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第五章 旅とその目的
4①
しおりを挟む「それで…お姉ちゃんは」
深青の声は震えていた。まるでその時のことを、彼女自身自分ごとのように考えているのだろうか。
「死んでいた。殺されていた」
それから俺はまたも理乃の捜索を再開する。そうして午前三時前にようやく、件の公園で彼女を見つけたのだ。
そこで深青は嗚咽を漏らし始めた。俺は何も言わなかった。いや、言えなかったというのが正解だろうか。
それから少しの間、室内に彼女の泣き声だけが反響していたのだが、少し経ってから「あの」とか細い声を出した。
「お姉ちゃん、どう殺されていたんです」
「どう、って…」
「教えてください。できれば、細部まで」
深青は真剣な様子だった。死んでいたという事実に衝撃を受けていただけに、それ以上のことを聞く彼女に若干狼狽えたが、俺は彼女の問いに応えなければならない。そう感じたのだ。
「服を、脱がされていた。裸で、公園の端の方に」
「裸で」魂の抜けたような声だった。「どうして裸に?」
「理乃の身元を知られたくなかったのかもしれない」
「どうしてそう思うんです」
「理乃の衣服も、鞄なんかもなかったから。そのどれかもしくは全部に、自分につながるようなものがあった…とか」
なるほどと深青は頷いて、それから「じゃあ、お姉ちゃんの死因はなんだったんでしょう。公園で龍介さんが発見して、それがわかったりしましたか」
「首を絞められていた気がする。首に、その。痕があって」
「絞殺ですか。では、何か首を絞めるための物を犯人は使ったってことになりますか」
「いや…多分、あれは素手だと思う」
「素手?」
「手でこう」俺は両手で、自分の首を絞める真似をした。「そんな感じの痣…そう、まだらな痣があったんだ」
「なるほど。女とはいえ、お姉ちゃんも大人ですからね。素手となれば、やはり力の強い人間。つまり、犯人は男の可能性が高いと?」
「さあ。そこまでは、俺には」
俺の返答に、深青はうーんと眉間に皺を寄せる。
「それ以外は?何か気になることは?」
「それ以外って。ええと」俺はそこで、それを口にする。「そうだ。その、両手の指が、無くなってた」
「死後、犯人が全て切断して持っていった。警察が、そう話していた気がします」
「ニュースじゃ遺体の一部を損傷、でおさめてたけどな」
深青はそうですか…と口を押さえる。理乃の遺体の状況を、改めて思い浮かべているのだろうか。
「すみません、もうちょっと聞いてもいいですか。お姉ちゃんは、服を脱がされていたって言ってましたよね」
「そうだな」
「つまり、犯人は衣服と荷物と指を持ち去ったということになりますよね」
「…それしかないだろう」
「どうして指を持ち去ったんでしょう」
「どうしてって」
「衣服や荷物を持ち去る理由は、さっき話したとおりなんじゃないかとは思います。けど指は?わざわざ切断して、持ち去る理由はわからない。
指を切ることに性的興奮がある。確かに可能性はありそうですが、私は違うと思います。自分の身元がわかることを恐れて、荷物やら衣服やらを持ち去ったんです。指を切るなんて、手間も時間もかかるでしょう。もしかすると、それをすることで自分につながる証拠を残す可能性もゼロではありません。つまり同じように持ち去るにせよ、衣服などとはその理由が全然異なるんですよ」
「そう言われたら、確かにそうだが…」
「ねえ、龍介さん」
そこで深青は、ゆっくりと俺の名を呼んだ。それは本当にゆっくりとした口調だった。
「本当のことを話してください」
体が急に冷え込んだようだった。エアコンが効き始めて、汗が冷えたのか。
「本当って、なんのことだ」
「嘘」
全身の毛が逆立つ感覚に、俺は自然と力が入った。
「ついていませんか」
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