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「はぁ、はぁ、まずい...かなりまずいわ...」


身体のあちこちに傷を負い、肩で息をするリタ。
緋狼を1体首の骨を折り、カタナで刺したものと合わせて2体絶命させることには成功したが、それでもまだ4体残っている。

装備で火属性ダメージを軽減しているとはいえ、傷口が焼けて動きも鈍くなってきた。


緋狼が1体飛び出してくる。


「グハッ!」


ただの体当たりだが、避ける体力も残っていなかった。

身の程知らずに階層を進んだのが間違いだったのかしら。
私はここで死ぬのね...


半ば諦めたリタは地面に横たわり目を閉じた。


「魔法障壁!斬撃、貫通、衝撃耐性付与!火属性ダメージ軽減付与!継続回復付与!」

覚悟した死が来ない。
誰かが魔法を使う声が聞こえ、身体が癒えていく。


「今助けますから!そこを動かないでください!速度、攻撃力上昇!攻撃力、防御力、速度減少付与!」


強い風が吹き、思わず目をさらに強く閉じてしまう。


「もう、大丈夫ですよ」


声が聞こえ目を開くと、緋狼の群れは既に消えていて、目の前の少年から手を差し出されていた。
その光景に思わずぼーっとしてしまう。
やばい、一目惚れしたかも。


「あの、まだどこか怪我してますか?継続回復付与。即効性の回復ができなくてすみません、これでどうでしょうか」

「あっ、いえ、すみません。助けてくれて、あの、ありがとうございます!えっと、その」

「ハハッ、もう大丈夫ですからひとまず落ち着いてください。僕はユーリって言います。あなたのお名前は」

「あ、リ、リタでしゅ!」


やばいかっこよすぎて噛んだ。
恥ずかしすぎる。


「リタさんですね」


噛んだのはスルーしてくれたが、顔が熱くなっているのが自分でもわかる。


「ここから転移ポイントまでお送りしますね」

「いえ、あの、そこまでしていただかなくても、その、申し訳ないです」

「いえいえ、助けた以上、最後までです。それに、その武器、多分もう使えませんよね」

「あ、そうですね...どうしよう...」

「大丈夫です。帰りは僕に任せてください」


ユーリくんの笑顔が眩しくて、その後の記憶がほとんどなかった。
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