俺っち人間のはずなのに、人外しか居ない世界に来てしまいました。

葉っぱちゃん

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異変

神隠しの森と、名を持たぬ例外

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俺っちは鳴門 樹好(なるかど きよし)。
ピチピチの十六歳、高校二年生っす。

……とは言っても。
自分で言うのもなんだけど、俺っちはいわゆる「普通」って枠からは、ちょっと外れてる。

小さい頃の記憶が、ほとんど無い。

よくあるだろ。
「三歳くらいまで覚えてない」とか、
「幼稚園の頃はあやふや」とか。

そういう話じゃない。

俺っちの場合は――
気づいたら、もう“今の俺っち”だった。

どんな子供だったのか。
泣き虫だったのか、よく笑う奴だったのか。
親に叱られていたのか、甘やかされていたのか。

全部、分からない。

親がいたかどうかすら、正直、曖昧だ。

転校生って立場もあって、クラスではよく聞かれる。

「前はどこに住んでたの?」

そのたびに、俺っちは笑って誤魔化す。
冗談っぽく、軽く、いつも通りに。

だって、答えようがないんすから。

知らない。
分からない。
思い出せない。

三拍子、完璧。

たまに、自分が中身スッカラカンなんじゃないかって思う時もある。
でも、考えたって仕方ない。
無いもんは無いんだ。

だから俺っちは、深く考えないようにしてきた。

──そんな俺っちが。

放課後、友達と面白半分で足を踏み入れた場所。
それが、都市伝説で有名な場所だった。

「神隠しの森」

赤い橋を渡った者は消える。
そもそも、その橋は「選ばれた者にしか見えない」とか、
「見えた時点で、もう戻れない」とか。

噂はいくらでもあった。

正直、最初は信じてなかった。

「どうせ作り話っしょ」
「肝試しにはちょうどいいじゃん」

そんなノリ。
完全に、軽い気持ち。

……でも。

森の奥へ進むにつれて、
空気が、明らかにおかしくなった。

音が無い。

風の音も、
虫の声も、
俺っちたちの足音すら、妙に遠い。

まるで、世界が一段階ズレたみたいな感覚。

そして――見えた。

真っ赤な橋。

赤すぎる。
自然物って感じが、まるでしなかった。

長い年月そこに在ったはずなのに、
古びた様子もない。
壊れる気配もない。

最初から「ここに在るべきもの」みたいに、
堂々と、森の奥に架かっていた。

「……何なんすかね、これ」

冗談めかして呟いた。
……はずだった。

なのに、心臓の奥が、ざわつく。
理由もなく、嫌な予感がする。

その時、ふと気づいた。

友達の声が、聞こえない。

振り返る。
誰もいない。

ついさっきまで、確かに後ろにいたはずなのに。

それなのに、俺っちの中には、
変な“確信”だけが残っていた。

──あいつらも、この橋を渡った。

根拠なんて無い。
証拠も無い。

なのに、そう思い込んでしまった。

気づいたら、足が動いていた。

一歩。
また一歩。

赤い橋を渡るたび、
背後の気配が、どんどん薄れていく。

怖いはずなのに、
引き返そうって気持ちが、なぜか湧かなかった。

……そして。

橋を渡り切った瞬間、
世界が切り替わった。

森は消え、
視界は白い霧に覆われていた。

「……え?」

声を出しても、霧に吸われるだけ。

前を見ても、
後ろを見ても、
左右を見渡しても。

どこにも、森は無い。

──閉じ込められた。

そう思った瞬間、
胸の奥が、ひやりと冷えた。

次の瞬間、
俺っちは叫んでいた。

「どこっすかここ!!?」

霧の中を進むと、
ぽつんと、大きな建物が現れた。

役所みたいで、
古い館みたいで、
どこか「管理されている」雰囲気の建物。

近づいた瞬間、
ギィ……と音を立てて、扉が開いた。

現れたのは、
目を布で覆った女性だった。

目隠しをしているのに、
彼女の視線は、まっすぐ俺っちを捉えている。

「……っ!?」

女性は明らかに驚いた様子で、肩を跳ねさせた。

俺っちが、ここにいること自体が、
想定外らしい。

「え、えっと……」

彼女は一瞬だけ俺っちを見つめ、
次の瞬間、慌てて建物の中へ引っ込んだ。

「……?」

不思議に思って近づくと、
今度は大きな窓が開き、
そこから彼女が顔を出す。

「ど、どちら様でしょうか……?」

声が、震えている。

「えと……森の奥から来たんすけど」

何となく、住所まで口にした。

その瞬間、
女性の顔色が、はっきりと変わった。

「……あちらの世界、から?」

彼女は慌てて分厚い本を開く。
文字は見えるのに、内容が頭に入ってこない。

「も、申し訳ございません……。
 このような事例は、初めてでして……」

その一言で、理解した。

──俺っちは、本来ここに来るはずじゃなかった。

女性はしばらく黙り込み、
やがて、一枚の紙を差し出してくる。

「……お名前を、こちらに」

「鳴門 樹好っす」

書き終えた瞬間、
彼女は紙を見つめ、息を呑んだ。

「……ナルカド……キヨシ……様」

深く、深く頭を下げる。

「橋を……お渡りください」

言われるがまま、歩き出す。

背後で、女性の声がかすかに聞こえた。

「……もし、彼が……」

その続きを聞く前に、
視界が歪んだ。

◇◇◇

次に目を開けた時、
俺っちは、砂の上に立っていた。

熱い。
……砂漠だ。

「なんすかここぉ!?」

ポケットを探る。
財布はある。
スマホもある。

……圏外。

風が吹いた瞬間、
今度は異常な寒さが、背中を撫でた。

視線の先。
商店が並ぶ通りの端で、
一人だけ、座り込んでいる男がいた。

誰も、近づかない。

迷った末、声をかける。

「だ、大丈夫……っすか?」

男は顔を上げ、
首を傾げた。

「……誰?」

整いすぎた顔立ち。
獣の耳と、尻尾。

その瞬間、俺っちはまだ知らなかった。

──この出会いが、
世界の崩れ始めだということを。
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