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第七章 海への道
7-19 箱
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翌朝、食事を終えたセインは、部屋にハクと天空を残して、さっそく出かけた。
「今日は一緒にハンターギルドに行こう。そのあと、商業ギルドだ」
ハンターギルドや商業ギルドへは、基本的に奴隷の立ち入りの規制はない。ハンターや商人にとって、奴隷は飽くまで、武器であり、道具、いわゆる物扱いということなのだろう。
「あら、サキちゃん。今日もクエストかしら?」
受付嬢のモナ。主にブロンズ以下のクエストの斡旋、アドバイスなどを担当している窓口である。
ブロンズ以上の依頼書は、基本的に掲示板に張り出しており、自分で選んで、かつ早い者勝ちだが、枠外クエストは、窓口で個別に紹介されるのだ。
サキはセインが作った札を持っていたので、優先的に割のいいクエストを回してもらっていた。これは、セインが受けたクエスト、厄介な穢れ払いによるシルバーランク成功の件で、信用を加味された采配である。
「クエストちがう、今日はセイン様、一緒」
サキが気構えることなく答えるところを見ると、ギルドで一人でもそれなりにうまくやっていたようだ。モナは小人族らしく、子供のセインと変わらない身長ながら、すでに大人なのだとサキから聞いた。とても気さくな性格で、サキのことも粗末に扱うことはなかったようである。
「依頼の受注なんだけど、ここで大丈夫?」
「いらっしゃい、セインさん。いいですよ、指名依頼ですね。仮扱いですが、シルバーランクなので問題ありません。それと、前回の依頼達成にも依頼主から追加報酬ありの大成功でしたので、今回、成功されれば、正式のシルバーランクに昇格できると思いますよ」
もともと、ポイント数も昇級クエストもクリアで、ブロンズランクでの実績不足による仮判定だったので、このままクエスト成功が続けば、自動的に認定されるとのことだ。
依頼を正式に受注したセインは、もう一つの用件、情報収集をすることにした。モナは初心者への相談窓口を担当するだけあって、ギルドの受付としてはベテランであり丁度よかった。
汎用札やハンター用の札、その他、それに付随する道具など、今扱っている物を教えて欲しいとお願いすると、快く商品管理の帳簿を調べてくれた。
「在庫が少ない気がするけど、これが普通なのかな」
「近年、とくに不足しているんです。それに伴って、ハンターの間でも、仕方なく行商人から買い入れて、トラブルになることもあるようですね」
もちろんギルドは、行商人からの購入は控えるように通達はしているが、商人からの自由購入を規制することは、簡単ではないらしい。
取り扱っている札を見せてもらっていると、それとは別に木箱に入った札の束が床に置かれていた。新品の札は、種類によって色の違う帯で束ねてあるが、その木箱に入った札には、決められた帯の封がされていない。
「それは?」
その札はどう見てもまっさらの札ではない。何らかの力を込めて作成された「お札」には違いない。良質な紙が使用さているようだが、出来栄えとしてはあまり良質とは思えなかった。
セインの問いに、モナは厄介そうにため息をついた。
「実は先日、一斉摘発された闇市で没収されたものなんですが、私達も処分に困ってるんですよ」
モナが手渡してきた札を見て、セインも驚いた。良質な紙だとは思ったが、なんとそれは仕上げ処理こそされていないが、ロルシー製の短冊を使って作られていた。汎用札や自前の札を作るための、いたって下級の紙ではあったが、こんなに大量に市井に出回るわけはない。
――しかも、これは……。
全くの素人が作ったわけではなく、それなりに熟練した書き手が作ったもの。惜しむらくは、筆記技術ではなく、能力が不足しているのだろう。ほとんど札としては役に立たないと思われた。
多少の効果は見込めるので使えないことはないが、稀に不完全な発動をするものもあり、それがトラブルを招く原因になっているのだろう。
「……流通先はわかりますか?」
「それが、捕らえた者の中に箱の所有者がおらず、わからないんです。証拠品とはいえ、こういったものは保管も厄介で、ましてや、これだけの量となると、処分するにもそれなりの術者が必要なので……」
見れば、箱には一応ではあるが封印札が貼ってある。
コウキであれば、それこそ跡形もなく浄火できなくもないが、なにしろ大事な証拠品である。しかも、ロルシー家の紙が使われているとなれば、おいそれと見過ごすこともできない。
それにあの箱を見た時、かすかな既視感があった。どこかで確かに見たような、そんな気がしたのだ。
――もどかしいが、今は情報を積み重ねるしかないな。
セインは懐から白紙の短冊と、小さな筆、墨入れを取り出した。そして、たっぷりと漆黒の墨を浸した筆を、滑らせるように短冊に走らせた。
五芒星と、その下には封印を示す文字をひとつ。
「これを貼って、保管しておいてください。それと、出来るだけ早く、ハンターギルドからロルシー家へ調査依頼をしておいてください」
ここが国外であろうとも、ともかく「札」に関しては帝国の管轄であり、ロルシー侯爵家の領分なのだ。もし捜査や監査を拒めば、その瞬間からこの国へは一切の札の供給はなくなるだろう。
脅しでも、嫌がらせでもない、元来、友好国への札の流通は、飽くまで帝国の善意であり、ハンター活動への支援、ギルドへの貢献でしかないのだから。
「今日は一緒にハンターギルドに行こう。そのあと、商業ギルドだ」
ハンターギルドや商業ギルドへは、基本的に奴隷の立ち入りの規制はない。ハンターや商人にとって、奴隷は飽くまで、武器であり、道具、いわゆる物扱いということなのだろう。
「あら、サキちゃん。今日もクエストかしら?」
受付嬢のモナ。主にブロンズ以下のクエストの斡旋、アドバイスなどを担当している窓口である。
ブロンズ以上の依頼書は、基本的に掲示板に張り出しており、自分で選んで、かつ早い者勝ちだが、枠外クエストは、窓口で個別に紹介されるのだ。
サキはセインが作った札を持っていたので、優先的に割のいいクエストを回してもらっていた。これは、セインが受けたクエスト、厄介な穢れ払いによるシルバーランク成功の件で、信用を加味された采配である。
「クエストちがう、今日はセイン様、一緒」
サキが気構えることなく答えるところを見ると、ギルドで一人でもそれなりにうまくやっていたようだ。モナは小人族らしく、子供のセインと変わらない身長ながら、すでに大人なのだとサキから聞いた。とても気さくな性格で、サキのことも粗末に扱うことはなかったようである。
「依頼の受注なんだけど、ここで大丈夫?」
「いらっしゃい、セインさん。いいですよ、指名依頼ですね。仮扱いですが、シルバーランクなので問題ありません。それと、前回の依頼達成にも依頼主から追加報酬ありの大成功でしたので、今回、成功されれば、正式のシルバーランクに昇格できると思いますよ」
もともと、ポイント数も昇級クエストもクリアで、ブロンズランクでの実績不足による仮判定だったので、このままクエスト成功が続けば、自動的に認定されるとのことだ。
依頼を正式に受注したセインは、もう一つの用件、情報収集をすることにした。モナは初心者への相談窓口を担当するだけあって、ギルドの受付としてはベテランであり丁度よかった。
汎用札やハンター用の札、その他、それに付随する道具など、今扱っている物を教えて欲しいとお願いすると、快く商品管理の帳簿を調べてくれた。
「在庫が少ない気がするけど、これが普通なのかな」
「近年、とくに不足しているんです。それに伴って、ハンターの間でも、仕方なく行商人から買い入れて、トラブルになることもあるようですね」
もちろんギルドは、行商人からの購入は控えるように通達はしているが、商人からの自由購入を規制することは、簡単ではないらしい。
取り扱っている札を見せてもらっていると、それとは別に木箱に入った札の束が床に置かれていた。新品の札は、種類によって色の違う帯で束ねてあるが、その木箱に入った札には、決められた帯の封がされていない。
「それは?」
その札はどう見てもまっさらの札ではない。何らかの力を込めて作成された「お札」には違いない。良質な紙が使用さているようだが、出来栄えとしてはあまり良質とは思えなかった。
セインの問いに、モナは厄介そうにため息をついた。
「実は先日、一斉摘発された闇市で没収されたものなんですが、私達も処分に困ってるんですよ」
モナが手渡してきた札を見て、セインも驚いた。良質な紙だとは思ったが、なんとそれは仕上げ処理こそされていないが、ロルシー製の短冊を使って作られていた。汎用札や自前の札を作るための、いたって下級の紙ではあったが、こんなに大量に市井に出回るわけはない。
――しかも、これは……。
全くの素人が作ったわけではなく、それなりに熟練した書き手が作ったもの。惜しむらくは、筆記技術ではなく、能力が不足しているのだろう。ほとんど札としては役に立たないと思われた。
多少の効果は見込めるので使えないことはないが、稀に不完全な発動をするものもあり、それがトラブルを招く原因になっているのだろう。
「……流通先はわかりますか?」
「それが、捕らえた者の中に箱の所有者がおらず、わからないんです。証拠品とはいえ、こういったものは保管も厄介で、ましてや、これだけの量となると、処分するにもそれなりの術者が必要なので……」
見れば、箱には一応ではあるが封印札が貼ってある。
コウキであれば、それこそ跡形もなく浄火できなくもないが、なにしろ大事な証拠品である。しかも、ロルシー家の紙が使われているとなれば、おいそれと見過ごすこともできない。
それにあの箱を見た時、かすかな既視感があった。どこかで確かに見たような、そんな気がしたのだ。
――もどかしいが、今は情報を積み重ねるしかないな。
セインは懐から白紙の短冊と、小さな筆、墨入れを取り出した。そして、たっぷりと漆黒の墨を浸した筆を、滑らせるように短冊に走らせた。
五芒星と、その下には封印を示す文字をひとつ。
「これを貼って、保管しておいてください。それと、出来るだけ早く、ハンターギルドからロルシー家へ調査依頼をしておいてください」
ここが国外であろうとも、ともかく「札」に関しては帝国の管轄であり、ロルシー侯爵家の領分なのだ。もし捜査や監査を拒めば、その瞬間からこの国へは一切の札の供給はなくなるだろう。
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