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若者との再会
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だが、静がその短刀に手を伸ばそうとした瞬間、刀は強い拒絶の光を放ち、静の手を弾いた。
「無駄だ。それはお前には扱えぬ代物だ」
その声は、静が立っている蔵の床からではなく、高い場所から響いた。
静が反射的に見上げると、埃だらけの蔵の梁に、一人の若者が腰掛けているのが見えた。静は、その顔を認識した瞬間、血の気が引いた。
「あなた……! あの時の辻(つじ)でわたくしに声をかけた男!」
静は恐怖と驚きを通り越し、再び侮蔑の念に駆られた。まさか、あの道端で「道尋ね」と称して声をかけてきた不審者が、夜中に蔵に忍び込んでいるとは。
若者は、蔵の梁からひらりと飛び降り、静の目の前に立った。
「やっと見つけたぞ、娘御」
若者は静を見つめる。
「前回は道一つ聞いてもらえなかったが、ここが探していた場所で間違いなさそうだ。お前の家は長屋ではない、『封印の家』だったわけか」
静は、手に残る綾の血の感触と、千代の最期の姿の記憶を振り払い、怒りの表情を張り付けた。
「やはりそうだったのね! 道尋ねなど嘘八百、わたくしを付け回していたのね! しかもこんな薄汚れた蔵に忍び込み、何をするつもり! わたくしのような容色(ようしょく)優れない娘を口説いて、骨董品でも盗むのかしら!」
静の根強い誤解と誇張表現に、若者は苛立ちを隠せない様子でため息をついた。
「いい加減にしろ! この事態は、お前の考えるような色恋沙汰ではない! なぜそんなに話を聞かない!」
若者は、静の腰元をちらりと見た。
「お前の身につけていた鈴の音が、この蔵の封印の波長と共鳴したのを感じたから、ここへ来たのだ。お前こそ、なぜその刀を箱から出してしまった!」
彼は光の短刀を指し示す。
「あの箱は、結界の蓋。お前の家系は代々それを守る『精霊の守り人』だ。だが、お前では、最早その役目は果たせぬ。どうやら悪魔と言う名の妖も現れたようだし。おれがその仲間だと思うのなら、それでもいい。だが、おれはソイツらの仲間でも何でもない。だからおれならソイツらをさっさと殺している。説明は後だ。すぐにそれを私に渡せ」
静は、その真剣な眼差しと、自分を疑う若者の言葉に、一瞬言葉を失った。
(ガマの仲間……ではない? 綾さんが命を懸けて守れと言った箱から、この光の刀が。そして、彼はそれを『神具』だと言っている……)
しかし、友と忠実な使用人を失った怒りは、まだ静の理性を支配していた。
「信用できるわけがないでしょう! あなたこそ、なぜ今までここに隠れていたの! 私が千代を、綾さんを殺されている間、何をしていたのよ!」
静の胸の奥で、光の短刀が、静の決意の固さを見定めるかのように、強く煌めき続けていた。
奴らがココにもうじきやって来る。お前は喰われてしまいだ。この日の本も滅んじまうんだよ
静の激しい怒りと不信の言葉に対し、若者は苛立ちを露わにした。しかし、その目には焦りよりも、もっと切迫した現実の危機が映っていた。
「くどい! もうじき、奴らがここへやって来る!」
若者は声を荒げ、静の疑問や感情を無視して本題を突きつける。
「その短刀の光を見た者は、必ずこの蔵の場所を特定する。特に、あのガマを操っているような強力な妖(あやかし)はな。この刀を箱から出したお前は、もはや餌でしかない。奴らにとっては、お前を喰らい、この日の本(ひのもと)も滅ぼしてしまうための、格好の導火線だ!」
静は、その言葉の重みに、再び身体が凍りつくのを感じた。千代や綾を襲った災いが、自分の家だけでなく、国全体に関わる事態だというのか。
「奴らって、一体誰のことよ!」静は顔色を変え、問いただした。
若者は、蔵の梁に視線を向け、暗闇の奥を見据えるような、重い表情を浮かべた。
「悪魔と契約したあやかしだ」
その聞き慣れない言葉に、静は混乱した。
「アクマ? 西洋のお伽噺に聞くような……そんなものがいるとでも?」
若者は鼻で笑った。
「馬鹿にするな。お前たち新しい時代の人間は、目に見えぬものをすべて迷信と切って捨てる。だが、この国が開国し、西洋の教えや品々が流れ込んだのは、金や文化だけではない。異国の穢れもまた、この土壌に深く根を張り始めている」
彼は静の目をまっすぐに見つめ、強い警告を発した。
「源兵衛もまた、その悪魔の契約に手を染めた欲深き人間に過ぎん。奴らは、お前の蔵の箱に封じられた力を欲している。そして、その力を手に入れるための鍵が、お前と、その手元にある短刀なのだ!」
若者は焦燥を滲ませた口調で、再び強く命じた。
「いい加減に理解しろ! 問答している暇はない! その短刀を私に渡せ! 私が奴らと戦い、お前の家を守る! さもなくば、お前はここで悪魔に魂を食われるぞ!」
静は、ガマの化け物や源兵衛の非人道的な振る舞い、そして今目の前にいる若者の緊迫した表情から、これが冗談ではないことを悟り始めていた。しかし、見知らぬ男に、綾が命懸けで守れと言ったものを渡してしまって良いのか?
若者の切迫した警告と、自身の命を懸けた葛藤の狭間で立ち尽くす静。光の短刀はチリチリと音を立てて輝きを増し、蔵の空気は極限の緊張に達していた。
「無駄だ。それはお前には扱えぬ代物だ」
その声は、静が立っている蔵の床からではなく、高い場所から響いた。
静が反射的に見上げると、埃だらけの蔵の梁に、一人の若者が腰掛けているのが見えた。静は、その顔を認識した瞬間、血の気が引いた。
「あなた……! あの時の辻(つじ)でわたくしに声をかけた男!」
静は恐怖と驚きを通り越し、再び侮蔑の念に駆られた。まさか、あの道端で「道尋ね」と称して声をかけてきた不審者が、夜中に蔵に忍び込んでいるとは。
若者は、蔵の梁からひらりと飛び降り、静の目の前に立った。
「やっと見つけたぞ、娘御」
若者は静を見つめる。
「前回は道一つ聞いてもらえなかったが、ここが探していた場所で間違いなさそうだ。お前の家は長屋ではない、『封印の家』だったわけか」
静は、手に残る綾の血の感触と、千代の最期の姿の記憶を振り払い、怒りの表情を張り付けた。
「やはりそうだったのね! 道尋ねなど嘘八百、わたくしを付け回していたのね! しかもこんな薄汚れた蔵に忍び込み、何をするつもり! わたくしのような容色(ようしょく)優れない娘を口説いて、骨董品でも盗むのかしら!」
静の根強い誤解と誇張表現に、若者は苛立ちを隠せない様子でため息をついた。
「いい加減にしろ! この事態は、お前の考えるような色恋沙汰ではない! なぜそんなに話を聞かない!」
若者は、静の腰元をちらりと見た。
「お前の身につけていた鈴の音が、この蔵の封印の波長と共鳴したのを感じたから、ここへ来たのだ。お前こそ、なぜその刀を箱から出してしまった!」
彼は光の短刀を指し示す。
「あの箱は、結界の蓋。お前の家系は代々それを守る『精霊の守り人』だ。だが、お前では、最早その役目は果たせぬ。どうやら悪魔と言う名の妖も現れたようだし。おれがその仲間だと思うのなら、それでもいい。だが、おれはソイツらの仲間でも何でもない。だからおれならソイツらをさっさと殺している。説明は後だ。すぐにそれを私に渡せ」
静は、その真剣な眼差しと、自分を疑う若者の言葉に、一瞬言葉を失った。
(ガマの仲間……ではない? 綾さんが命を懸けて守れと言った箱から、この光の刀が。そして、彼はそれを『神具』だと言っている……)
しかし、友と忠実な使用人を失った怒りは、まだ静の理性を支配していた。
「信用できるわけがないでしょう! あなたこそ、なぜ今までここに隠れていたの! 私が千代を、綾さんを殺されている間、何をしていたのよ!」
静の胸の奥で、光の短刀が、静の決意の固さを見定めるかのように、強く煌めき続けていた。
奴らがココにもうじきやって来る。お前は喰われてしまいだ。この日の本も滅んじまうんだよ
静の激しい怒りと不信の言葉に対し、若者は苛立ちを露わにした。しかし、その目には焦りよりも、もっと切迫した現実の危機が映っていた。
「くどい! もうじき、奴らがここへやって来る!」
若者は声を荒げ、静の疑問や感情を無視して本題を突きつける。
「その短刀の光を見た者は、必ずこの蔵の場所を特定する。特に、あのガマを操っているような強力な妖(あやかし)はな。この刀を箱から出したお前は、もはや餌でしかない。奴らにとっては、お前を喰らい、この日の本(ひのもと)も滅ぼしてしまうための、格好の導火線だ!」
静は、その言葉の重みに、再び身体が凍りつくのを感じた。千代や綾を襲った災いが、自分の家だけでなく、国全体に関わる事態だというのか。
「奴らって、一体誰のことよ!」静は顔色を変え、問いただした。
若者は、蔵の梁に視線を向け、暗闇の奥を見据えるような、重い表情を浮かべた。
「悪魔と契約したあやかしだ」
その聞き慣れない言葉に、静は混乱した。
「アクマ? 西洋のお伽噺に聞くような……そんなものがいるとでも?」
若者は鼻で笑った。
「馬鹿にするな。お前たち新しい時代の人間は、目に見えぬものをすべて迷信と切って捨てる。だが、この国が開国し、西洋の教えや品々が流れ込んだのは、金や文化だけではない。異国の穢れもまた、この土壌に深く根を張り始めている」
彼は静の目をまっすぐに見つめ、強い警告を発した。
「源兵衛もまた、その悪魔の契約に手を染めた欲深き人間に過ぎん。奴らは、お前の蔵の箱に封じられた力を欲している。そして、その力を手に入れるための鍵が、お前と、その手元にある短刀なのだ!」
若者は焦燥を滲ませた口調で、再び強く命じた。
「いい加減に理解しろ! 問答している暇はない! その短刀を私に渡せ! 私が奴らと戦い、お前の家を守る! さもなくば、お前はここで悪魔に魂を食われるぞ!」
静は、ガマの化け物や源兵衛の非人道的な振る舞い、そして今目の前にいる若者の緊迫した表情から、これが冗談ではないことを悟り始めていた。しかし、見知らぬ男に、綾が命懸けで守れと言ったものを渡してしまって良いのか?
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