典的な武器だが訓練期間が短くて済むという大きな利点がある。それに飛距離も威力も並の弓を超える。
 確か前世のギネス記録が500メートル弱だったはずだ。
 そこにマリーがスリングに刻んだ飛距離アップの術式と、弾に刻んだ貫通力アップの術式。そしてこれに俺のラックを乗せる。このフィールドで試した時、1キロ先のワイバーンに命中した。
 だからあのサンダー・ドラゴンにも当たる。
 振り返ると悠然と周囲を見回すサンダー・ドラゴンと目が合い、その瞬間視界が真っ白に埋め尽くされた。畜生!

 腕に力を込める。スリングを振り回す。
 この弾は当たる。
 当たる。
 当たる。
 当たる。
 絶対に当たる。
 必ず当たる。
「当たらなきゃやってらんねぇ!」

 そう叫んで真っ白な視界の中で振り抜いたスリングは、間もなくギャウという音で命中を知る。
 チカチカした視界が僅かに戻ると再び視界は白くなる。また新しい雷が近くに落ちたんだろう。足が地面を伝わってくる雷にピリリと揺れる。
 もう知るかよ。
 どうせ見えねぇ。
 でも当たるんだ。
 必ず当たる。
 当たる。
 投擲スキルなんかなくても、目なんかみえなくても俺は俺のラックで当てる。
 ……でも当たってるのかな。さっきからサンダー・ドラゴンの声は聞こえない。というかもはや何も聞こえない。
「糞! わかんねえ!」

 そう叫んだが自分の声も骨から伝わるくぐもった音がするだけで、耳からは聞こえなかった。
 ああそうか。単純に耳が死んだのか。耳と頭がじんじんと痛い。鼓膜が破れてるんじゃないだろうな。そういえばなんだか頭がくらくらする。足元もふらふらだ。耳が働かないから三半規管も壊れてるんだろうか。いや、そんなことよりとりあえず弾を打つんだ。
 後はもう流れ作業のように走り回りながらスリングを番えてサンダー・ドラゴンがいると思う当たりに狙いをつけて全力で放つ。持ってきた弾は30発。それを粗方打ち尽くした頃、視界は再び戻ってきた。目を上げるとサンダー・ドラゴンの高度が下がっている。
 そうすると……狙いどおりに効いているのか?
 そしてその太い足に何本かの弓が突き刺ささり、サンダー・ドラゴンは大きく体をくねらせた。
 ジャスの弓の命中範囲まで降下してきている。サンダー・ドラゴンが大きくそのあぎとを開き、上空から雷を呼び寄せると、雷の白い筋は不自然な軌道を描いてサンダー・ドラゴンに命中した。
 よし。刺さってる!

 俺が投擲したのは返しのついた銅弾だ。刺さればそのサンダー・ドラゴンの表皮に留まり、雷を集める。避雷針と同様に。
 落雷。それは当然ながら確率論もでかいけれども、近く、大きく、落ちやすいところに落ちるのだ。
 だから上空の雷雲に近ければ近いほど、そこに雷は落ちやすい。サンダー・ドラゴンは落ちる地点を指定する。そこに最も雷が落ちやすくなる。けれども俺は雷の落ちやすい銅弾をサンダー・ドラゴンにたくさん打ち込んだ。
 ここの地形は鍋の底。鍋上空の雷は必ずサンダー・ドラゴンがいる空域を通って落ちて来る。それならば俺たちより上空にいればいるほど、誘電率の高い銅を纏うサンダー・ドラゴンへ落雷する可能性が高まる。だからその雷を避けて、サンダー・ドラゴンはジャスの攻撃が当たる空域まで降りてきた。
 今のヘイトは直接サンダー・ドラゴンに攻撃しているジャスに集まっている。そもそも俺の銅弾はあの分厚い皮膚に食い込めばいい程度のものだから、ダメージはちっとも与えてないだろうから。
 そして先程から雷撃の半分はニーヘリトレの樹冠に落ち、半分はサンダー・ドラゴンに落ちるのを繰り返している。そろそろ雷が効かないことをサンダー・ドラゴンも学習する頃だろう。そうしてようやく、その頭を物理攻撃に切り替える。そしてそれを俺が願う。

 サンダー・ドラゴンは一度ふわりと宙に舞い上がり、角度を変えて急降下を始める。陣の真上にいるジャスを目掛けて。
 ジャスはその巨体を軽々と避けて退き、その着地にニーヘリトレが揺らぐ。けれどもサンダー・ドラゴンは着地した姿勢でグラシアノによって縫い止められ、慌てたように左右を見渡す間にアレクが首を切り落とす。
 それを確認した時、俺は地面に倒れ伏していた。なんだか身体中がだるくて熱い。
 次の瞬間、たくさんの雷雲は次第に薄くなり、未だ残る雲間を突き抜けて細い光が何本も差し込み始める。
 ああ、本当に倒したんだな。
 そう思っているとマリーが駆け寄る姿が見えた。大慌てで滑稽だ。なんだか懐かしいな。なんとなく前世を思い出す。これで胸がでかけりゃな。
 目の前でマリーは口をパクパクとさせている。ああ、そうか、聞こえないんだった。
 なんとか右腕を上げて耳を指さしてから手を振る。驚いたような顔のマリーは急いで俺のフルヘルメットを外してポーションを飲ませる。
 飲めば飲むほど体が痛くて気持ちが悪くなる。体の麻痺が治れば痛みを感じるようになる。
 それでようやく思い当たった。雷の直撃は全て防げたが、近くに落ちすぎた。おそらく側雷撃をそれなりに食らっている。落ちた雷が周囲に飛散した欠片に感電したんだ。雷の時に高い木の近くにいてはならない。その木に落ちた雷が地面を伝って感電するから、というやつだ。ニーヘリトレの檻は十分な安全距離をとって設置したが、自分のことは考えてなかったな。
 無我夢中だったからあまり気にしなかったが、その大部分は耐電装備がなんとかしてくれたのだろう。けれどもそれを僅かに貫通したものが内部の俺に影響を及ぼしている。
 やがてニーヘリトレを解いたソルがやってきて代わりに回復魔法をかけ始める。

「ウィル。よくやった。それにしても何で雷が落ちねぇんだよ。意味わかんねぇ」
「うっせぇ。俺は運がいいんだよ。運魔法だ」
「知らねぇよ。だがお前がパーティにいるのを認めてやることにした。マリーを狙ってないみたいだしな」
「あんなペチャパイ興味ねぇ」

 そこまで言って、意識はふらりと飛んで行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主』

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...