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第六章 さよならと笑顔
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しおりを挟む羽咋市にある千里浜なぎさドライブウェイは、砂浜の上を車で走ることができる、珍しい場所である。
通常砂浜は土の粒よりも小さく固まりもしないことから、タイヤがその上を回転すると足を取られ、走ることはおろか、その場所から動けなくなる程に危険な場所である。しかし、ここの砂浜は土の粒が通常より大きく、また海水を存分に含み締まっていることから、車の走行の負荷に耐えられる程に固いのだという。
俺と深青は、早朝で誰もいない砂浜の上に車を止めた。
それから波打ち際に二人で立ち、水平線上の朝日を眺める。真白で輝く太陽。空は雲一つなかった。青々とした、どこまでも広がる空には、海鳥達が優雅に舞い踊っていた。
「海風、すごいですね」深青が髪を抑えながら言う。「髪がきしみそう」
「そんなことを言っておいて、笑ってるじゃないか」
「言いましたでしょ、海は好きなんです。きらきらしてるし」
そんな深青の様子に、俺はフッと笑いが出た。
「何か言いたいことが?」
「いや、大学四年生なんだっけ?今」
「ええまあ」
「にしては、言うことは子どもだなぁって思ってな」
深青は頬を膨らませながら俺を睨む。
「子どもで良いじゃないですか。自由なんですから」
「自由か」俺は煙草の煙を口から出す。生ぬるい海風にさらわれ、すぐに消え去っていく。「俺は学生の時、何かと不自由さを感じた気もするけどな」
「それは、自由になれる可能性があるからですよ」
「自由になれる可能性?」
「親、学校、勉強。学生を卒業すれば、色々なしがらみを全て取っ払って、自由に生きることができる。そんな自由を夢見るからこそ、今が不自由に思える。仮初の不自由なんです、学生のそれって」
「仮初の不自由…」
的を射ているような、射ていないような。変な感覚だった。
「学生の私が言うのは少し違うとは思うでしょうけど」
「はは。そこまで達観して人生を見てる子、同年代じゃいないんじゃないかな」
深青はんー、とのびをする。白シャツに紺のショートパンツを着た彼女の、服から出た真っ白な腕と脚に、陽の光が反射して輝く。
「龍介さんの言うとおりかも。私の大学の子達は皆、早く卒業して親元を離れて、自由に生きたいなんて嘆いてます。そのくせ親からもらったお小遣いで、デパコスなんか買っちゃって。自由に恋愛して、友達と遊んで。自分本位な生き方を、ある程度達成できているということを理解していないというのか」
いささか主観的な意見ではあったが、彼女の言うことには一理あった。身に染みていたからだ。
「うちの会社の若いやつに聞かせてやりたいよ」
「若い子なんですか?」
「新人。生意気というか、なんというか」
「大学生気分が抜け切れてないんでしょうね」深青は肩をすくめる。「社会人になってまで、自由を夢見るなと思います」
俺は彼女の発言を聞きながら、既に水平線から離れ浮かんだ太陽へとまた目をやった。その光は眩しく、そして目に痛いほど沁みるものだった。
車に乗り込み、千里浜なぎさドライブウェイから道路に合流する。それからしばらく海沿いを走る。朝方というだけあって、走る車の数は少ない。海風と輝く陽の光を浴びていると、アクセルを踏む力が自然と強まるものである。
途中に立ち寄った道の駅の喫茶店で、朝食を取ることにした。深青はサンドイッチにコーンスープ。俺はアイスコーヒーを頼んだ。
「もうすぐ終着点ですね」
食事を終え、助手席に乗ったところで、深青がポツリと呟く。俺は無言で頷いた。まばらな住宅街の中を進みながら、俺は海沿いの県道を進む。
終着点か。とうとうそこに着く。
終わりの時は近い。
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