晴明、異世界に転生する!

るう

文字の大きさ
67 / 137
第四章 ハンター

4-10 ビゼーとビソン

しおりを挟む
「一週間の延長かい? 順調みたいだね。だけど、まだまだ無理は禁物だよ。慣れた頃が一番怖いんだからね」

 しばらく滞在することになるので、朝一番で宿泊延長の手続きをした。大きな宿ではないが、ここの女将さんの料理は美味しいし、泊っている人も常連さんばかりなのか、和やかでとても居心地がいい。
 女将さんは自分の息子と同い年のセインのことを、とにかく気にかけてくれている。

「まったくたいしたもんだよ、その年で立派にハンターとしてやってるんだからね」

 そう言って、女将さんは二人分の携帯食を渡してくれた。従魔も普通の食事をすると知ってからは、少し多めに包んでくれるようになった。
 とてもいい気分で宿を出て、今日も一日がんばるぞ、とセインは清々しい気持ちになった。

「おやおや、これは出来損ないの弟くんじゃないか」
「こんなところで会うとはな。この辺は、平民街だろう……いや、未熟者にはお似合いかな」

 セインのテンションは一気に下がった。
 とっさに兄上と呼びそうになって、すぐに首を振る。ここでは、ロルシー家の名を出してないのだ。宿屋の人たちに変に気を遣われたくない。
 セインはさりげなくギルド近くの広場まで誘導し、改めて彼らに向き合った。

「何か御用ですか? 兄上」
「せっかく様子を見に来てみれば、とんだご挨拶だな、出来損ないの弟よ」

 三男ビゼーの口癖、出来損ないの弟……もちろんセインを指す言葉だ。別館に移ってからは言われたことがなかったので、ずいぶん久々に聞いたが、今となっては何の感情もわかない。
 かつては、ひどく傷ついた言葉だった。
 その言葉は、当時の幼いセインの心に深い傷をつけた。なにしろセイン本人が、自覚しており、後ろめたく思っていたことだったからだ。
 当然ながら、彼らはそれをわかって言っていた。メイドや召使い、使用人たちの前でわざと頻繁に口にして、一方で家族の前では決して罵らなかった。

『矮小で姑息な餓鬼どもじゃな。主よ、言うてくれれば、こ奴らに地獄を味わわせてくれようぞ』

 ――まあまあ、嫌味たらしいやつらだが、ただ口が達者なだけだ。

 ツクが青筋を立てるのを、セインが諫めた。あれほど心をえぐった言葉も、今はなにも感じないことにかえって驚いた。むしろその言葉の裏には、彼らの焦りのようなものさえ感じられた。

「デオル兄上の屋敷に滞在してるようですね」
「ああ、そうだ」
「まあ、おまえは庶民の宿屋が大層気に入ってるみたいだがな」

 兄のすねを齧って居候しているんですね、という嫌味を言ったつもりが、なぜか盛大にドヤ顔で返されて、さすがのセインも呆れてしまった。そして、最高の笑顔でにこやかに続ける。
 
「なんでも大変な依頼を受けているとか、もう解決なされたのですか? さすがですね兄上」
「う……う、うむ。いや、まあそうだな」

 そこで初めてビゼーが顔色を変えた。ビソンもなんだか目が泳いでいる。

「いまはまだ調査の途中だ。な、なにしろ難しい案件なんだ! お前が受けているような、小物が受けるような依頼ではないのだからな!」

 唾が飛んできそうな位置でそんなに怒鳴らなくても聞こえるが、ビゼーはそれこそ息を切らせるほどの勢いでまくしたてた。

「ビゼー兄上の言う通りだ。我らは、この鉱山都市に巣食う悪しき穢れを祓うために、ありとあらゆる手を尽くしている最中なんだ。少なくとも、未熟なお前などでは手も足もでないだろうがな!」

 なぜそこでセインが出てくるのか意味不明だが、ともかく自分たちの方が断然優れているのだと力説したい意思は伝わった。
 しかも農村地のほんの一角の穢れ払いが、いつのまにか鉱山都市の命運を握るほどの重大な事件になっている。ともかく未解決の依頼を抱えたまま、彼らがなぜこんなところまで来て油を売っているのかを、セインは察した。
 一言でいえば、うまくいっていないのだ。
 そしてデオルあたりが、セインだったら……とかなんとか、不用意にぽろっと口にしたのかもしれない。セインのあずかり知らぬところで勝手に貶されたと思い込んで、こうしてわざわざ憂さ晴らしにきたのだろう。
 穏便に済まそうとしてたセインの額にも、ちょっとだけ青筋が現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。

さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。 聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。 だが、辺境の村で暮らす中で気づく。 私の力は奇跡を起こすものではなく、 壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。 一方、聖女として祭り上げられた彼女は、 人々の期待に応え続けるうち、 世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。

超能力者なので、特別なスキルはいりません!

ごぢう だい
ファンタジー
 十歳の頃に落雷の直撃を受けた不遇の薫子は、超能力に目覚める。その後十六歳の時に二度目の落雷により、女神テテュースの導きにより、異世界へ転移してしまう。ソード&マジックの世界で、薫子が使えるのは超能力だけ。  剣も魔法も全く使えない薫子の冒険譚が始まる……。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

処理中です...