殺人計画者

夜暇

文字の大きさ
51 / 76
第五章 本多瑞季の場合

一 ◯本多 瑞季 【 過去 】

しおりを挟む

 悪夢の再来は今から半年前、六月の末。梅雨の時期だった。
「おい、おい!瑞季だよな、お前」
 時刻は午前一時、既に真夜中だ。その日は開店から閉店時間まで働いたため、疲れが溜まっていた。早く帰って眠りたい。そんなことをぼんやりと思っていた時、私は不意に後ろから声をかけられた。
「おい、そうなんだろ?」
 その嗄声、それは数年前毎日のように聞いていた、思い出したくない男の声であった。
 …振り向きたくない。そう思いつつも、体は勝手に動き出す。まるでその声に操られているかのように。体に刻み付けられているかのように。
「は。やっぱり瑞季じゃないか。久しぶりだな」
「た、高崎さん」
 明るい茶に染め、複数の剃り込みを入れた短髪に、人相の悪い鋭い目つき。色黒の肌と、今にも人に噛みつきそうな大きな口。そうだ。私がこの世で、二度と会いたくないと思っていた男…高崎大和であった。
 大和は私の若干引きつった顔を真正面から見て、満足そうに頷いた。
「どうした。久しぶりの再会なんだ、もっと喜べよ」
 にこにことした笑顔を私に向け、段々と近寄ってくる。ここから逃げ出したい。しかしそうしようにも、己の足が地に根を張っているかのように、言うことを聞かない。
「ど、どうしてこんな所に」
「あ?」
 恐る恐る訊くと、大和は満面の笑みで私を見る。そのまま右手の指を三本立てた。
「刑期を終えたんだよ、三年。いやあ、長かった」
「そ、そっか。お疲れ様だったね」
 私の言葉が気に食わなかったのか、大和は急に口をへの字にし、目は私を睨みつける。
「『お疲れ様だったね』なんて。あっという間に他人事か」
「そんな、私は他人事だなんて」
 首を思い切り左右に振り否定するが、目の前の男は聞く耳を持っていなかった。そのまま詰め寄られ、髪を思い切り引っ張られる。
「お前は執行猶予とかなんかで、刑務所に入ることは無かったそうじゃねえか。あ?何だこれは。差別、そう。差別ってやつか?世の中不公平だよなあ」
「い、痛いよ。やめて!」
「ふん」
 乱暴に、己の手を私の髪から手放した。
「とりあえず、これから時間あるだろ。お前の家で飲むぞ」 
「え、わ、私の家に?」
 その言葉に冷や汗が出る。
「ああ。どうせ一人暮らしなんだろ。寂しいお前の元に俺が行ってやるって言ってんだ」
「え…」
 それはできない。彼が家になんて来たら、何をされるか分かったものじゃない。酷い目に遭わされる、それは間違いない。
「そ、それはちょっと…」
「何だと」
 私の否定の言葉を聞き、大和はまた髪を引っ張ってくる。
「ちょ、ちょっと!やめてよ!」
 彼の体を突き飛ばそうと両手で押す。しかし、私よりはるかに筋肉質な体型している彼には、私の力ではびくともしなかった。
「お前は昔みたく、俺の言うことを聞いていれば良いんだよ」
 そうすれば、全て上手くいくんだよ。そうだ。確か、その後はそう続くのだ。
 その時私の頭に、昔の記憶が蘇ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜

猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。 その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。 まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。 そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。 「陛下キョンシーを捕まえたいです」 「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」 幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。 だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。 皇帝夫婦×中華ミステリーです!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...