晴明、異世界に転生する!

るう

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第七章 海への道

7-9 意外な再会

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 宿屋の自室に戻ったセインは、貰った卵を机の上に置いて眺めた。窓ごしに陽の光に透かすと、中心になにか塊のようなものが浮いている。

「ルーカスさんはハズレって言ってたけど……」

 いわゆる「人魚の卵」は、本物のそれと同様で始めは握りこぶし程度の大きさである。それが数か月の時を経て、バスケットボールくらいの大きさまで育つのだ。生命が宿ると卵は乳白色になって中身が見えなくなるので、空卵かどうかはすぐにわかるらしい。
 
「今頃になって海水晶ができるのかな?」

 フカフカのクッションの上に置かれた卵に、やがてハクが周りをくるりと包み込むように座り、その上にコウキが乗った。

『なにをとぼけたことを言っておるのじゃ、これは海水晶などではないぞ。ほれ、コウキやハクの方が察しがいいようじゃ』

 腕を組んだツクが、些か呆れたように机に腰かけ足を組んでいる。

「え……、もしかして」

 セインが改めて卵に触れると、先ほどと同様、ぷくぷくっと水泡が踊って中央の塊がほんのちょっと大きくなったような気がした。とはいえ、黒ゴマ程度の大きさではあるが。

「うーん、ちっさすぎてよくわからない、けど。もしそうなら嬉しいけどね」

 ツクや他の式たちの様子から、ここに宿るモノが何かは想像がついた。この場合、揃った条件は卵ではなく、ゆらとセインの力によって変化した「水」だろう。
 となると、ここから生まれるのはおそらく……。

「まだ確定というわけではないけれど、ともかくこの卵は手元に置いておこう」

 いわゆる報酬の一つだから換金するのが普通だろうけれど、そういうことなら手放すわけにはいかない。今回の報酬で、当面のとりあえずの資金は手に入れたので、明日からは当初の予定に戻って調査のために聞き込みを再開することにした。

「情報となると活気のある船の入る波止場あたりがいいかな。うちの領地も含めてこのあたりの玄関口だし、外からの情報もあるだろうしね」

 翌日、朝食を済ませたセインは、朝早くから宿屋を出発した。
 卵とハクは留守番である。それほど価値のないハズレ卵を盗む泥棒もいないとは思うが、一応は護衛として一緒に置いてきたのである。
 ここは町の中心部なので、港までは少し歩く必要がある。
 朝の早い時間にもかかわらず、この町はとても活気がある。珍しいものが並ぶ商店に、セインはついつい何度も足を止めてしまう。見たこともない果物、鮮やかな色合いの魚など、初めて見る物のオンパレードで目的を忘れてしまいそうだった。
 依頼を経て、資金も手にし、心に余裕が出来たことで、ようやく周りに目を向けることができたのだ。そうして歩いていると、そろそろ商店街もすぎ、周りは貿易関係の商会や、交易品を扱う倉庫業、船乗りたちへ向けた飲食店に、軽食や果物を取り扱う屋台が立ち並ぶ風景へと変わっていった。

「この辺に来ると一気に海の匂いだなあ」
「私、ちょっと苦手……かも」

 サキは鼻を押さえて苦い顔をしている。無理もない、もともと山地や高地に住まう山羊の獣人にとって、海にはあまり馴染みがない。緑の匂いとは対照的なこの香りは、なかなか慣れないのかもしれない。
 
「さて、どの辺から始めようかな」

 体格のいい男たちが、威勢のいい掛け声とともに自分より二倍は大きい積み荷を肩に担ぎ、次から次へと船へと運び込み、航路のすり合わせでもしてるのだろうか、航海士らが熱心に海図を広げて話し合っている。
 何はともあれ、めちゃくちゃ忙しそうである。現場の人間に適当に話を聞けたらいいな、くらいに簡単に思っていたがこれは結構ハードルが高い。

「あ、あの……」

 どうしたものかと考えていると、後ろから遠慮気味な声がした。
 ろくに知り合いもいないこんな場所で、まさか自分が呼ばれるとは思っておらず、セインは他人事のように聞き流していた。

「人違いならすみません。セイン・ロルシー様でしょうか」

 フルネームを呼ばれて振り向くと、そこには品のいい老夫婦が立っていた。咄嗟に返事を躊躇ったのは、彼らに心当たりがなかったからだ。
 けれど、何かが引っかかった。女性の方は確かに知らないが、男性の顔には少し見覚えがある気がしたのだ。
 思い出そうと考えているうちに、いきなり老紳士がおもむろに地面に膝をついた。

「えっ!? ちょッ、いきなりなにを」

 そして、素早く胸の前で指を組み、まるで崇めるようにセインを見上げた。

「先日は本当に申し訳ありませんでした! あんなことをしでかした我らを、見逃してくださったばかりか、現状を察し、お救い頂き誠にありがとうございます」
「は? え、なっ、なに? いや、すみません事情がいまいち……あっ、とりあえず立って! みんな見てるから」

 ざわざわと周りの人々が立ち止まり、ひそひそと話をしている。
 いかにも上流階級の上品な老夫婦が、その辺の小僧のような身なりの子供の前で跪いていれば、それはもう騒ぎになるに決まっている。慌てて二人を立たせると、彼らの手を引いて慌ててこの場を後にしたのだった。
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