蜃気楼に彼女を見たか

夜暇

文字の大きさ
46 / 73
第五章 旅とその目的

4②

しおりを挟む
「嘘だって?」
「いや。嘘というよりも、本当のことを言わない…いや、言えない。そんな理由が、あなたにあるんじゃないですか」
「俺に?深青、君は何を言っているんだ」
 唇が震えてくる。まさかこの子は——?
「素朴な疑問なんですけど。お姉ちゃんの服や荷物、指は全て、本当に犯人が持ち去ったんでしょうか」
「それ以外考えられないだろ」
「例えば、ですけど。。そんなことは考えられませんか」
「犯人以外って」
「警察の人の話じゃ、お姉ちゃんの遺体が見つかったのは、朝方だったそうです」深青は淡々と告げる。「お姉ちゃんが、龍介さんに連絡をくれたのが、いつでしたっけ。ああ、さっきの龍介さんの話だと、午後九時半頃でしたね」
「ああ」
「それから駅に着いたのは?」
「午後十時過ぎだったと思う」
「あちこち探し回って、午前0時頃になってもお姉ちゃんを見つけることができなかった。…それで、龍介さんがお姉ちゃんを、公園で見つけたのは確か、午前三時ぐらいでしたっけ」
「えっと」ぐるぐるする脳内。何とか言葉にする。「それで合ってる」
「お姉ちゃんと連絡が途絶えたのは午前十時。すると、お姉ちゃんは五時間近く、あの公園で放置されていたってことになります」
「それは、いや、違うんじゃないか。ほら、俺が最初公園に着いた時、そこに理乃の遺体は無かったんだよ。だから俺が公園を離れて、また来るまでのどこかしらのタイミングで、犯人がそこに理乃の遺体を遺棄したってことじゃないか」
 俺がそう口にするも、深青は何やら考え込んでいる。
「龍介さん」
「なんだ?」

 エアコンの音に加え、心臓の鼓動が体の奥で聞こえてくるようだった。
「えっと。何をって」
「お姉ちゃんの自宅に行って、それから公園に向かうまでの時間ですよ。先程の話じゃ三時間…それほどの長時間、探し回っていたってことでしょうか」
「もちろん」
 即答する俺を、深青は見据えた。
「お姉ちゃんの家での話ですけど。龍介さんは最初、公園でお姉ちゃんを見つけることができなかった。だからそのあと周辺を捜しまわってから、お姉ちゃんの家に行った。でも、家は真っ暗だった。仕方なく、そこで龍介さんはもう一度、お姉ちゃんに電話をした。
 コール音が聞こえたってことは、電源が入っていたってことになりますよね」
「…まあ、そうなるだろう」
「お姉ちゃんのスマホは、どこにあったんでしょう」
「わからない。犯人が持ち去ったとしか」
 そこで深青は首を横に振った。

「え…」
 呆然とする俺を一瞥した後で、深青は脇からピンク色のスマホを取り出した。見覚えはもちろんあった。理乃のものなのだから。
「実は。お姉ちゃんと連絡が取れなくなって私、お姉ちゃんが住んでいた家に行ったんです」
「理乃の家に…?」
「ええ。その時これを、ベッド脇の隙間から見つけました」
「まさかそんな」
「ちなみにマナーモードはオフになっていました。多分、龍介さんの着信を分かるようにしていたんでしょうかね。それはとにかく…つまり龍介さん、あなたが電話をお姉ちゃんの家でかけたとすると、お姉ちゃんのスマホがそこにあることを必然的に知ることになるんです」
 俺は何も言えなかった。ぐるぐると頭の中で、返す言葉を探す。しかし適切なものはすぐに浮かんではこない。
「龍介さんのその時の動きを想像してみるなら、こうでしょうか。お姉ちゃんに電話をかけたところで、室内から着信音が響いた。龍介さんは電話を切って、部屋の奥を見ます。お姉ちゃんの部屋は1LDKなので、廊下を進んで曲がったところに寝室があります。私がスマホを見つけたのはベッド脇なので、着信音はそこから聞こえてきたわけですね。電気をつけて、龍介さんはそこに向かった。するとそこには」
「やめてくれっ!」
 自分が思った以上に大きな声が出ていた。説明口調で進めていた深青だったが、俺の声で流石に声を切った。
「…やめてくれないか」
「何故です」
「嫌、なんだ」
「何がですか」
 深青の詰問に答えられないままでいると、彼女はふーと息を思い切り吐き出し、「お姉ちゃんの家なんですよね」と尋ねる様子で言う。それから、龍介の瞳をまっすぐ見た。
「龍介さんが、お姉ちゃんを見つけたのは」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...