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第二章 雨と傘
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しおりを挟む最終的に深青が選んだのは次のとおりだ。
水色のワンピース。
白のフレンチスリーブのシャツ。膝上の紺ショートパンツ。これらはセットものだ。もちろんこれらも、彼女の容姿にぴったりとハマっていた。
「あとは下着類。ブラウスとかブラジャーとか。それと、靴下あたりですかね」
あまりそういった単語を口に出してほしくないのだが、逆に意識しているかのようにも思われそうで、俺は意識的に口を閉ざす。
とにもかくにも、全部買っても一万円に届かない。これだけ買って、この金額か。確かに彼女が言ったように、メンズよりレディースは安く買えるらしい。
「ここ最近の中でいちばんの驚きだ」
会計が終わり、店の自動ドアをくぐったところで「まあ安く済ませましたが」と、深青は照れたように笑みを浮かべる。
「本当はトートバッグとか、欲しかったんです」
「なんで?」
「今日買ったものを入れておきたくて」
龍介はぽかんとした表情で「その袋で良いじゃないか」と、買ったものが入っている、店のロゴが入った白のビニール袋を指差す。
「これ、半透明でしょ。仮にも龍介さんは男性なので…買ったものが目にしやすいところにあるのは、少し恥ずかしくて」
「そういう」龍介の頭には、最後にカートに入れた下着類の面々が浮かんだ。ピンクに、紺…駄目だ。想像してはいけない気がする。「ものか」
「今、いかがわしいこと考えてました?」
「はあ?」
「ねえ、そうなんでしょう」
「考えてない何も」
「これだから。歳とると人間って頑固になるんですか?」
「お前なぁ…」
「みお!」
眼前で強く言われ、俺は少しイラッとした。
「あのな、自分の立場ってもんがわかってるのか」
「なんです、やぶから棒に」
「別に良いんだぞ。ここで置いてっても」
目を見開く彼女に、俺は続けて言う。
「元はと言えば、俺は俺だけで始める予定だった旅だったんだから。ここまで連れてきてやった。歩きや電車じゃすぐに来れるような距離じゃない。やっぱり、一緒にいる義理はないだろ」
「駄目!」
いきなりの大声。彼女の声は、駐車場に軽く響いた。
「な、なんだよ。突然」
「それは、駄目。龍介さんは、私といないと…」
「いないと?」
彼女は俯き押し黙る。
「なあ、ここいらできちんと教えてもらえないか。どうして、俺についてきたのか。俺は容姿が良いわけでもない。性格も明るくて爽やかというものでもない。おま…んん、俺と一緒に来る理由が、本当にわからないんだよ」
それでも彼女は喋らない。やれやれと思ったところで、彼女は上を向いた。目と目が合う。空を想起させる、透き通るような白い肌に、整った顔。俺は緊張からか、口を思わず結んだ。
「実は私」
「あ、ああ」
「死んでるんです」
「…は?」
「死んでるって言ったんですよ」
それってどういう。呆然と、言葉を紡げずにいると、真剣な表情だった彼女の顔が、くすくすと笑い出した。
「やだ、龍介さん。まさか本気にしました?」
彼女の態度と口調で、嘘をつかされたと理解した。
「お前…」心の中で舌打ちをする。「それは駄目だろう」
「普通、信じます?そんな非現実的なこと」
「それでもここにきて嘘つくとか、何考えて…」
「お前だなんて言い続けるような人には良い薬ですよ」
冷たい口調でそれだけ言うと、深青はくるりと反転し、またも店に走っていった。
「おい。どこに行くんだっ」
「トイレです!」
背中越しにそれだけ言うと、美緒は店に入っていった。
少しの間、暑い駐車場のアスファルトの上で、立ち尽くす。時間が経ち、照り返す太陽の熱い光を体に受け汗が出てきて、苛々もまた募ってきた。
くそ…
「勝手にしろ」
声に出してそう吐き捨てた俺は、運転席の扉を開けた。
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