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第2章
第6話 再びギルドへレッツラゴーゴー!
しおりを挟む――たまごカードを購入するためには、全然お金が足りない!
その解答に至った俺は落ち込みつつも、次の目的地へと向かった。
思った以上に値段が高額で初めこそ驚いたが、冷静に考えれば当たり前のことかもしれない。
……責任を持って生き物を飼うんだし、そこは地球と同じか。
俺は金を貯めると決めた。
たまごカードを購入しなければ、そこそこ懐は暖かい。……だが、そういう問題ではないのだ!
……あぁ……レアな俺のモンスターよ……この目で抱きしめてモフモフ出来るのはいつなんだろうか……。
僅かに哀愁を滲ませながらたどり着いたのは、ギルドだ。
昨日、ギルドの受付のおっさん――ドリルに『明日も来い』と言われたのだから仕方がない。
外装が廃校舎のような建物に入ると、見覚えのある光景。
受付カウンターの一番奥のに、ドリルがいた――が。
「ああ、他の人の相手してるな。……少し待つか」
俺は待合の方へと足を向け、その側にあるタッチパネル式の機械の前まで来る。
「昨日の帰り際に言われたやり方は……」
そう呟きつつ、地球感を感じさせるタッチパネルの『予約』と書かれたところをタップする。
「ええと……ドリル……ドリルはどこだ……」
10名ほどの名前が並ぶ中、最後に掲載されていたドリルの名前に触れる。
すると、タッチパネル上の機械の隣にある発券機らしきものから紙が出てきた。
昨日帰り際にドリルが説明してくれたのだが、担当の受付が他のテイマーを相手にしている際は『予約』という形をとらなければいけないのだという。
そこで必須なのが、この予約発券機だ。
……まるで地球の現代式のようだ。
詳しい説明は割愛する……というか俺にもよく分かっていないのだが、まあ日本でいうテーマパークのアトラクション優先入場券や、寿司屋の予約機みたいなものと考えればいい。近代的で、親近感が湧く。
待合のソファへと腰をかけ、テイマーの応対をしているドリルに視線を向ける。
……あれ? あの人の後ろ姿、どこかでみたような。
偶然目に入ったドリルが相手をしているテイマーは、女だった。
あの艶やかなストロベリーブロンドの髪は――。
「……ああ! 昨日酒場で会った美少女か。ベニートの妹の。……たしかネラ、だったか? 虎姫とか呼ばれてた」
額に指を当て昨日あったことを回想していると、ふとドリルと目が合った。
……あ。
「おお! パーカーさんじゃないか!」
「……っ!」
おいっ。あまりでかい声と叫ぶんじゃないよ……めっちゃ見られてるんだけど!
そんな俺のことはお構いなしに、ドリルは持ち前の太い声を用いて言葉を続ける。
「ちょっとこっちこい!」
「…………なんでだ」
ぼそりと俺は呟いた俺はめちゃくちゃ身の置き場のない気持ちになった。
当たり前だが、俺と同じように待機しているテイマーたちの視線は自然にこちらへと向かう。
「……なあ、パーカーって」
「今日の新聞の一面に載ってたやつじゃないか?」
「あいつラフェール超えじゃね?」
「お前もそう思った?」
「新記録出したって奴らしいけど、なんか冴えないな」
「華がないよな」
う、うるせえ! 華がないとか言うなっ。……泣くぞ!
地球にいた頃には感じなかった居心地の悪い視線を向けられた俺は、そそくさとそれをもたらした元凶の元へと向かう。
ふいと例の美少女とも目が合い、俺は引きつった顔で小さく頭を下げた。
……彼女の方をまっすぐ見れない。俺、ものすごく邪魔したんじゃないか?
あのときは、ネラさんが割って入ってきたけど今日は……立ち場が逆になってしまったな。俺じゃなくて、ドリルが声かけてきたんだけどな!
そうこうしているうちにドリルとネラの前へときた俺は口を開く。
「……えっと、大声で俺を呼ぶのやめてください。非常に注目浴びまくったんですけど!」
「おお、悪りぃ悪りぃ。俺はどうもこういう気質でな。諦めてくれ」
「……はぁ」
あけすけもなくきっぱりと明言されると、反論のしようもない。
俺もまた、ドリルのこういうさっぱりした面に好感を覚えているのだ。
「……えっと。あなた、昨日兄と酒場にいた方ですよね?」
思いがけずネラに話しかけられ、俺は気まずさと緊張で身を硬くする。
だって顔は知ってるが、知り合いとまではいかない人なんだぜ?
……こういう微妙な距離の人って、どう対応すればいいのか一番困る。
少しだけ声を張り詰めながら、俺はなるべく愛想よく答えた。
「は、はい……そう、ですね」
「やっぱりそうでしたか」
「なんだパーカーさん。虎姫さまとお知り合いなのか? さすが英雄超えのやつは、手が早えな」
「ち、ちげぇよ!」
冷やかすような物言いのドリルに俺は咄嗟に否定する。
ネラの方に視線を向けると彼女は特に気にした様子もなく、肩をすくめていた。
俺は誤解しているドリルに昨日あったことをかいつまんで話す。
ベニートが荒くれに絡まれていたということを口にしたとき、ネラは「また兄は……」と苦々しい表情をしていた。
……“また”ってことは、度々あることなのだろうか。そういえばベニート自身も自分のことを『運が悪い』と言っていたから――まあ、そういうことなのだろう。
「そんなことかあったのか。パーカーさんは見た目は貧弱だから、絡まれるかもしれないんだな! もっと食わなきゃ育たないぞ!」
「いや、俺……こう見えてもう21歳です……成長はしないと思います」
「…………あー、ま、マジか?……すまんな。そうか……。そうだ、それなら筋トレだな! 俺とともに最高のシックスパック目指さないか!?」
「遠慮しておきます」
俺は無表情で断言する。
ドリルは少しだけ落ち込んだように背中を丸めていた。
「……えっと、私そろそろ……」
「ああ、すまなんだな。ええと、最近頻繁に出没するフート草原の初心者狩りの注意喚起だったな。あいわかった」
「お願いします。その賊はひとりではなく、多数の犯罪者たちが寄り集まっている【犯罪グループ】です。初心者テイマーが一人の際に遭遇した場合は、戦闘を選ぶのではなく、直ちに逃走することもお伝えください」
ネラの話を聞き、俺はまるでゲーム世界のような感覚に陥った。
こんなに身近に犯罪者たちの集団があるなんて、日本生まれ日本育ちの俺からしたらピンとこない。
そう思ったら、自然と声を上げていた。
「……犯罪者グループなんてあるんですね。物騒だなぁ」
「……ええと、あなたパーカーさんでしたっけ? 今朝の新聞の一面に顔が載っていらっしゃいましたよね」
「え、ええ」
「あなたは知らないかも知れないですけど、犯罪者なんてこの中央都市セントラルバーンにはざらにいますよ。特に西の総合地区の貧民街は犯罪者の巣窟だと言っても過言はないですし。――少しテイマーとして名を馳せたと言ってもあなたはまだ駆け出しです。調子に乗って、賊を捕らえようなどと調子に乗らないことですね」
異様に棘のある言い方でネラは俺に語りかけてくる。
敵意――とまではいかないがプライドが高いのだろう、語彙は強めだ。
そう言い募った彼女は、満足したように体を翻してギルドを俺の目の前から去っていった。
目を丸くして呆気にとられる俺。
「…………まあ、気にしてやるな。彼女、ネラは獣士隊としてのプライドが高いんだ。実力の片鱗を見せたお前に嫉妬しているのもあるし、ライバル視しているんだろう。……まあ、光栄に思っとけ」
「は、い。分かりました」
なんだか納得はいかないが、ドリルの言うことに頷いておく。
あんな言い逃げのような捨て台詞を吐かれて、ある意味毒気を抜かれた。
……んー、昨日はもう少し柔らかい雰囲気だったんだけどな。今朝の新聞に載ったことがいけなかったのか?
ため息をついていた俺を見てドリルは「……どっちもまだまだ青いな」などと意味の分からないことを言っていた。……なにか、勘違いしているのでは?
そんなこんなで俺が頭を抱えていると、ドリルはすっと仕事モードへ切り替わった。
「さて、今日のことなのだが……昨日出来なかった説明やらお前からの質問を受け付けようと思う。――あとは、ダンジョン挑戦の意思確認だな。ギルド長にも会わせてやろうと思ってんだが、あいにくあの人は王都からまだ戻っていないんだ」
思わず背筋が伸びる。
ギルド長は出張中か。タイミングが合わなかったんたな。俺としては、そんな偉い人に会わなくて全然いいのだがな! むしろ、会いたくないっていうか……。
それはそうと、聞きたいことはいくつかあった。
それを解決しようと俺は口を開く。
「それじゃあ一つ質問を。――昨日、ドリルさんは『テイムドの登録をする』みたいな話していましたけど、結局やってないですよね?それは――」
「ああ。ギルドでテイムドの登録をする人もいるが、実のところしなくても支障はない。むしろやらないやつの方が多い。昨日そ・う・言ったのは、カードの取り扱いの説明をするためだけの理由だ」
「そうなんですね。……あの、テイムドの登録をすることってなんか意味あるんですか? しなくても支障がないなら、やる時間が勿体無い気がします」
「登録をするのは、ただのテイムドの盗難防止やもしはぐれてしまった時の捜索の際に役立つからだな。登録する際に移動石のような位置情報を知ることができる機能をカードにつけるんだ」
……おお! マジか。あんな薄い紙にGPSもどきをつけられるなんて、この世界の科学(?)も侮れねえな。
「それなら皆、テイムド登録するべきでは?」
「ああ、そうなんだが……値段がな。登録費用がかかるのだが、かなり高額なんだ」
「……ちなみにおいくらくらい?」
「――50万ルブだ」
俺は思わず「ひえっ」と言ってしまいそうになった。
この登録費用だけで、下手なたまごカードなら10枚買うことができる。
ベニートの話によると平均的なたまごカードの値段が30万前後らしいから、それも余裕で購入できてしまうだろう。
「そ、それはお金に余裕があれば登録するかも知れませんね……初心者にはお財布へのダメージがでかすぎます」
「まあそうだろうな。だから一流のテイマーになったものや、余程心配性なやつ以外は登録しないな」
「よく分かりました」
俺はこくこくと頷いた。
「もう一つ聞きたい方もあるんですけど……」
「なんだ、言ってみろ」
ドリルは腕を組み、どんと構えながら俺の質問を待つ。
「あの……テイマーってパーティーみたいなのは組まないんですか?」
「…………パーティー?」
そう。
俺はずっと疑問だった。
異世界ファンタジー系ライトノベルでは、仲間たちとパーティーを組み、切磋琢磨しながら巨悪を退治していくものが多かった。
けれど、この世界ではパーティーという言葉を一度たりとも耳にしたことがない。
ギルドの内部にクエストや依頼の掲示板はあれど、パーティー、またはクランなどの仲間を募集するチラシは一枚もなかった。
「ええと、パーカーの言ってるのはチームのことか?」
「あ、はい。ここではそう呼ぶんですね」
「パーティーと呼ぶやつに会うのは久しいな。今はもっぱらチームと言われている」
「へえ」
俺は眉をあげて相槌を打った。
ドリルは続ける。
「パーカーさんが言っている組む……というのは他人とチームを組むということか?」
「そうですけど……」
「んん……そういう奴は少ないな。たまに数人グループで依頼やらクエストを受けに来る奴もいるが、基本は一人で挑戦するものだ」
「やっぱり……ここにきてからそういう話を耳にしたことがないから、そうだと思っていたんです」
「そうか。それに――基本的にチームという言葉は、自分のテイムドたちをのことを意味するからな」
……え? ど、どういうことだ?
混乱が顔に出ていたのであろう。
ドリルは「まあ、焦るな」と言って俺の肩を軽く叩く。
「テイマーはな、位が上がれば上がるほど己のテイムドたちに役割を持たせるんだ」
「役割……」
「攻撃、防御、回復、補助支援、遊撃……みたいな感じでな」
「それって……」
自分のテイムドたちでパーティ――いや、チームを作る。そういう意味なのか。
ミーコなら補助支援という役割を持ち、俺はもっぱら攻撃……みたいな感じだな。
……あれ、なんで無意識に自分で自分をチームに組み込んでいるんだ? 俺はテイムドモンスターじゃないだろっ!
考え込んでいると、ドリルは親指を立ててグッジョブポーズをしていた。
おそらく俺が理解したことに対し、「分かったんだな! 優秀だ!」みたいなことをつたえているんだろうか。……というかそのポーズ、異世界にも通用するんだな。
「さて、他に質問はあるか?」
「……いえ、今はこれくらいしか思い浮かばないですね」
「そうか。なら、俺はお前に意思確認をしたいと思う。――早速だがパーカーさん。お前さん、ダンジョン1階層に挑戦する気はあるか?」
俺はもちろん――――。
「はい、あります! 出来ることなら、明日でもいいくらいです!」
「うむ、あい分かった。それなら明日、ダンジョン攻略に挑めるように取り計らっておこう。じゃあ、ダンジョン挑戦に向けて気をつけておくべきこと、必要なものなど説明しておこう。まずは――」
そして俺はみっちり1時間、ドリルのダンジョン攻略講座を受けることとなった。
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