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第六章 守り神
6-19 新たな指針
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報告もかねて役場へ向かうため、セインが商店通りに差し掛かった時、脇道の細い通路に二つの人影が見えた。この辺りはまだ貧困地区にも近いため、日銭を稼ぐ労働者が、疲れて人目を避けて座り込んでいることもある。
それから、犯罪者も。
セインが気になったのは、一人が身なりがそれなりに良かったからだ。もう片方は、深くフードを被り、丈の長いマント姿だった。
ちょっと興味をひかれたので、近くの商店を物色するように装って、通路の近くで立ち止まった。
「ゆら、水鏡を」
『かしこまりました、セイン様』
ちいさく頷いたゆらは、細い指を男たちの方へ向けると、くるくるっと何かを書く様な仕草をした。すると、小さな丸い水面のようなものが男たちの頭上に現れる。続いて、今度は両手を上に向けてセインの方へと差し出した。
そこには波紋一つない水が張られており、水鏡のように彼らを上から覗き込むような映像が映し出されていた。
「うーん、はっきりしないけど何かの取引かな?」
ゆらの「水鏡」はそれほど鮮明な映像ではない。水面に映った状態程度の画像でしかないのだ。風が強ければ使えないし、激しく動いているものは捉えられない。
『箱のようなものを渡しているようじゃな。あのような場所で取引とは、後ろ暗いことこの上ないのう』
ツクの指摘にセインも苦笑して頷いたが、個人的な、ちょっとだけ表に出せない交易品、という可能性もある。この地域では、ある程度のご法度品の取引は、そこそこあるというのだ。
『あの町長の甥あたりが、賄賂かなんか貰って誤魔化してそう』
キヒヒと下品な笑い方をして、テンが茶化した。
「まあ……でも、よっぽど危険なものでもなければ、僕が口を出すことでもないけどね」
それはカナートの仕事だし、この町の責任において、きちんと監視するよう、注意喚起だけしておこうと思った。それに、別に犯罪と決まったわけではないだろうと、その場を立ち去ろうとした。
最後にもう一度水鏡に目をやると、フードの男が何かを感じたのか上を見上げていた。もちろん、そう簡単にゆらの術にが見えるわけもないが、目を細めて見上げる顔に「あれ?」とセインが思わず呟いた。
「……どこかで、見たような」
けれど、そう気が付いた時には、怪しい二人はすでに奥の闇に消えていた。
その後は何事もなく、セインたちは予定通り役場へと戻った。
これまでの情報収集の成果を、カナートへ報告した。もちろんカナートにとっては、初耳のことばかりだった。なにしろカナートは、ここへ来てまだ数年だし、こう見えてまだ二十歳になったばかりの若人なのだ。
「驚いたな、この下にそのような種族が棲んでいようとは。ここの交易品に人魚の鱗があるのは知っていたが、私はてっきり本当の人魚族のもの……あるいは、偽物や模造品だと思っていた」
人魚族はひどく排他的な人妖だ。そのため、この地に伝わる人魚族の伝記も、それこそ尾ひれがついて伝わったものではないかと考えていたのだ。御伽噺というのは、とかく大げさに伝わるものなのだから。
もしかしたら、吟遊詩人が歌った人魚と人間の恋物語も、こけら族の存在ありきで後付けで作られたものなのかもしれない。
人魚族の姿を美しいと表現したのも、現にこけら族が、男女ともに透き通るような白い肌で、宝石のような青い瞳をもつ美しい容姿だからだろう。髪の色はそれぞれだが、その髪質は人間のものとは違って、貝殻のように光を反射し光沢のあるものらしい。
「だが、この地域に居たはずの種族なのに、不思議なほど私達の耳には聞こえてこないな」
「……前にはあったというフラム近くの入り口が、のちに塞がれたということは、何らかのトラブルがあったのではないでしょうか?」
五十年も経てば、世代交代もある。さらに、この地は所有者が何度か変わっているし、ロルシー家が正式に管轄するようになってから二十年と経ってない。意図的に存在を風化させることも不可能ではないだろう。
「未だに交易品として虹貝の真珠なんかが出回っているのを見ると、どこかで流通経路があるんだろうな」
カナートの言う通り、深い海底にあるという出入口からも、こけら族なら出入りできる。そして、彼らは人間に違和感なく潜り込むことが出来るのだ。
間違いなく、こけら族は存在する。
そして、大本命である守護樹復活の調査依頼。
その手がかりとなる、オスロやボダから聞いた情報にも繋がる共通点が、そこにあるような気がした。守護樹を救ったという謎の人物は、もしかしたら……。
「カナート兄上、お願いがあります」
それから、犯罪者も。
セインが気になったのは、一人が身なりがそれなりに良かったからだ。もう片方は、深くフードを被り、丈の長いマント姿だった。
ちょっと興味をひかれたので、近くの商店を物色するように装って、通路の近くで立ち止まった。
「ゆら、水鏡を」
『かしこまりました、セイン様』
ちいさく頷いたゆらは、細い指を男たちの方へ向けると、くるくるっと何かを書く様な仕草をした。すると、小さな丸い水面のようなものが男たちの頭上に現れる。続いて、今度は両手を上に向けてセインの方へと差し出した。
そこには波紋一つない水が張られており、水鏡のように彼らを上から覗き込むような映像が映し出されていた。
「うーん、はっきりしないけど何かの取引かな?」
ゆらの「水鏡」はそれほど鮮明な映像ではない。水面に映った状態程度の画像でしかないのだ。風が強ければ使えないし、激しく動いているものは捉えられない。
『箱のようなものを渡しているようじゃな。あのような場所で取引とは、後ろ暗いことこの上ないのう』
ツクの指摘にセインも苦笑して頷いたが、個人的な、ちょっとだけ表に出せない交易品、という可能性もある。この地域では、ある程度のご法度品の取引は、そこそこあるというのだ。
『あの町長の甥あたりが、賄賂かなんか貰って誤魔化してそう』
キヒヒと下品な笑い方をして、テンが茶化した。
「まあ……でも、よっぽど危険なものでもなければ、僕が口を出すことでもないけどね」
それはカナートの仕事だし、この町の責任において、きちんと監視するよう、注意喚起だけしておこうと思った。それに、別に犯罪と決まったわけではないだろうと、その場を立ち去ろうとした。
最後にもう一度水鏡に目をやると、フードの男が何かを感じたのか上を見上げていた。もちろん、そう簡単にゆらの術にが見えるわけもないが、目を細めて見上げる顔に「あれ?」とセインが思わず呟いた。
「……どこかで、見たような」
けれど、そう気が付いた時には、怪しい二人はすでに奥の闇に消えていた。
その後は何事もなく、セインたちは予定通り役場へと戻った。
これまでの情報収集の成果を、カナートへ報告した。もちろんカナートにとっては、初耳のことばかりだった。なにしろカナートは、ここへ来てまだ数年だし、こう見えてまだ二十歳になったばかりの若人なのだ。
「驚いたな、この下にそのような種族が棲んでいようとは。ここの交易品に人魚の鱗があるのは知っていたが、私はてっきり本当の人魚族のもの……あるいは、偽物や模造品だと思っていた」
人魚族はひどく排他的な人妖だ。そのため、この地に伝わる人魚族の伝記も、それこそ尾ひれがついて伝わったものではないかと考えていたのだ。御伽噺というのは、とかく大げさに伝わるものなのだから。
もしかしたら、吟遊詩人が歌った人魚と人間の恋物語も、こけら族の存在ありきで後付けで作られたものなのかもしれない。
人魚族の姿を美しいと表現したのも、現にこけら族が、男女ともに透き通るような白い肌で、宝石のような青い瞳をもつ美しい容姿だからだろう。髪の色はそれぞれだが、その髪質は人間のものとは違って、貝殻のように光を反射し光沢のあるものらしい。
「だが、この地域に居たはずの種族なのに、不思議なほど私達の耳には聞こえてこないな」
「……前にはあったというフラム近くの入り口が、のちに塞がれたということは、何らかのトラブルがあったのではないでしょうか?」
五十年も経てば、世代交代もある。さらに、この地は所有者が何度か変わっているし、ロルシー家が正式に管轄するようになってから二十年と経ってない。意図的に存在を風化させることも不可能ではないだろう。
「未だに交易品として虹貝の真珠なんかが出回っているのを見ると、どこかで流通経路があるんだろうな」
カナートの言う通り、深い海底にあるという出入口からも、こけら族なら出入りできる。そして、彼らは人間に違和感なく潜り込むことが出来るのだ。
間違いなく、こけら族は存在する。
そして、大本命である守護樹復活の調査依頼。
その手がかりとなる、オスロやボダから聞いた情報にも繋がる共通点が、そこにあるような気がした。守護樹を救ったという謎の人物は、もしかしたら……。
「カナート兄上、お願いがあります」
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