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2話 angoisseな提案
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これはいったいどういうことだろうか。私の横にいるのは、つい昨日練習室に侵入してきたムカつく男で目の前には、ニコリと笑顔で恐ろしいことを告げる教師。
「納得できません!何故こんな落ちこぼれと俺が・・・・・・」
「納得できない?おかしなことを言うね、ラルゴ・アルバーニ。これは議会にて決定したこと覆すことは誰にも出来ないよ」
グッとアルバーニが押し黙る、こんなことになるなんて誰が予想できただろうか。
つい30分前のことである。シレーヌ、ラウト、フェールの3人は、講義室にて歴史の講義を受けていた。
まず、初めに習ったのはこの国が人魚を奴隷として扱っていたことがあったこと。そして、3代目国王陛下と人魚の婚姻によって奴隷制度は撤廃され、今では人間と人魚は共存して生きているということだった。
「撤廃されたからといって今でも人魚を奴隷のように扱う者は少なくない。そのため国王はこの学園を設立させたのだが・・・・・・」
顎に髭を生やした厳つい体系の教師が淡々と講義を進めていく、難しい話だったのかフェールの隣で時折寝言を洩らしながら居眠りをしているシレーヌがこの教師をゴリラ教師だなんて呼んでいたの思い出してフェールは少し笑みを溢した。
シレーヌにとっての子守唄がピタリと止まり彼女の目の前まで教師が来ていたことに気づいたフェールは彼女の肩を叩いた。
「シレーヌ、起きてシレーヌ」
「お腹いっぱい・・・・・・たべられないよ・・・・・・」
シレーヌはモゴモゴと口を動かして拍子抜けするような寝言をもらした。とても幸せそうな寝顔をしている。
(そんな、寝言を言っている場合じゃないのよ、シレーヌ!!)
お願い早く起きてとフェールは祈るがその祈りは届くことはなかった。
「ほう、腹は満たされたようだな。ならば、今度はその空っぽの頭を満たすといい!!」
盛大な音が深い眠りのシレーヌを目覚めさせた。シレーヌの眼前に、ナイフが机へと刺さっている光景が見えシレーヌは飛び起きた。
「それとも、腹の満たされた君を焼き魚にして食べてしまおうか?」
「め、滅相もございません・・・・・・先生」
「そうか、それは残念。ならばシレーヌ、講義を中断した詫びに君が3代目国王陛下と人魚の物語をみんなに聞かせてはもらえぬか」
「さ、さんだいめと・・・・・・にんぎょ?」
シレーヌはフェールへと目線で助けを求めるがフェールは小さく首を振った。どうやら助けてはくれないらしい。
「私の講義を寝ていたんだ。知らぬ存ぜぬでは済まされんぞ?」
「あははは・・・・・・」
この陰険ゴリラめ、なんて心の中で悪態を吐きつつ冷や汗たらたらなシレーヌは、もはや乾いた笑いしか出てこない。
「講義中失礼します。先生、少しいいですか」
チッと小さく舌打ちすると教師は入室してきた男性となにやら話し始めた。
「とりあえず、よかったわね」
「うん、でも何の話をしているんだろう」
さぁ?とフェールが答えたところで話は終わったらしい。ギロリと鋭い目つきで教師に睨まれたシレーヌは、完全に目をつけられたと頭をかかえたくなった。
「ラルゴ・アルバーニ、それとシレーヌ。呼び出しだ、この人についていけ」
先程まで話していた男性を指してそう言った教師の顔は険しい。そんな教師から目を逸らし指された男性に視線を移す。銀髪の長い髪を一つにまとめ、ギャグかと思わずツッコんでしまいたくなるほどのグルグルと渦を巻いているビン底メガネ、そんな格好の彼とたぶん目が合ったのだろう、彼はオロオロとしながら深々と頭を下げたのでシレーヌは慌てて席を立った。
長い廊下を黙々と歩く、講義中だからか辺りはすごく静かだ。
「あ、あの、どこに向かっているんですか?」
「着けばわかります」
どうしてこの男と一緒に呼ばれたのか、誰に呼ばれているのか等色々な質問をしたが答えは全て同じだった。諦めて黙って歩くことにしたシレーヌは大きく深いため息を吐いた。
「ため息をつきたいのはこっちだ」
「なんですって?」
やっと口を開いたかと思ったら嫌味のようなことをいうアルバーニを睨みつける。彼もこちらを睨み返してきた。
「退学しなかったんだな」
「するわけないじゃない」
誰があなたの言うことを聞くものですかとそっぽを向く。すると、彼は大きく笑い声をあげだした。
「そうか、お前のその威勢の良さは唯一の美点だな」
「ど、どういうことよ」
そのままの意味だと馬鹿にするよう笑われイイ気分ではない。
「ほら、着いたぞ」
アルバーニの声につられ視線を前に向けると小鳥が森をはばたく絵が彫られた綺麗な扉があった。蔓のモチーフのドアノブを引いて入ると、待っていたのは黒光りする上質な皮のイスと書類が溜まった机。呼んだはずの人物は見当たらなかった。
「そろそろ、変な格好をやめたらどうですか、理事長」
「え?そんな人どこに・・・・・・」
シレーヌは、部屋の中を見回すが理事長らしき人などいない。いるのは、シレーヌとアルバーニ、それに案内してくれたメガネの人だけだ。
「あ、まさか・・・・・・」
そう呟いたとき、クスリと笑う声が聞こえてきた。目の前の人物が変装を解いていく。一つに結われた銀髪を解けばサラリとした髪が流れる。分厚いメガネを外せば金色の瞳が現れ、右目の泣き黒子が彼の美しさを更に際立たせる。
「いかにも、案内をしてきた私こそがこの学園の理事長であるアド・リビトゥムだ」
理事長の美しさにボーっと見惚れているとアルバーニに頭を叩かれた。
「うーん、アルバーニ君にはすぐバレちゃったなぁ。2人の驚く姿が見たかったのに・・・・・・」
つまんなーいと拗ねてみせる理事長にシレーヌは唖然とする。本当にこの人が上の立場の人間なのかと疑いたくなる。
「お茶菓子を持って参りました」
いつのまに入ってきたのか、ふりふりのレースのエプロンを着たメイド服姿の女性が対談用の机に紅茶とケーキを置いていた。
「うん、ありがとう。じゃあ、座ってお茶しながら話そうか」
ニコリと理事長は笑って座るよう促す、言葉に甘えてソファに座れば硬い皮でできているはずなのに優しく体を包むように柔らかい。
机の上にはいい香りの紅茶とショートケーキが置かれている。赤く熟れた真っ赤なイチゴが白いふわふわの生クリームに包まれ、スポンジの間にも同じイチゴが挟まれていた。おいしそうなケーキに誘われるようにシレーヌは口の中へと運んでいく。あまりの美味しさに頬を両手で包み口元を緩める。開いた瞳をキラキラと輝かせる、その姿は居眠りしていたときと同じくらい幸せそうだ。
「女の子が幸せそうに食べている姿はやっぱりかわいいね」
にこにことシレーヌが食べている姿を見つめてそう言う理事長にアルバーニは紅茶を飲みながら睨んだ。
「早く用件を話してください。昨日のことが決まったのでしょう」
「もう、アルバーニ君はせっかちだなぁ。わ、わかったよ、話すから怖い顔しないで・・・・・・」
アルバーニが睨むのをやめ、静かに目を閉じるのを見た理事長は一つ咳払いをすると資料を見ながら話し始めた。
「ラルゴ・アルバーニ、首席で入学。筆記テスト、実技テスト共にトップ。顔もいい為かパートナーは女性が多かったが、あまりにも厳しい練習に耐えきれなくなりパートナー解消を希望する者が続出した。現在パートナーなし」
どんな練習をしていればパートナー解消まで追い込むのか甚だ疑問である。ちらりと横目でアルバーニを見るとチッと舌打ちされた。
「次に、シレーヌ。筆記テストは、うん・・・・・・下の中ってところかな。実技は・・・・・・へぇ。パートナーを何人かと組んだものの彼女の歌声に耐えられなくなり解消されている。彼女も現在パートナーは、なし」
資料を机に置いた理事長は、顎を組んだ手にのせるとシレーヌに向かって微笑んだ。
「さて、シレーヌ君。君達2人の共通点は何かな?」
「パ・・・・・・パートナーが・・・・・・いない」
答えたシレーヌは、とてつもなく嫌な予感がしていた。理事長が考えていることがソレじゃないようにと信仰もしていない神に祈る。
再び理事長はニコリと微笑む。シレーヌは確信した、理事長の微笑みは悪魔の微笑みだ。
「うん、そうだよ。ラルゴ・アルバーニおよびシレーヌ、君達2人でパートナーを組みなさい」
「「イヤです!!」」
「うんうん、息ぴったりお似合いだね」
「納得できません!何故こんな落ちこぼれと俺が・・・・・・」
アルバーニの言葉に理事長はいきなり笑い出した。しばらくして、笑いはおさまるが理事長の目には笑いの余韻か涙が滲んでいる。
「納得できない?おかしなことを言うね、ラルゴ・アルバーニ。これは議会にて決定したこと覆すことは誰にも出来ないよ。それに君には昨日伝えていただろう?パートナーはこちらで選んでおくと」
「まさか、彼女とは思いませんでしたよ。俺はお断りして自分でパートナーを探すことにします」
そう言って出て行こうとするアルバーニを理事長が再び笑い出すことで結果的に引き止めることとなった。何がおかしいのだとアルバーニは眉間を歪める。異様な空気の中理事長の笑いだけが響き笑う。
「それはね、無理なのだよ。アルバーニ君」
「どういうことですか」
アルバーニの眉間のシワがさらに深まる。彼の問いに理事長の表情は一変し、先程あんなにも笑っていた姿はどこにいったのか無表情で冷たい瞳が彼を射抜いた。その視線にアルバーニは思わず息をのんだ。
「この学園の中でパートナーを組んでいないのは彼女だけだ。つまり、これを断ることはどういうことかわかるね?」
グッと押し黙ったアルバーニだったが、まだ納得できないのか理事長を睨み付ける。そんな彼の態度にため息を吐いた理事長は何かを思いついたのか、また悪魔の微笑みをシレーヌに向けた。
「シレーヌ君、彼はどうやら不満みたいなんだ、だから色々条件を付け足してみようと思うよ」
いいよね?なんて微笑みのまま首を傾げられるが有無を言わせる気などないのだろう。彼の微笑みがそう訴えてきている。どう返事していいかわからずシレーヌは、顔を背けた。
「よし、じゃあまずは、そうだなー・・・・・・次の中間試験でダイヤの生成をすること」
「え?」
「は?ちょっと、待て。いくらなんでもそれは・・・・・・」
2人で抗議の声をあげるが理事長はまったく聞く耳を持たない。いまだに宝石も生成できずやっと昨日ラウト達の協力で失敗だったけれど生成までいった、そんな段階のシレーヌに1か月でダイヤの生成なんて不可能だ。
「1年後の宝石祭で大トリの舞台をやってもらおうかなー。それと・・・・・・」
「り、理事長!!」
あまりの無理難題を提案してくる理事長をとめるため大きな声で呼ぶと理事長はシレーヌをニコリと見つめている。もう、シレーヌは覚悟を決めた。イヤだけど仕方ない腹をくくるしかない。
「組みます。ラルゴ・アルバーニとパートナー組みます!」
「ふーん、アルバーニ君は?」
もう少し条件をつけ足したかったのか詰まらなさそうにアルバーニに問いかける。シレーヌもアルバーニを睨み付ける。2人の視線にアルバーニは、降参するように両手を顔の位置まで挙げる。
「わかりました、コイツと組みます」
「うんうん、それがいいと思うよ」
理事長も彼の返事に気をよくしたのか。最初の雰囲気に戻った。しかし、この理事長の怖いところは・・・・・・。
「じゃあ、中間試験にダイヤ生成と宝石祭の舞台楽しみにしているよ」
別れ際にこうやって爆弾を落として行くとこだとシレーヌ達は身をもって知ったのだ。抗議をしようと、アルバーニがドアノブを引くけれども固く閉ざされ開くことはなかった。代わりに扉を何度も叩く。
「ふざけんな!!今すぐここを開けて撤回しろ!!」
天岩戸のように固く閉ざされた扉はそれでも開くことはなかった。アルバーニは諦めたのか扉を叩くのをやめて、扉に両手をついた状態で動かなくなった。
普段、クールだの冷酷だの言われているらしい彼だが、こんなにも取り乱す彼を見たのはこの学園の中では、きっとたぶんシレーヌだけだろう。
しばらく動かなかった彼は、小刻みに体を震わせては壊れたように笑い始めた。
「・・・・・・いいだろう。あぁいいだろうとも、やれというなら完璧にやり遂げてやるさ!!」
そんな彼の姿にシレーヌは半歩後ろへと下がる。その気配を察したのか彼は、ゆっくり振り返った。
「明日からお前のその音痴を治してやる、覚悟しておけ」
魔王のような彼の表情に、早まったかもしれないとシレーヌは顔を青くさせた。
「納得できません!何故こんな落ちこぼれと俺が・・・・・・」
「納得できない?おかしなことを言うね、ラルゴ・アルバーニ。これは議会にて決定したこと覆すことは誰にも出来ないよ」
グッとアルバーニが押し黙る、こんなことになるなんて誰が予想できただろうか。
つい30分前のことである。シレーヌ、ラウト、フェールの3人は、講義室にて歴史の講義を受けていた。
まず、初めに習ったのはこの国が人魚を奴隷として扱っていたことがあったこと。そして、3代目国王陛下と人魚の婚姻によって奴隷制度は撤廃され、今では人間と人魚は共存して生きているということだった。
「撤廃されたからといって今でも人魚を奴隷のように扱う者は少なくない。そのため国王はこの学園を設立させたのだが・・・・・・」
顎に髭を生やした厳つい体系の教師が淡々と講義を進めていく、難しい話だったのかフェールの隣で時折寝言を洩らしながら居眠りをしているシレーヌがこの教師をゴリラ教師だなんて呼んでいたの思い出してフェールは少し笑みを溢した。
シレーヌにとっての子守唄がピタリと止まり彼女の目の前まで教師が来ていたことに気づいたフェールは彼女の肩を叩いた。
「シレーヌ、起きてシレーヌ」
「お腹いっぱい・・・・・・たべられないよ・・・・・・」
シレーヌはモゴモゴと口を動かして拍子抜けするような寝言をもらした。とても幸せそうな寝顔をしている。
(そんな、寝言を言っている場合じゃないのよ、シレーヌ!!)
お願い早く起きてとフェールは祈るがその祈りは届くことはなかった。
「ほう、腹は満たされたようだな。ならば、今度はその空っぽの頭を満たすといい!!」
盛大な音が深い眠りのシレーヌを目覚めさせた。シレーヌの眼前に、ナイフが机へと刺さっている光景が見えシレーヌは飛び起きた。
「それとも、腹の満たされた君を焼き魚にして食べてしまおうか?」
「め、滅相もございません・・・・・・先生」
「そうか、それは残念。ならばシレーヌ、講義を中断した詫びに君が3代目国王陛下と人魚の物語をみんなに聞かせてはもらえぬか」
「さ、さんだいめと・・・・・・にんぎょ?」
シレーヌはフェールへと目線で助けを求めるがフェールは小さく首を振った。どうやら助けてはくれないらしい。
「私の講義を寝ていたんだ。知らぬ存ぜぬでは済まされんぞ?」
「あははは・・・・・・」
この陰険ゴリラめ、なんて心の中で悪態を吐きつつ冷や汗たらたらなシレーヌは、もはや乾いた笑いしか出てこない。
「講義中失礼します。先生、少しいいですか」
チッと小さく舌打ちすると教師は入室してきた男性となにやら話し始めた。
「とりあえず、よかったわね」
「うん、でも何の話をしているんだろう」
さぁ?とフェールが答えたところで話は終わったらしい。ギロリと鋭い目つきで教師に睨まれたシレーヌは、完全に目をつけられたと頭をかかえたくなった。
「ラルゴ・アルバーニ、それとシレーヌ。呼び出しだ、この人についていけ」
先程まで話していた男性を指してそう言った教師の顔は険しい。そんな教師から目を逸らし指された男性に視線を移す。銀髪の長い髪を一つにまとめ、ギャグかと思わずツッコんでしまいたくなるほどのグルグルと渦を巻いているビン底メガネ、そんな格好の彼とたぶん目が合ったのだろう、彼はオロオロとしながら深々と頭を下げたのでシレーヌは慌てて席を立った。
長い廊下を黙々と歩く、講義中だからか辺りはすごく静かだ。
「あ、あの、どこに向かっているんですか?」
「着けばわかります」
どうしてこの男と一緒に呼ばれたのか、誰に呼ばれているのか等色々な質問をしたが答えは全て同じだった。諦めて黙って歩くことにしたシレーヌは大きく深いため息を吐いた。
「ため息をつきたいのはこっちだ」
「なんですって?」
やっと口を開いたかと思ったら嫌味のようなことをいうアルバーニを睨みつける。彼もこちらを睨み返してきた。
「退学しなかったんだな」
「するわけないじゃない」
誰があなたの言うことを聞くものですかとそっぽを向く。すると、彼は大きく笑い声をあげだした。
「そうか、お前のその威勢の良さは唯一の美点だな」
「ど、どういうことよ」
そのままの意味だと馬鹿にするよう笑われイイ気分ではない。
「ほら、着いたぞ」
アルバーニの声につられ視線を前に向けると小鳥が森をはばたく絵が彫られた綺麗な扉があった。蔓のモチーフのドアノブを引いて入ると、待っていたのは黒光りする上質な皮のイスと書類が溜まった机。呼んだはずの人物は見当たらなかった。
「そろそろ、変な格好をやめたらどうですか、理事長」
「え?そんな人どこに・・・・・・」
シレーヌは、部屋の中を見回すが理事長らしき人などいない。いるのは、シレーヌとアルバーニ、それに案内してくれたメガネの人だけだ。
「あ、まさか・・・・・・」
そう呟いたとき、クスリと笑う声が聞こえてきた。目の前の人物が変装を解いていく。一つに結われた銀髪を解けばサラリとした髪が流れる。分厚いメガネを外せば金色の瞳が現れ、右目の泣き黒子が彼の美しさを更に際立たせる。
「いかにも、案内をしてきた私こそがこの学園の理事長であるアド・リビトゥムだ」
理事長の美しさにボーっと見惚れているとアルバーニに頭を叩かれた。
「うーん、アルバーニ君にはすぐバレちゃったなぁ。2人の驚く姿が見たかったのに・・・・・・」
つまんなーいと拗ねてみせる理事長にシレーヌは唖然とする。本当にこの人が上の立場の人間なのかと疑いたくなる。
「お茶菓子を持って参りました」
いつのまに入ってきたのか、ふりふりのレースのエプロンを着たメイド服姿の女性が対談用の机に紅茶とケーキを置いていた。
「うん、ありがとう。じゃあ、座ってお茶しながら話そうか」
ニコリと理事長は笑って座るよう促す、言葉に甘えてソファに座れば硬い皮でできているはずなのに優しく体を包むように柔らかい。
机の上にはいい香りの紅茶とショートケーキが置かれている。赤く熟れた真っ赤なイチゴが白いふわふわの生クリームに包まれ、スポンジの間にも同じイチゴが挟まれていた。おいしそうなケーキに誘われるようにシレーヌは口の中へと運んでいく。あまりの美味しさに頬を両手で包み口元を緩める。開いた瞳をキラキラと輝かせる、その姿は居眠りしていたときと同じくらい幸せそうだ。
「女の子が幸せそうに食べている姿はやっぱりかわいいね」
にこにことシレーヌが食べている姿を見つめてそう言う理事長にアルバーニは紅茶を飲みながら睨んだ。
「早く用件を話してください。昨日のことが決まったのでしょう」
「もう、アルバーニ君はせっかちだなぁ。わ、わかったよ、話すから怖い顔しないで・・・・・・」
アルバーニが睨むのをやめ、静かに目を閉じるのを見た理事長は一つ咳払いをすると資料を見ながら話し始めた。
「ラルゴ・アルバーニ、首席で入学。筆記テスト、実技テスト共にトップ。顔もいい為かパートナーは女性が多かったが、あまりにも厳しい練習に耐えきれなくなりパートナー解消を希望する者が続出した。現在パートナーなし」
どんな練習をしていればパートナー解消まで追い込むのか甚だ疑問である。ちらりと横目でアルバーニを見るとチッと舌打ちされた。
「次に、シレーヌ。筆記テストは、うん・・・・・・下の中ってところかな。実技は・・・・・・へぇ。パートナーを何人かと組んだものの彼女の歌声に耐えられなくなり解消されている。彼女も現在パートナーは、なし」
資料を机に置いた理事長は、顎を組んだ手にのせるとシレーヌに向かって微笑んだ。
「さて、シレーヌ君。君達2人の共通点は何かな?」
「パ・・・・・・パートナーが・・・・・・いない」
答えたシレーヌは、とてつもなく嫌な予感がしていた。理事長が考えていることがソレじゃないようにと信仰もしていない神に祈る。
再び理事長はニコリと微笑む。シレーヌは確信した、理事長の微笑みは悪魔の微笑みだ。
「うん、そうだよ。ラルゴ・アルバーニおよびシレーヌ、君達2人でパートナーを組みなさい」
「「イヤです!!」」
「うんうん、息ぴったりお似合いだね」
「納得できません!何故こんな落ちこぼれと俺が・・・・・・」
アルバーニの言葉に理事長はいきなり笑い出した。しばらくして、笑いはおさまるが理事長の目には笑いの余韻か涙が滲んでいる。
「納得できない?おかしなことを言うね、ラルゴ・アルバーニ。これは議会にて決定したこと覆すことは誰にも出来ないよ。それに君には昨日伝えていただろう?パートナーはこちらで選んでおくと」
「まさか、彼女とは思いませんでしたよ。俺はお断りして自分でパートナーを探すことにします」
そう言って出て行こうとするアルバーニを理事長が再び笑い出すことで結果的に引き止めることとなった。何がおかしいのだとアルバーニは眉間を歪める。異様な空気の中理事長の笑いだけが響き笑う。
「それはね、無理なのだよ。アルバーニ君」
「どういうことですか」
アルバーニの眉間のシワがさらに深まる。彼の問いに理事長の表情は一変し、先程あんなにも笑っていた姿はどこにいったのか無表情で冷たい瞳が彼を射抜いた。その視線にアルバーニは思わず息をのんだ。
「この学園の中でパートナーを組んでいないのは彼女だけだ。つまり、これを断ることはどういうことかわかるね?」
グッと押し黙ったアルバーニだったが、まだ納得できないのか理事長を睨み付ける。そんな彼の態度にため息を吐いた理事長は何かを思いついたのか、また悪魔の微笑みをシレーヌに向けた。
「シレーヌ君、彼はどうやら不満みたいなんだ、だから色々条件を付け足してみようと思うよ」
いいよね?なんて微笑みのまま首を傾げられるが有無を言わせる気などないのだろう。彼の微笑みがそう訴えてきている。どう返事していいかわからずシレーヌは、顔を背けた。
「よし、じゃあまずは、そうだなー・・・・・・次の中間試験でダイヤの生成をすること」
「え?」
「は?ちょっと、待て。いくらなんでもそれは・・・・・・」
2人で抗議の声をあげるが理事長はまったく聞く耳を持たない。いまだに宝石も生成できずやっと昨日ラウト達の協力で失敗だったけれど生成までいった、そんな段階のシレーヌに1か月でダイヤの生成なんて不可能だ。
「1年後の宝石祭で大トリの舞台をやってもらおうかなー。それと・・・・・・」
「り、理事長!!」
あまりの無理難題を提案してくる理事長をとめるため大きな声で呼ぶと理事長はシレーヌをニコリと見つめている。もう、シレーヌは覚悟を決めた。イヤだけど仕方ない腹をくくるしかない。
「組みます。ラルゴ・アルバーニとパートナー組みます!」
「ふーん、アルバーニ君は?」
もう少し条件をつけ足したかったのか詰まらなさそうにアルバーニに問いかける。シレーヌもアルバーニを睨み付ける。2人の視線にアルバーニは、降参するように両手を顔の位置まで挙げる。
「わかりました、コイツと組みます」
「うんうん、それがいいと思うよ」
理事長も彼の返事に気をよくしたのか。最初の雰囲気に戻った。しかし、この理事長の怖いところは・・・・・・。
「じゃあ、中間試験にダイヤ生成と宝石祭の舞台楽しみにしているよ」
別れ際にこうやって爆弾を落として行くとこだとシレーヌ達は身をもって知ったのだ。抗議をしようと、アルバーニがドアノブを引くけれども固く閉ざされ開くことはなかった。代わりに扉を何度も叩く。
「ふざけんな!!今すぐここを開けて撤回しろ!!」
天岩戸のように固く閉ざされた扉はそれでも開くことはなかった。アルバーニは諦めたのか扉を叩くのをやめて、扉に両手をついた状態で動かなくなった。
普段、クールだの冷酷だの言われているらしい彼だが、こんなにも取り乱す彼を見たのはこの学園の中では、きっとたぶんシレーヌだけだろう。
しばらく動かなかった彼は、小刻みに体を震わせては壊れたように笑い始めた。
「・・・・・・いいだろう。あぁいいだろうとも、やれというなら完璧にやり遂げてやるさ!!」
そんな彼の姿にシレーヌは半歩後ろへと下がる。その気配を察したのか彼は、ゆっくり振り返った。
「明日からお前のその音痴を治してやる、覚悟しておけ」
魔王のような彼の表情に、早まったかもしれないとシレーヌは顔を青くさせた。
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