晴明、異世界に転生する!

るう

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第七章 海への道

7-8 窓の外

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「おかえりなさい、早かったわね」

 宿屋に戻ると、明るい女将さんの声が飛んできた。どうやらランチの忙しい時間らしく、両手に皿とジョッキを持って慌ただしく動いている。こういった大通り沿いの宿屋では、宿泊客以外も食事がとれる大きな食堂があるため、昼食や夕食時はかなりの混雑になるのだ。

「お忙しそうですね、お手伝いましょうか?」
「あはは、気持ちだけ貰うわ。いいからそこに座りな。お昼まだだろう、いま持ってくるからね」

 結構本気だったのだが、女将さんは冗談として受け取ったようだ。宿泊客優先の、いわゆる予約席のようなものがいくつか用意されており、彼女はその一つを指さして、足早に次の注文の品物をテーブルへと運んで行った。
 きびきびと動く、彼女を含めた従業員たちを見て、素人の余計な手出しはかえって邪魔になるかもしれないと、セインは大人しく座ることにした。
 肩かけカバンを隣の椅子に置くと、チャリッと金属音がかすかに響く。先ほどハンターギルドで依頼完了を報告し、さっそく報酬を貰ったのだ。

「銀貨五枚と、追加報酬が銀貨二枚、銅板八枚。それに依頼主からチップとして銀貨一枚と……」

 セインはカバンの横に上着を脱いで、その上にルーカスから譲ってもらった「人魚の卵」を置いた。上着のフードで寝ていたコウキが、もそもそと出てきて卵に気が付くと、スリッとほおずりして寄り添うように再びまどろんで丸まった。

『……玉子焼きにならなきゃいいけど』

 その様子を茶化すように笑ったのはテンだ。自分で言って可笑しかったのか、くすくすと笑いつつ宙に浮いている。ツクやゆらも普段あまり姿を見せない彼らが総出で卵を見ているのを見ると、やはりこの卵には何かあるのかもしれない。

 ――そういえば、騰蛇に聞きそびれたな。この卵のこと。

「はい、お待ちどう……あら? それは、もしかして」

 昼食としてパンとシチューを持ってきた女将さんは、上着の上に置かれたそれに釘付けになっている。

「あ、これですか? 成功報酬の上乗せで、依頼人から貰ったんですよ……女将さん?」

 セインの声が聞こえてなかったのか、女将さんは料理を持ったまま卵をじっと見つめている。セインに呼ばれて、はっと気が付いたように、手に持ったパンとシチューの皿をテーブルへ置いた。

「そ、そうなの、依頼、上手くいったのね。ごめんなさい、実はずっと以前に見たことがあってね、ちょっと懐かしかったから」

 そう言って、どこか誤魔化したように笑った女将さんは、またすぐにお客に呼ばれて戻って行った。少し様子がおかしかったような気もしたが、そのあとも普通に忙しく働く女将さんを見るに気のせいだったかもしれない。

「……美味しそうだ」

 セインはさっそく手を合わせ、スプーンを手に取った。サキにも食べるように促して、二人は湯気の立ち上る料理を食べ始めたが、しばらくするとセインの手が止まった。
 白く濁った窓ガラス越しに、見知った人物が見えた気がしたからだ。
 思わず立ち上がって、外へと続く扉を開けた。
 赤茶に近いくせ毛の金髪が、くるりと踵をかえして向かいの建物の間の路地に消えるところだった。慌てて後を追おうとしたが、宿屋の前の大通りはとにかく人通りも多く、馬車も行き交う町で一番交通量が多い場所だ。人にぶつかり、馬車に遮られ、なんとか通り抜けた時には、先ほど見た人影はどこにもなかった。

「なんでこんなところに……いや、見間違いか。あんな粗末な服を着ているはずもないし」

 もう一人いた気がするが、こちらからは完全に影になって見えなかった。立ち止まって考えていると、いきなりシャツの裾を掴まれた。

「……どう、かした? 慌てて。道、走ったら危ない」

 セインが席を立った直後、どうやらサキがすぐに追いかけて来たらしい。
 身体能力に優れているサキは、これくらいの人通りなら誰にも触れずにすり抜けることが容易である。そんな彼女からすれば、人にぶつかり、馬車に轢かれそうになりながら、それでも一目散に走って行ったセインを心配するのは当然だった。

「ごめん、心配かけたね。知り合いを見たような気がしたんだけど……気のせいだったかも」
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