131 / 137
第七章 海への道
7-16 ガイの旧友
しおりを挟む
「話は少し聞いている……が、正直、その件については、心当たりに連絡を取っている最中です。まだ返答が来ていないので何ともお答えできない次第で」
ガイは申し訳なさそうに苦笑したが、セインとしてはすでに手を打ってくれていたことの方に驚いた。つい最近、話を聞いたばかりのはずなのに、もう伝手を当たってくれていたとは。
ちょっと感動してお礼を言おうとしたが、ガイは慌てて目の前で手を軽く振った。
「いや、まあ……実は、奴を探したのは別件がらみでのことで……それがたまたま、今回の件でもかかわりがある奴だったんですよ」
あまり期待を持たせてもいけないと思ったのか、慌ててそう続けた。
その男はガイの昔の仲間、いわゆるハンターパーティの一人だった。二つ名こそなかったが、彼もマスターランクCで、短弓、短剣使いのシーフだった。
罠の解除、鍵開けから、隠密、斥候まで、戦闘の戦力としては心許ないが、パーティにはいなくてはならない存在だったようだ。
「名はキムリ。数年前に離婚してからハンター業を退き、フリーで情報屋に、何でも屋、気まぐれに船乗りになったりと、フラフラと放浪して所在がわからないんですよ」
「……離婚、ですか」
「相手はメイジーという名で、同じパーティメンバーでした。彼女はこけら族で年若く見えるが、最年長だったこともあり頼りになるリーダー的存在でした」
「こっ、こけら族……!」
思わず大きな声を出しそうになって、すんでのところでなんとか堪えた。
「彼女は両親ともこけら族だったんですが、彼女の祖父が、交易品を商会に卸しに、度々地上と行き来していたようで、メイジーは幼い頃から地上に興味があったそうです」
実のところ、こちらからは地下には行けないが、今でもこけら族は稀に地上へ出ているようだ。なにしろ、昔と違ってこけら族も地下で手に入る物資だけでは満足できないからだ。何十年も地上と取引をしていれば、その生活様式も変わってくるのは仕方がない。
便利に慣れれば、不便には簡単には戻れないものである。
とはいえ、先人の怒りを無視することもできず、人々に紛れるようにしてこっそりと物資を調達していた。
そんな中、メイジーは地上の生活に憧れ、両親の反対を押し切って飛び出した。また、地上の生活が肌に合ったのか、ハンターとして身を立てるようになった。
数年後キムリと出会い、パーティを組むうちに恋仲になり、やがて結婚したというわけである。メイジーはかなりの姉さん女房だったようだったが、こけら族は成人になるとそれほど容姿が変わらないため、それを気にする者はいなかった。
「ただ、生まれた子の身体が弱くて、その子が十になる年に、突然、離縁届を置いて、彼女は子供とともに姿を消してしまった」
セインは思わず「あっ」と、小さく声を上げた。その子は当然人間とのハーフである。ジャズ夫婦の子供と同じ病だったに違いない。
ガイは頷いて続けた。
「アイツは何も言わなかったけれど、おそらくメイジーは両親の元へ戻り、助けを求め、そして条件として帰ってくるようにとでも言われたのかもしれない」
――そうか、メイジーさんはこけら族だから、海側の通路からこけら族の地下コロニーへ行けるんだ。
「そんなわけで、正直なところメイジーが姿を消して数年経った今となっては、キムリに聞いたところで彼女への伝手があるかどうかもわからないんだ」
確かに、完全に関係を断っているとしたら、望み薄かもしれない。それでも、可能性がないわけではない。ジャスさんの様子からも、悠長に他を当たるほどの時間はないと思えた。
こけら族との交流は、この辺りの国では、ほとんどマリン港が唯一といっていいからだ。
「……そういえば、キムリさんには他に用事があると言ってましたが。あ、もちろん、なにか極秘のことならお聞きしませんが」
こうなっては待つ以外、他に手がないのでセインは少し気になったことを聞いた。
「まあ、極秘とまでは言いませんが……そうですね、この国だけの問題ではなさそうですし、なにより、ロルシー家の方なのですから、無関係ではないでしょう」
少し逡巡したのち、ガイは「むしろ意見を頂きたい」と、声を潜めるように身体を寄せた。
「え、無関係じゃない……て、どういう?」
話のついでにちょっと聞いただけのつもりだったセインは、本題より熱心な様子になったガイの圧に押されて、思わずたじろぐことになった。
ガイは申し訳なさそうに苦笑したが、セインとしてはすでに手を打ってくれていたことの方に驚いた。つい最近、話を聞いたばかりのはずなのに、もう伝手を当たってくれていたとは。
ちょっと感動してお礼を言おうとしたが、ガイは慌てて目の前で手を軽く振った。
「いや、まあ……実は、奴を探したのは別件がらみでのことで……それがたまたま、今回の件でもかかわりがある奴だったんですよ」
あまり期待を持たせてもいけないと思ったのか、慌ててそう続けた。
その男はガイの昔の仲間、いわゆるハンターパーティの一人だった。二つ名こそなかったが、彼もマスターランクCで、短弓、短剣使いのシーフだった。
罠の解除、鍵開けから、隠密、斥候まで、戦闘の戦力としては心許ないが、パーティにはいなくてはならない存在だったようだ。
「名はキムリ。数年前に離婚してからハンター業を退き、フリーで情報屋に、何でも屋、気まぐれに船乗りになったりと、フラフラと放浪して所在がわからないんですよ」
「……離婚、ですか」
「相手はメイジーという名で、同じパーティメンバーでした。彼女はこけら族で年若く見えるが、最年長だったこともあり頼りになるリーダー的存在でした」
「こっ、こけら族……!」
思わず大きな声を出しそうになって、すんでのところでなんとか堪えた。
「彼女は両親ともこけら族だったんですが、彼女の祖父が、交易品を商会に卸しに、度々地上と行き来していたようで、メイジーは幼い頃から地上に興味があったそうです」
実のところ、こちらからは地下には行けないが、今でもこけら族は稀に地上へ出ているようだ。なにしろ、昔と違ってこけら族も地下で手に入る物資だけでは満足できないからだ。何十年も地上と取引をしていれば、その生活様式も変わってくるのは仕方がない。
便利に慣れれば、不便には簡単には戻れないものである。
とはいえ、先人の怒りを無視することもできず、人々に紛れるようにしてこっそりと物資を調達していた。
そんな中、メイジーは地上の生活に憧れ、両親の反対を押し切って飛び出した。また、地上の生活が肌に合ったのか、ハンターとして身を立てるようになった。
数年後キムリと出会い、パーティを組むうちに恋仲になり、やがて結婚したというわけである。メイジーはかなりの姉さん女房だったようだったが、こけら族は成人になるとそれほど容姿が変わらないため、それを気にする者はいなかった。
「ただ、生まれた子の身体が弱くて、その子が十になる年に、突然、離縁届を置いて、彼女は子供とともに姿を消してしまった」
セインは思わず「あっ」と、小さく声を上げた。その子は当然人間とのハーフである。ジャズ夫婦の子供と同じ病だったに違いない。
ガイは頷いて続けた。
「アイツは何も言わなかったけれど、おそらくメイジーは両親の元へ戻り、助けを求め、そして条件として帰ってくるようにとでも言われたのかもしれない」
――そうか、メイジーさんはこけら族だから、海側の通路からこけら族の地下コロニーへ行けるんだ。
「そんなわけで、正直なところメイジーが姿を消して数年経った今となっては、キムリに聞いたところで彼女への伝手があるかどうかもわからないんだ」
確かに、完全に関係を断っているとしたら、望み薄かもしれない。それでも、可能性がないわけではない。ジャスさんの様子からも、悠長に他を当たるほどの時間はないと思えた。
こけら族との交流は、この辺りの国では、ほとんどマリン港が唯一といっていいからだ。
「……そういえば、キムリさんには他に用事があると言ってましたが。あ、もちろん、なにか極秘のことならお聞きしませんが」
こうなっては待つ以外、他に手がないのでセインは少し気になったことを聞いた。
「まあ、極秘とまでは言いませんが……そうですね、この国だけの問題ではなさそうですし、なにより、ロルシー家の方なのですから、無関係ではないでしょう」
少し逡巡したのち、ガイは「むしろ意見を頂きたい」と、声を潜めるように身体を寄せた。
「え、無関係じゃない……て、どういう?」
話のついでにちょっと聞いただけのつもりだったセインは、本題より熱心な様子になったガイの圧に押されて、思わずたじろぐことになった。
1
あなたにおすすめの小説
天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない
戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――!
現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、
中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。
怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として
荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。
だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、
貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。
『良領主様』――いや、『天才王子』と。
領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、
引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい!
「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」
社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく!
――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚!
こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています
是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
超能力者なので、特別なスキルはいりません!
ごぢう だい
ファンタジー
十歳の頃に落雷の直撃を受けた不遇の薫子は、超能力に目覚める。その後十六歳の時に二度目の落雷により、女神テテュースの導きにより、異世界へ転移してしまう。ソード&マジックの世界で、薫子が使えるのは超能力だけ。
剣も魔法も全く使えない薫子の冒険譚が始まる……。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~
九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。
ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。
そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。
しかも精霊の力に満たされた異世界。
さて…主人公の人生はどうなることやら。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる