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告白-3
しおりを挟むフィリアはアベルに誘導されるまま宮殿の回廊を進んでいく。
先日、大きな武功をあげた若手の騎士と籠りっぱなしだったお飾りの側妃が手をつないでいる光景は異様で、すれちがった人間はみな振り返り首を傾げていた。
アベルが目指したのは宮殿の一番人目につきにくい裏口と呼ばれる扉だった。
扉を開いて短い階段を下りた2人は屋外へ出た。
「よお、アベル」
不意に横から声がかかる。
顔を向けるとそこには鎧姿の男がいた。
その傍らには白い馬が控えている。
「・・・先輩」
思わずアベルが声を漏らす。
「陛下が『裏口あたりから、そのうち出てくるであろうよ』って仰ってたもんでな。仕方ねえから待ってたってわけさ」
そう言って男は白馬を引っ張ってくると手綱をアベルに渡した。
「『退職金代わりに馬と鞍くらいはやる』と陛下が仰せでな。受け取れ」
「ありがとうございます、先輩」
アベルが男に頭を下げる。
「なあアベル、本当にいいのか?このまま残れば将軍だって夢じゃない・・・騎士としてのキャリアに未練は無いのかよ?」
「お気遣いありがとうございます・・・でも、もう決めたんです。俺はフィリア様とともに生きていきます」
男の問いにアベルは穏やかな笑顔で返した。
その様子に男は頭を抱えると大きくため息をついた。
「はあ・・・全く思い切りのよすぎる奴だよ、お前は」
そして男はフィリアの方に視線を向けた。
「フィリア様・・・アベルをよろしくお願いしますぜ。こいつ、出来はいいんだが妙に危なげなところがあるんでね」
「・・・はい、不束者ですが頑張ります」
「そんじゃ、この辺でお暇しますかね・・・息災でな、アベル」
そうして男は先ほど2人が出てきた扉から宮殿の中へと消えていった。
再び2人だけになった。
アベルは無言で馬に跨ると手を差し出す。
フィリアはアベルの手に助けられながら馬に跨り、アベルの体に両腕を回した。
「ありがとうアベル、私のために・・・」
「俺がしたくて選んだことですから気にしないでください・・・行きますよ」
アベルが手綱を打つと、白馬は駆けだした。
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アベルとフィリアが出発してしばらく。
「ねえアベル、今更だけど行くあてはあるのかしら?」
馬上のフィリアがアベルの背中に尋ねる。
「俺の故郷・・・帝国西方に行こうと思います。あそこなら土地勘もありますし、鉱山の開発が盛んなので男なら誰でもそれなりに稼げますから」
一旦アベルは言葉を切った。
「身分に見合った贅沢をさせてあげるのは難しいでしょうが、何とか俺がフィリア様を養ってみせます」
「馬鹿ねえ、アベルは」
アベルの言葉をフィリアはあざ笑った。
「フィ、フィリア様?!」
うろたえるアベルの耳元にフィリアは唇を寄せる。
「私も働くわよ。私のほうが年上なんだから、少しは頼ってちょうだい」
「・・・ありがとうございます」
2人の間にそれ以上の言葉はなかった・・・いや不要だった。
アベルとフィリアを乗せた白馬は宮殿の敷地を出ると、西方へ向かう街道に入った。
地平線がわずかに白く照らし出されつつある。
夜明けはもうすぐだった。
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