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第2章
第9話 そこには悪夢が住んでいる
しおりを挟むミーコの頭上から光が差し込む。
スキルが天啓により与えられていることがはっきりとわかる。
やがて光が消えると、スキルが付与が終了したのだと理解した。
俺は襲いかかってくるゴブリンたちを相手をしのぎつつ、《瞬足》で逃げにまわる。
俺はミーコを呼び、肩に飛び移らせた。
その移動速度についていけないゴブリンを横目に、俺は建物の陰に身を隠す。
「……よし、いまのうちに見ておこう。いいスキル、貰えてるといいな」
「みゃおっ」
俺は新たに得たミーコのスキルの確認をするために、ステータスボードを呼び出した。
・・・
テイムドモンスター【ミーコ】LV.15
HP:150/150
MP:150/150
スキル一覧:《魅了》《誘引》《俊足》《幻惑》
・・・
「……ん? ミーコの新しいスキルは《幻惑》ってやつなのか。名前だけじゃ詳しいことはわからないし、早速確かめてみないとな」
その名称からして、新たなスキルも補助系スキルだろう。
攻撃系ではないことに、少しだけ気を落とした俺。
けれどこの状況を打破する一縷の可能性を信じ、詳細を確認することにした。
・・・
スキル《幻惑》
能動的スキル。
紫の霧で包み込み、敵を幸福な夢の中へと誘う。衝撃を与えれば解ける。使用可能時間は使用対象の知性が低ければ低いほど、効果時間が長くなる。レア度は中の中。
・・・
俺はステータスボードを見て目を丸くした。
なぜなら――。
「今の状況を打破するのにぴったりのスキルじゃないか! ミーコやったな!」
「にゃ」
敵に気がつかれないよう、俺たちは小声で喜びを分かち合う。
それにしても。
「……なんか毎回思うんだが、スキルが状況にそぐいまくってるやつしか来ないんだが……一体なぜだ。ゴミスキルがきたことも一回もないし」
「にゃーお?」
「お前もそう思うか? これも《魔物大好きモンスターマニア》が原因だって」
俺は一瞬眉間にしわを寄せながらも、そのあとすぐに切り替える。
今はこんなことを考えるより、この無限に湧き出てくるゴブリンたちをどうにかしてゴブリン集落から脱出しなければならないのだ!
「ミーコ。早速で悪いが、俺がお願いしたら《幻惑》スキル使ってくれないか? ゴブリンだし、知性はそう高くないだろう。多分、かなりの確率でかかる」
「にゃ」
打ち合わせをしつつ、俺たちは未だ闖入者を捜索中のゴブリンたちの前に現れた。
すぐにスキルをかけるわけにはいかない。
まずは、一箇所に集めなければ。
「やーいやーい、こっちにおいでー」
「にゃおーん」
俺たちはゴブリンたちに付かず離れずの距離感を保ちつつ、騒ぎ立てる。
同時にミーコの《誘引》を使って引き寄せ、俺の《挑発》を使って意識をこちらに向けさせ続ける。
……とは言っても、そもそも俺たちを探していたのだから興味を持たないなんてことは最初からあり得ないのだが。
単細胞なゴブリンらは、すぐさま思い通りに俺たちの方へと向かってきた。
彼らが見失わない程度のスピードで逃げ回る。
そして、とうとう殆どのゴブリンたちがひとところに集まったのを見計らって、ミーコのスキル《幻惑》を発動する。
すると、ゴブリンたちは一様に武器を地面に落とした。
そしてあるものは幸せそうに踊り出し、あるものは膝をついて喜びに浸る……かかったものは皆、幸福な夢の中にいるようだ。
……こ、これはこれで気味の悪い光景だな。ゴブリンたちが阿鼻叫喚……ではなく、狂喜乱舞しているのは……ちょっと…………鳥肌が立つものが、ある。
顔を思いっきり引攣ひきつらせつつ、すでに俺の姿を視界に捉える事も出来ないゴブリンたちに攻撃を与えていく。
今までまとまってかかってきていたが、戦闘のことなど頭にもないゴブリンたちを蹂躙することは容易かった。……数のせいで大変だけどな。
《瞬足》を用いた事により、数は多いものの1匹1匹確実に仕留めることができた。
集団で攻撃されながら仕留める難易度の高さとは、雲泥の差だ。
目の前には大量のゴブリンカード。
そしてそれと同じく大量のドロップアイテムたち。
「これ、拾わないとダメだよなぁ。面倒だけど、『手に入れたカードは全部持ってこい』ってドリルさんに言われたし、しかたないな」
俺は項垂れつつも、ゴブリン集落の地面に落ちている膨大な数のカードを拾い集めることとなった。
ドロップアイテムは、ぽいぽいと適当に《空間収納》に放り込んでおいた。
……ちなみに、ミーコも協力してくれたぜ!
◯
魑魅魍魎の跋扈しているはずだったダンジョン1階層も、すでに終盤へと近づく。
……俺が会ったのは最初の壁モンスターと、大量のゴブリンだけだったけどな……。
ゴブリン集落を抜けると、また一本道が続いていた。
周囲を警戒しながらも歩き続けると、最終的にたどり着いたのは洞窟ダンジョンには似合わない豪奢で巨大な扉の前だ。
そしてその近くに不自然に置かれた一つの宝箱。
そんな中、俺はこの宝箱をみて少しだけテンションを上げていた。
「これって、ボスモンスターと戦う前に用意されるMP回復薬とか入ってる宝箱なんじゃないか? ほら、よくRPGとかでもあるし……いや、それにしても怪しいか……でも」
「……みゃ」
ミーコは退屈そうに鳴いた。
対して俺はお宝(仮)を目の前にし、開けるか開けないのか惑う。
まるで餌を前にした犬のような情けない顔をしているに違いない。
「……こ、これは……開けてみたい。開けたら呪われるとかだったら御免被りたいけど、流石にそんなことはない……よな?」
自問自答しつつ、すでに俺の心は決まっていた。当たり前だ。
……こりゃあロマンを求めている俺が、開けないわけにはいかないだろう!!
興奮と少しだけ警戒を残しながらも、俺は宝箱に手をかけ――――ることはなかった。
「キャシャャャャャャ!!!」
――宝箱はミミックだったのだ。
――。
――――。
「ひ、酷い目にあったぜ……」
「にゃーお…………」
俺たちは青ざめた顔で、荒い息をついていた。
ミミックは恐ろしく強敵だった。
今までのモンスターとは比べ物にはならないほどに。
「狩猟カードのNo.13……名前はそのまま【ミミック】か。つ、強かったな」
「にゃ」
「でもお陰でお宝……金きんをドロップしてくれた!これで、レアモンスターgetへの道を一歩進んだ気がする」
俺は温まった体で額に浮かんだ汗を拭う。
《空間収納》から携帯水を取り出して口に含む。
ミーコには紫色のMP回復薬をかけてやった。
――この回復薬は、飲ませても体にかけても効果は変わらないそうだ。
一息ついたところで俺たちはボスモンスターに挑まんと、豪奢で巨大な扉に手をかけた。
部屋の中は閑散としていた。
豪奢な扉に似合う内装な古びており、薄ら寒さすら感じる。
ただそこには、一つの影があるのみだ。
「……あれが……ゴブリンロード」
「みゃ」
まるで俺たちが来るのを待っていたかのように王座の椅子に腰掛けるモンスター。
先刻のゴブリンたちとはまるで格の違うモンスターが違うということは、一目でわかった。
まずその大きさは、身長175センチの俺よりも高い。
そして薄汚いゴブリンにはない、貫禄というものを感じさせる。
体はしなやかな筋肉で覆われており、真っ直ぐに敵を射抜く瞳は知性を伺わせた。
ゴブリンロードは立ち上がる。
俺はそれに伴い、歩みを進める。
『よく来たな、人間』
「…………………………え?」
俺は思わず大口を開けて驚きを露わにする。
ゴブリンが――モンスターがしゃべった!!
正確には口を動かして意思疎通を取ってきたわけではない。
――脳内に直接語りかけてきたのだ。
「ど、どういうことだ……」
『なに、私たちフロアボスモンスターには《念話》のスキルがあるからな。ここにやってきた人間と意思を取ることは容易い』
「へ、へえ。そ、そうなんですか……」
ご丁寧に俺の疑問に答えてくれたゴブリンロードは、満足そうに腕を組んでいる。
やけに親切なモンスターだが、俺はこれからこいつを倒さなければいけないのだ。
そうしないとランクの昇格も、ベラベリアンの頼・み・をこなすことができない。
『人間、私たちモンスターと意思疎通が取れて躊躇しているのか?』
醜悪な顔立ちをしているゴブリンロードは本当に知性が高いのだろう。
俺の思いを一瞬にして見破った。
俺は正直にこくりと頷く。
「は、はい……そう、ですね。結構……いや、かなり戸惑ってます」
『なにを。戸惑うことはない。私たちは戦うためにここにいる。そしてここで死んでもまたすぐに蘇る。――記憶を受け継いだまま、な』
「え……そうなんですか!」
『ああ。…………さあ、そろそろ無駄話も終わりだ。正々堂々として戦うには、相手の事情を知るっていうのも野暮なものだろう?」
そう言ってゴブリンロードは顔を歪めて笑った。
俺はその迫力に唾を飲み込む。
そばにミーコがいるのを確認し、俺はゴブリンロード――目の前のターゲットを見据えた。
「そうですね。それじゃあ、やりましょう!」
「みゃお!」
俺とミーコは気合を入れ、戦闘に挑む。
――戦いが幕を開けた。
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