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第七章 海への道
7-18 報告と前触れ
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夕食の時間にかなり遅れたが、女将さんは快く準備してくれた。その後、客がすっかり掃け、セインの食事が終わったのち、宿の裏にある小さな離れへと招かれた。ここはジャズ夫婦の住まいとのことだが、二つ小さな部屋があるだけで、あとはキッチンダイニングがあるだけの、ほんの小さな小屋だった。
「粗末な場所ですみません」
ジャズはちょっと恥ずかしそうにそう言ったが、宿の仕事はほぼ一日中である。それを考えると、本当に寝るためだけに帰る場所なので、これで十分だというのだ。ちなみに床に臥せる息子は、目が届き、世話がしやすいようにと、宿屋の一室を割いて使っている。
水回りは宿屋にしかないらしく、女将さんがわざわざ食堂から飲み物を持ってきた。
「どうぞ。宿で出す器ですまないね」
そう言って、木をくりぬいた器に入った穀物茶を出してくれた。
ガラスや陶器、金属の食器類は、基本的に貴族や富豪商人くらいしか使ってないので、宿屋では当然ながらほとんどが木製の食器である。
お礼を言って、セインはそれを一口飲んだ。
「今日、元ハンターのガイという方に会ってきました」
「ガイ……ああ、ここを管理されている、マキナ様ですか?」
さすがに宿屋を経営している女将さんは、その名前にすぐに反応した。ハンターのジャズも、元マスターランクの港主の噂は知っているようだ。
「結論から言うと、人魚の卵のことを知っているかもしれない人物がいるそうです」
ごちゃごちゃ説明しても仕方がないので、セインは簡潔にそう答えた。二人は顔を喜色に輝かせたが、彼らが何かを言う前に続けて付け加える。
「ただ、その人物との連絡がまだつかないし、有力な情報を持っているとも限りません。すみませんが、もう少し待っていてください」
心苦しくはあるが、あまり大きな期待を持たれて空振りだと失望も大きいので、控えめに釘を刺しておいた。セインにしても、もう一つの懸念の件もあるし、件のキムリという男には、何としても連絡を取ってほしいと心から願っていた。
すると、女将さんが小さな箪笥から一枚の紙を取り出した。薄茶色の、ギルドでよく見る安価な紙だ。
「セインさん、こちらを」
それはハンタークエストの依頼書であった。
宝石入り人魚の卵の探索を、正式なクエストとしてハンターギルドへ提出してくれたようだ。
以前ギルドで会った時、セインの持つカードが、保留扱いのシルバーランクだったのをジャズが覚えていて、この件が解決した際、達成ポイントや貢献ポイントを稼げるようにとの配慮だった。
「指名依頼はシルバーランクからですが、たぶんセインさんは問題なく受けれるはずなので、明日にでも正式に受けてください」
そんな二人の心遣いをありがたく受け取って、セインは部屋に戻ることにした。
「あれ? サキ」
部屋の前には、サキが立っていた。
昨日、今日は別行動だったし、しかも今日は、帰宅時間がずれて会えなかったので、後で話を聞きに行こうと思っていたところだった。
サキには、日中の間、ツクとゆらを護衛につけていた。サキに彼女たちの姿は見えないが、何かあればすぐに知らせが飛んでくるし、多少のことならゆらの結界で身を守ることもできるからだ。
「部屋に入って待っていればよかったのに。今日の報告だよね、遅くなってごめんね」
すでにゆらとツクが部屋に戻っていたので、サキが自室に帰っていることはわかっていた。
「あ、明日でも、いいと思った、ですけど……」
ここ数日サキを連れて歩かなかったのは、なにかと人と会う約束が多かったからだ。ハンターの仕事として、同席を許されることはあるが、奴隷の身分では立ち入れない場所は多々あり、依頼人によっては同席を拒否する者もいるからだ。
――早く奴隷の身分を解放できるといいんだけど。そうなればギルドランクも上げられて、正式にパーティを組むことができて都合がいいからね。
ともかくサキを部屋に招き入れ、報告を聞いた。
サキは基本的に単体ではランク別の依頼を受けられないけれど、枠外の雑用クエストは受けることが出来る。いわゆるハンターが受けたがらないような、稼ぎにならない木っ端依頼である。
低賃金かつ、ポイントもほぼ付かない、ほとんどボランティアのような物だが、それでもブロンズ落ちのビギナーランクや、サキと同様の身分の者には、いささかの需要はあるのだ。
依頼完了の書類と、少額の報酬、そしてカードにはポイントが加算されている。
「セイン様、のお札のおかげ。たくさん、ポイント貰った」
「おどろいたな。雑用クエストに軽度の穢れ落としが、こんなに……」
農園の収穫手伝い、ゴミ拾い、家屋の掃除など、ほとんどが肉体労だが、なぜか札による穢れ払いの依頼が複数枚あった。普段なら自力で、お札一つあれば解決する、日常品などの簡単な穢れ払い。
なにもギルドに依頼しなくても、本来なら札を買えば済む話である。
ハンターに頼むのは汎用札では効率が悪かったり、あるいは札だけでは解決できない時くらいである。
「札、足りない。粗悪品多い、です。みんな、困ってる言ってた」
サキに持たせてあった札は存分に役立ったようだ。
丸一日、ただ留守番するより、なにか自分にもできるクエストをしたいと言ったときは、少し戸惑ったが、前の主人は、どうやら枠外クエストを奴隷たちにさせていたらしい。少しでも手が空いた奴隷を、休ませるのはもったいないと考えていたようだ。
ともあれ、この国に来て以来ずっと感じていた「お札」の慢性的な不足状態。ここが帝国国外だとしても、仮にも友好国であり、帝国が正規の札の流通を許可している国の一つである。帝国民のように配布こそされてないが、正規の汎用札も、国際機関のハンターギルドや商業ギルドを通じて、きちんと流通しているはずだった。
実際、ハンターギルドには割高とはいえ正規の札が販売されていた。商業ギルドには一度だけ交易品の確認に行っただけだったが、その時はそこまで確認しなかった。
――一般用の札の取り扱いというなら、むしろそっちの管轄か……。
「粗末な場所ですみません」
ジャズはちょっと恥ずかしそうにそう言ったが、宿の仕事はほぼ一日中である。それを考えると、本当に寝るためだけに帰る場所なので、これで十分だというのだ。ちなみに床に臥せる息子は、目が届き、世話がしやすいようにと、宿屋の一室を割いて使っている。
水回りは宿屋にしかないらしく、女将さんがわざわざ食堂から飲み物を持ってきた。
「どうぞ。宿で出す器ですまないね」
そう言って、木をくりぬいた器に入った穀物茶を出してくれた。
ガラスや陶器、金属の食器類は、基本的に貴族や富豪商人くらいしか使ってないので、宿屋では当然ながらほとんどが木製の食器である。
お礼を言って、セインはそれを一口飲んだ。
「今日、元ハンターのガイという方に会ってきました」
「ガイ……ああ、ここを管理されている、マキナ様ですか?」
さすがに宿屋を経営している女将さんは、その名前にすぐに反応した。ハンターのジャズも、元マスターランクの港主の噂は知っているようだ。
「結論から言うと、人魚の卵のことを知っているかもしれない人物がいるそうです」
ごちゃごちゃ説明しても仕方がないので、セインは簡潔にそう答えた。二人は顔を喜色に輝かせたが、彼らが何かを言う前に続けて付け加える。
「ただ、その人物との連絡がまだつかないし、有力な情報を持っているとも限りません。すみませんが、もう少し待っていてください」
心苦しくはあるが、あまり大きな期待を持たれて空振りだと失望も大きいので、控えめに釘を刺しておいた。セインにしても、もう一つの懸念の件もあるし、件のキムリという男には、何としても連絡を取ってほしいと心から願っていた。
すると、女将さんが小さな箪笥から一枚の紙を取り出した。薄茶色の、ギルドでよく見る安価な紙だ。
「セインさん、こちらを」
それはハンタークエストの依頼書であった。
宝石入り人魚の卵の探索を、正式なクエストとしてハンターギルドへ提出してくれたようだ。
以前ギルドで会った時、セインの持つカードが、保留扱いのシルバーランクだったのをジャズが覚えていて、この件が解決した際、達成ポイントや貢献ポイントを稼げるようにとの配慮だった。
「指名依頼はシルバーランクからですが、たぶんセインさんは問題なく受けれるはずなので、明日にでも正式に受けてください」
そんな二人の心遣いをありがたく受け取って、セインは部屋に戻ることにした。
「あれ? サキ」
部屋の前には、サキが立っていた。
昨日、今日は別行動だったし、しかも今日は、帰宅時間がずれて会えなかったので、後で話を聞きに行こうと思っていたところだった。
サキには、日中の間、ツクとゆらを護衛につけていた。サキに彼女たちの姿は見えないが、何かあればすぐに知らせが飛んでくるし、多少のことならゆらの結界で身を守ることもできるからだ。
「部屋に入って待っていればよかったのに。今日の報告だよね、遅くなってごめんね」
すでにゆらとツクが部屋に戻っていたので、サキが自室に帰っていることはわかっていた。
「あ、明日でも、いいと思った、ですけど……」
ここ数日サキを連れて歩かなかったのは、なにかと人と会う約束が多かったからだ。ハンターの仕事として、同席を許されることはあるが、奴隷の身分では立ち入れない場所は多々あり、依頼人によっては同席を拒否する者もいるからだ。
――早く奴隷の身分を解放できるといいんだけど。そうなればギルドランクも上げられて、正式にパーティを組むことができて都合がいいからね。
ともかくサキを部屋に招き入れ、報告を聞いた。
サキは基本的に単体ではランク別の依頼を受けられないけれど、枠外の雑用クエストは受けることが出来る。いわゆるハンターが受けたがらないような、稼ぎにならない木っ端依頼である。
低賃金かつ、ポイントもほぼ付かない、ほとんどボランティアのような物だが、それでもブロンズ落ちのビギナーランクや、サキと同様の身分の者には、いささかの需要はあるのだ。
依頼完了の書類と、少額の報酬、そしてカードにはポイントが加算されている。
「セイン様、のお札のおかげ。たくさん、ポイント貰った」
「おどろいたな。雑用クエストに軽度の穢れ落としが、こんなに……」
農園の収穫手伝い、ゴミ拾い、家屋の掃除など、ほとんどが肉体労だが、なぜか札による穢れ払いの依頼が複数枚あった。普段なら自力で、お札一つあれば解決する、日常品などの簡単な穢れ払い。
なにもギルドに依頼しなくても、本来なら札を買えば済む話である。
ハンターに頼むのは汎用札では効率が悪かったり、あるいは札だけでは解決できない時くらいである。
「札、足りない。粗悪品多い、です。みんな、困ってる言ってた」
サキに持たせてあった札は存分に役立ったようだ。
丸一日、ただ留守番するより、なにか自分にもできるクエストをしたいと言ったときは、少し戸惑ったが、前の主人は、どうやら枠外クエストを奴隷たちにさせていたらしい。少しでも手が空いた奴隷を、休ませるのはもったいないと考えていたようだ。
ともあれ、この国に来て以来ずっと感じていた「お札」の慢性的な不足状態。ここが帝国国外だとしても、仮にも友好国であり、帝国が正規の札の流通を許可している国の一つである。帝国民のように配布こそされてないが、正規の汎用札も、国際機関のハンターギルドや商業ギルドを通じて、きちんと流通しているはずだった。
実際、ハンターギルドには割高とはいえ正規の札が販売されていた。商業ギルドには一度だけ交易品の確認に行っただけだったが、その時はそこまで確認しなかった。
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