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第七章 海への道
7-15 手がかりを求めて
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「こんにちは」
その日、セインはフラムの老夫婦に会いに、彼らが身を寄せているブルーノ商会へ出かけた。ジャズ夫妻の話を聞いてから数日、改めていくつかの商店、商業組合、果ては船乗りにまで話を聞いた。けれど、やはり地元の人間が頑張って探して、見つからなかったものがそう簡単に見つかるわけもなかった。
「これはセイン様、お待ちしておりました。頼まれていた紹介状がこちらです。この地を預かる港主マキノ様は、幼い頃からこの土地におられた方ですし、ご自身が高位のハンターだったという経歴をお持ちの方ですので、なにか有益なお話が訊けるかもしれません」
無理を言ってブルーノ商会の伝手を使い、特別にこの土地のトップ、いわゆる海岸管理者との会談を手配してもらったのだ。この港と港町を管理する者で、貴族の位がないと担当できない。
元マスターランクのハンターで、男爵家の四男、そしてマスターランクになった際、国から準騎士の称号をもらっているらしい。
最後の手段というわけではなかったが、こけら族ともパーティを組んだことがあるという元ハンターに話が訊けるとあって、かなり期待感は高まった。
日中は仕事場にしている屋敷に居るとのことで、さっそく港から少し歩いた場所にある港の管理、入港手続き、検疫などを行う各種役所が集まった場所へと向かった。思ったより行き交う人は多く、商店が集まる場所とはまた違う静かな活気がある。
特に塀に囲まれているわけではなかったが、入り口には小さな詰所があり、門番が二人立っていた。とはいえ、別に通行証が必要というわけでなく、よっぽど怪しい人物でもない限り呼び止められることはないようだ。
目的の建物へ入り、受付に紹介状を渡すと、すぐに部屋の奥に通された。
友好国、しかも帝国貴族の子息ということが知らされているらしく、やたらと恭しい態度の案内人に促されて応接間へと案内された。
いちハンターとして向かったセインとしてはなんだかむず痒くあったが、おそらく相手も元ハンターとしてというより、貴族として、この港のトップとしての立場を優先したのだろう。
「初めましてセイン・ロルシーと申します」
なのでこちらも、きちんと姓まで名乗った。
セインの礼に答え、相手も敬意を払うように胸に手をあて頭を下げた。
「我がマリンへようこそ、心より歓迎いたします。私は港主を務めるガイ・マキノでございます」
日に焼けた肌に、広い肩幅。先ほどくぐった扉が小さく見えるほど、筋肉質の大きな体躯。黒に近い茶色の髪は短くカットされている。服装もシャツにズボン、ブーツと言った格好で、いかにも海の男といった姿である。さらに付け加えるなら、あまりの強面の為、ちょっとだけ海賊っぽいと思ったことは内緒である。
「最近ハンターになったばかりなので、マスタークラスの方に会うのは初めてで、お会いすることができてとても光栄です」
お互いを紹介し合ったあと、軽く会話をしたのち、セインはそう切り出した。お世辞抜きで、尊敬の念を向けるセインに、ガイは照れくさそうに笑った。肌の浅黒さのせいもあり、綺麗に並んだ真っ白の歯が眩しい。
「昔の話ですよ。それに、マスターと言っても一番下の階位だったので、ほぼゴールドとかわりませんがね」
「あ、マスターランクには、更に区別があるのですか?」
恥ずかしながらセインはその辺のことをあまり知らない。なにしろ、ハンターになろうと思ったのも鉱山に潜るための手段に過ぎなかった。もっとも最近では、家業で身を立てられないなら、ハンターとしてやっていくのもいいな、と思い始めていたことも確かだ。
なにしろ家業を継ぐには上に優秀な兄達が多すぎるし、正直なところ活動を始めて、改めて勉強不足を思い知らされることの連続である。
ばあやに過保護にされて箱入りだったところから、兄達に別館に閉じ込められて強制的に箱入りになり、ほぼ先日まで世間を知らなかったことを、折に触れ、痛感させられる毎日である。とはいえ、現地でいろいろ覚えたり、こうして知らない場所に飛び込むのも、これはこれで面白いと感じるようになった。
――若いって最高だ。
今は召喚してない式たちが見たら、そんなところがじじくさいんだよ、とため息をつきそうなことを想いながら、セインはガイの話を面白そうに聞いていた。
「帝都あたりまで行かないと、めったにマスターランク自体いませんから、こんな辺境の港町では、確かに見掛けないかもしれませんね」
「ロルシーの領地でも、マスターランクはめったに見ません」
もっともロルシー領では、ほぼマスターランクは鉱山都市で高位のダンジョンに籠っているか、帝都や国防のために派遣されていたりと、普段の平和な街中では見ないだけで、結構の数のマスターランクのハンターが登録している。
ちなみに、マスターランクには、能力値の上下のほか、区分もあり、この辺りはほとんど二つ名がついているという。大きくはCからSSがあり、現在、ハンターに登録している中でSSは不在とされている。ほとんどがマスターランクAまでで、その中でも二つ名によって功績などの区別をしているようだ。
セインとしてはガイの二つ名が気になったが、出されたコーヒーを一口飲んだ彼は「それで」と、本題に入った。
「こけら族のことについて聞きたいそうですね」
もうちょっとマスターランクについても聞きたかったが、もちろん今回の本題はそこじゃないので、セインも姿勢を整えた。
「はい、正確にはこけら族が持ち込む交易品、人魚の卵について」
その日、セインはフラムの老夫婦に会いに、彼らが身を寄せているブルーノ商会へ出かけた。ジャズ夫妻の話を聞いてから数日、改めていくつかの商店、商業組合、果ては船乗りにまで話を聞いた。けれど、やはり地元の人間が頑張って探して、見つからなかったものがそう簡単に見つかるわけもなかった。
「これはセイン様、お待ちしておりました。頼まれていた紹介状がこちらです。この地を預かる港主マキノ様は、幼い頃からこの土地におられた方ですし、ご自身が高位のハンターだったという経歴をお持ちの方ですので、なにか有益なお話が訊けるかもしれません」
無理を言ってブルーノ商会の伝手を使い、特別にこの土地のトップ、いわゆる海岸管理者との会談を手配してもらったのだ。この港と港町を管理する者で、貴族の位がないと担当できない。
元マスターランクのハンターで、男爵家の四男、そしてマスターランクになった際、国から準騎士の称号をもらっているらしい。
最後の手段というわけではなかったが、こけら族ともパーティを組んだことがあるという元ハンターに話が訊けるとあって、かなり期待感は高まった。
日中は仕事場にしている屋敷に居るとのことで、さっそく港から少し歩いた場所にある港の管理、入港手続き、検疫などを行う各種役所が集まった場所へと向かった。思ったより行き交う人は多く、商店が集まる場所とはまた違う静かな活気がある。
特に塀に囲まれているわけではなかったが、入り口には小さな詰所があり、門番が二人立っていた。とはいえ、別に通行証が必要というわけでなく、よっぽど怪しい人物でもない限り呼び止められることはないようだ。
目的の建物へ入り、受付に紹介状を渡すと、すぐに部屋の奥に通された。
友好国、しかも帝国貴族の子息ということが知らされているらしく、やたらと恭しい態度の案内人に促されて応接間へと案内された。
いちハンターとして向かったセインとしてはなんだかむず痒くあったが、おそらく相手も元ハンターとしてというより、貴族として、この港のトップとしての立場を優先したのだろう。
「初めましてセイン・ロルシーと申します」
なのでこちらも、きちんと姓まで名乗った。
セインの礼に答え、相手も敬意を払うように胸に手をあて頭を下げた。
「我がマリンへようこそ、心より歓迎いたします。私は港主を務めるガイ・マキノでございます」
日に焼けた肌に、広い肩幅。先ほどくぐった扉が小さく見えるほど、筋肉質の大きな体躯。黒に近い茶色の髪は短くカットされている。服装もシャツにズボン、ブーツと言った格好で、いかにも海の男といった姿である。さらに付け加えるなら、あまりの強面の為、ちょっとだけ海賊っぽいと思ったことは内緒である。
「最近ハンターになったばかりなので、マスタークラスの方に会うのは初めてで、お会いすることができてとても光栄です」
お互いを紹介し合ったあと、軽く会話をしたのち、セインはそう切り出した。お世辞抜きで、尊敬の念を向けるセインに、ガイは照れくさそうに笑った。肌の浅黒さのせいもあり、綺麗に並んだ真っ白の歯が眩しい。
「昔の話ですよ。それに、マスターと言っても一番下の階位だったので、ほぼゴールドとかわりませんがね」
「あ、マスターランクには、更に区別があるのですか?」
恥ずかしながらセインはその辺のことをあまり知らない。なにしろ、ハンターになろうと思ったのも鉱山に潜るための手段に過ぎなかった。もっとも最近では、家業で身を立てられないなら、ハンターとしてやっていくのもいいな、と思い始めていたことも確かだ。
なにしろ家業を継ぐには上に優秀な兄達が多すぎるし、正直なところ活動を始めて、改めて勉強不足を思い知らされることの連続である。
ばあやに過保護にされて箱入りだったところから、兄達に別館に閉じ込められて強制的に箱入りになり、ほぼ先日まで世間を知らなかったことを、折に触れ、痛感させられる毎日である。とはいえ、現地でいろいろ覚えたり、こうして知らない場所に飛び込むのも、これはこれで面白いと感じるようになった。
――若いって最高だ。
今は召喚してない式たちが見たら、そんなところがじじくさいんだよ、とため息をつきそうなことを想いながら、セインはガイの話を面白そうに聞いていた。
「帝都あたりまで行かないと、めったにマスターランク自体いませんから、こんな辺境の港町では、確かに見掛けないかもしれませんね」
「ロルシーの領地でも、マスターランクはめったに見ません」
もっともロルシー領では、ほぼマスターランクは鉱山都市で高位のダンジョンに籠っているか、帝都や国防のために派遣されていたりと、普段の平和な街中では見ないだけで、結構の数のマスターランクのハンターが登録している。
ちなみに、マスターランクには、能力値の上下のほか、区分もあり、この辺りはほとんど二つ名がついているという。大きくはCからSSがあり、現在、ハンターに登録している中でSSは不在とされている。ほとんどがマスターランクAまでで、その中でも二つ名によって功績などの区別をしているようだ。
セインとしてはガイの二つ名が気になったが、出されたコーヒーを一口飲んだ彼は「それで」と、本題に入った。
「こけら族のことについて聞きたいそうですね」
もうちょっとマスターランクについても聞きたかったが、もちろん今回の本題はそこじゃないので、セインも姿勢を整えた。
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