晴明、異世界に転生する!

るう

文字の大きさ
117 / 137
第七章 海への道

7-2 依頼書

しおりを挟む
 セインが引き抜いた依頼書。そこには、この港町でかなり有名な大店が依頼人として記載されていた。
 内容は、重度の血の穢れ、対象は刃物。穢れ払い等。
 信用も加味してか、ハンターランクは銀以上、その代わり報酬は上乗せされており、提示された金額は銀貨五枚。追加報酬もあり、とのことだった。
 日本円にすると、五万円ほど。
 帝国が流通する札の価格が、一枚あたり百円から千円ほどだと考えると、かなり奮発した依頼料である。
 なるほど、と察しがついた。

『ははん、割のいい依頼を先に取られたので、いちゃもんを付けようという気じゃな』

 着物に下駄という座敷童のような姿のツクは、腰に手を当て、仰ぎ見るように大男を睨みつけた。
 まるで挑発するかの様子だが、当然ながら、その姿はセインにしか見えない。そしてセインは、相変わらず大男に上から覗き込まれるのが苦手だった。
 自分より大きな相手に、無抵抗のまま殴る蹴るの暴行を受けたというトラウマは、前世の記憶を取り戻し、心が安定した今でも身体がしっかり覚えている。まったくもって、今更ながら忌々しい記憶である。
 無意識に身体を屈めるようにして防御姿勢になったセインに、相手は「っと、すまない。びっくりしたか」と、慌てて身体を起こして少し後ずさった。

「それだよそれ、手に持ってるやつ。その依頼は、簡単そうな穢れ払いだが対象は銀ランクだ。それに、ほれ、その右下見て見ろ」

 どうやら男は、セインが間違って高ランクの依頼を取ってしまったと勘違いしたようだ。それを指摘しようとしたが、とりあえず彼のアドバイスどおり、依頼書の右下を見た。

「……これは? チェックが、一つ二つ……五つ? 銅、銅、最後は銀かな」
「それは、いままで失敗したハンターの印だ。横のランクが、受けたハンターのランク。おそらく追加報酬というのは、依頼失敗でハンターが支払った違約金も嵩増ししてやるってこったろうな」

 ハンターランクのブロンズが四回、シルバーが一回、依頼を完遂できなかったということだ。失敗や辞退による違約金は、依頼主が受けた損害に比例するので、この手の案件なら大した金額ではないだろう。とはいえ、それでも成功すればかなりの収入を得ることが出来る。
 なるほど、まだ彼の意図がどこにあるかわからないが、少なくとも僕のような子供が扱える依頼書じゃないと思っているということだ。

「ご親切にありがとうございます。ですが、僕の家系はこういうのを得意としてますから」

 そう言って、セインはギルドのランクを示すためにも、ハンターカードを差し出した。親切心で言ってくれているのだとしても、ともかく数日間の宿代、食事代などの路銀を稼ぐ必要はあるのだ。この依頼が無茶かどうかは、受付嬢に詳しい話を聞いてからでも遅くない。

「お、なんだ。坊やのくせに銀ランク相当だと? 一体何をやってこんな……」

 ランクに驚いた大男は、あらためてセインを見て、もう一度カードを確認して「ん?」と、考え込むように目を瞑って目頭を押さえた。

「ロルシー……どっかで聞いたような」

 少し考えた後、大声で「あ!」とハンマーのような拳と、グローブのような手をドンッと合わせた。

『……素手の音じゃねえな』

 テンがいささかビビったように、ツクの後ろに隠れて呟いている。

「思い出した、目ん玉が飛び出るほど高級な札に、ばっちり書かれているサインじゃねえか」

 一般的な汎用札には、小さくロルシー家の象徴のマークが印してあるだけだが、行事や祭事に使われる超高級仕様の品物には、ばっちりロルシー当主のサインが入っている。高級品を使ってますよ、という主催者のプライドを示すように、目立つところにしっかりと。
 ロルシー当主の直筆サインがあるお札は、品質を保証するブランド品だ。それをサインできるのは、もちろんロルシー家の家長、すなわち侯爵ただ一人というわけである。
 そして、いつものように相手の視線はセインの髪に移動した。

「……白、いや白と黒、かな? 変わった髪色だな、金色と銀色しか聞いたことがないが」

 ――あれ?

 セインは、首をひねった。当然、いつものように成人前の灰色の髪のことを言われるかと思ったが、大男の見立ては違った。

「なんて顔してんだ。なんだ、もしかして変な色だって虐められてるのか?」
「あ、いえ、あー……そうですね、揶揄はされてましたね。この歳で、まだ灰色なのかって」
「灰色? いや、これは灰色じゃねえだろ。どっちかってえと白だぜ、これ。ほれ、見て見ろ」
「……ッ!? 痛い!」

 いきなり髪を一本抜かれたため、びっくりして大きな声が出た。相手は悪びれた様子もなく「悪い悪い、見た方が早いと思って」とか言って笑っている。
 差し出された髪は、確かに白で、一本の毛の中に不規則な間隔で濃淡の黒が混じっている。髪をかき分けると、黒い部分が目立つが、綺麗に撫でつけるとほぼ白に見えるといった具合である。

「いつの間に……」

 髪質が変わったな? とは思っていたが、ガラスさえ貴重なこの世界に、鏡などという代物がそのへんにあるわけではない。しかも、いきなり変化したならまだしも、セインの周りにいる人々は、本人も含め、ほとんどが妖狐族に詳しくないし、気にもしなかったというのが正しいだろう。
 もっとも、成人の証である妖狐の姿への変化もないので、本当にこれが成人への変化かどうかすらわからない。
 と、言うことで、今はそんなことより。

「それで、お兄さん。この依頼書が欲しいとか、そういう話でよかった?」
「うん? 坊や、いや、セインだったか。まだ子供のナリだったから、ビギナーが間違えて依頼書を取ったのかと思っただけだ。銀ランクで、内容を理解してるなら口出ししない、悪かったな」

 セインが突き付けた依頼書が、行き場を失ってへにゃりと折れ曲がった。
 どうやら本当に、ただの人のいいおっさんだったようだ。
 余計なお世話だったか、とどこか気恥し気にぼりぼりと頭をかきながら、立ち去ろうとしていた彼を、セインは思わず慌てて引き留めた。

「あ、待って。えーと、そうだ。よかったら、名前を」
「おっ、そうだな。こっちだけ聞いて、自己紹介まだだったな。俺はハンターランクシルバーのジャズだ。同じハンターだ、どこかで会ったらよろしくな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。

さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。 聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。 だが、辺境の村で暮らす中で気づく。 私の力は奇跡を起こすものではなく、 壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。 一方、聖女として祭り上げられた彼女は、 人々の期待に応え続けるうち、 世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。

超能力者なので、特別なスキルはいりません!

ごぢう だい
ファンタジー
 十歳の頃に落雷の直撃を受けた不遇の薫子は、超能力に目覚める。その後十六歳の時に二度目の落雷により、女神テテュースの導きにより、異世界へ転移してしまう。ソード&マジックの世界で、薫子が使えるのは超能力だけ。  剣も魔法も全く使えない薫子の冒険譚が始まる……。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫
ファンタジー
亡くなった祖父の後を継いで、半農半猟の生活を送る主人公。 ある日の事故がきっかけで、違う世界に転生する。 そこは中世日本の面影が色濃い和風世界。 しかも精霊の力に満たされた異世界。 さて…主人公の人生はどうなることやら。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

処理中です...