11 / 73
第二章 雨と傘
4
しおりを挟む女性向けの衣服売り場は、どうも居辛い。
男一人でいると、じろじろと見られる。お前は何故ここにいる?と、犯罪者予備軍を見るような。そんな視線である。
「龍介さん、いますよね?」
そんな萎縮する俺のことなどつゆ知らず、深青は声をかけてくる。彼女との間には布一枚、試着室の中に入った彼女の姿は、周りに見えない。ああいるよ、ぼそぼそと返したもんだから、余計に不審さが滲み出ている。
夜は数時間前に明けていた。今、俺と深青の二人は、道すがらにあったチェーンの衣料品店を訪れていた。
「さすがにずっとそれじゃ、まずいだろ」
助手席で寝ていた彼女を起こした俺は、彼女が身につけている制服を指差して言った。最初寝ぼけ眼だった深青は、その後すぐににやにやと下衆な笑みを浮かべた。
「龍介さん、こういうの好きじゃないんですか?」
深青はスカートの裾を手でヒラヒラさせる。
「は?」
「男の人って女子高生、好きなんでしょ」
「お前な」
「お前はやめてくださいって」
「…何言ってんだよ」
「あくまで一般論的なものですけど。そうでしょう?」
「随分と偏った一般論だ、まったく」
彼女の顔は見えない。しかし、馬鹿にしたような表情でこっちを見ていることはわかった。
「あのな。目立つんだよそれ」
校章は胸ポケットに刺繍されており、見る人が見ればどこの高校のものか、わかってしまうかもしれない。
「だからひとまず服を買う」
「えー。結構私、この格好好きなんだけどなぁ」
「いつも着てるんだろ」
「まあ、そうなんですけど」
「とにかく有無は言わせない。代わりに何着か、好きなの買っていいから」
「えっ」
「本当にこのまま一緒に来るなら、着替えは必要だろ」
俺の言ったことに、深青は歓声を上げた。
「本当に?なんでも?」
「金はあるからな」俺は内心苦笑する。「とはいえ、ブランドもんなんて売ってるようなとこなんて行かないが」
「龍介さん知らないんですか。女の子の服って、結構安く買えるんですよ。それでいて可愛いのも多いんですから」
俺は男だから知る由もないのだが、それならそれで好都合である。彼女も見るからに嬉しそうだし、俺もまた少し安堵した。
安堵?
そういえばさっき、どうして俺はそんな——。
ぼんやりとそんなことを考えていたところで、「着れた!」と中から声がした。振り返るとすぐにカーテンが開く。
「どうです?」
「…」
「龍介さん?」
俺は彼女を見て、唖然としてしまった。
深青が選んだのは水色のワンピースだった。スタイルの良い彼女が着ると、どこぞのお嬢様が、お忍びで庶民の生活を体験しにきたような。そんな感覚に囚われた。
「い、良いんじゃないか」俺は動揺を隠そうとして、目を彼女の顔から下方へとずらす。「清潔感があって」
「なんですその感想」
深青は頬を膨らませて俺を見る。
「なんでも良いよ。ほら。早くしろって」
恥ずかしくなった俺は、続けても不平不満を口にしようとした彼女をカーテンで遮った。「もう一着あるんだろ」
「ああ、待っててくださいよ!」
くそっ。こんな状態で、この子と二人でやっていけるのだろうか。俺は一人、誰にも悟られぬように息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる