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寄合
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村人が荒々しい声で「寄合に顔を出せ」と告げたことで、静と一刀は、この山間の町にも既に難儀の影が深く入り込んでいることを確信した。
睡蓮は虚ろな目でそう言うと、立ち上がった。
荒々しい声で「寄合に顔を出せ」と告げた村人たちを見送った後、睡蓮は一刀たちの方へ振り返った。
「行かねばならない。少々時間が遅くなるかもしれない。夜更けになるだろう」
彼女はそう告げると、優蛇に目配せをした。
「優蛇。客人たちを頼む。彼らを蔵へ近づけさせるな。私が帰ってくるまで、家の中で待たせておけ。いいな、私の務めを邪魔させるな」
優蛇はわずかに表情を硬くしたが、姉の意図を察し、すぐに頷いた。
「わかったよ、姉貴。この人たちを、しっかり見張っておく」
睡蓮は村人たちと共に家を出て、村の集会場へと向かった。一刀、静、松本の三人は、優蛇に促され、荒廃した母屋で待機することになった。
彼女が村人たちと共に家を出ていくのを見送った後、優蛇は不安そうな顔で一刀たちに言った。
「村の衆は最近様子がおかしくなってしまった。昔は、姉貴の言うことを聞いていたのに、今は誰も信じてくれない」
村の集会所に集まっていたのは、村長と、地域を区割りされた組の長たちが五人。彼らは中心の円卓を囲み、顔を曇らせていたが、その瞳の奥には、尋常ではない、冷たい光が宿っていた。
「来たか、睡蓮」
村長が、座敷に入ってきた睡蓮を一瞥した。
「お前が代々守ってきた不吉な宝のせいで、山が荒れ、病が増えている。過去にも何度も同じような事が起きるたびにお前ら一族を信じ、裏切られてきた。どうして我々が、お前の務めなぞ信じられよう」
睡蓮は目を伏せたまま答えた。
「村長。宝は、この世の難儀の蓋だ。それを信じないのなら……」
「信じるさ」
村長が発したその言葉は、人間の声ではなかった。低く、ねっとりとした、小松が変貌した際の声に酷似していた。
「我々が信じるのは、神のお告げなどではない。目の前にある安寧だ。食べて、寝て、日々を何事もなく無事に暮らすという当たり前の日常だ、神のお告げは何かことが起きたときの治療薬に過ぎん。睡蓮、お前が家に連れ込んだのは三人の野獣だ。難儀の影響がでている上に何をしでかすか判らぬ野獣までもお前はおびき寄せてしまったのだ」
組の長五人と村長の瞳には、黒い憎悪の光が宿り、彼らの皮膚は僅かに青黒い斑点が浮かび始めていた。
「お前らが守ってきた難儀の蓋は、共に寝食と苦楽を共にしてきた我々の手にあるも同じ」
村長だった怪物は、そう宣告した。
「睡蓮。お前の忠誠心を試そう。我々の安寧と秩序を乱す不届き者たち——すなわち客人の首を持ってこい。それが、お前がこの村の安寧を望んでいるという、最高の証となる」
悪魔に支配された村は、静たちを、巨悪の元凶として討ち取ることを要求した。睡蓮は、自分たちの家が、既に難儀の渦中にあることを悟った。
睡蓮は、村長と五人の組の長、そして彼らの奥から漂ってくる悪意の気配に、震えながらも、その場に立ち尽くした。
「私の生業は、この村を守ること。と、同時に世界の安寧と平和を願うもの。誰かの血で果たすつもりはない」
睡蓮の瞳の奥に、わずかながら覚悟の光が灯った。彼女は、もはや村人たちを装う悪魔の言葉に屈しなかった。
「だが、あの者たちが本当に賊ならば、私は討たねばならぬ。それが、この村を守る務めだ」
彼女は、五人の組の長に向かって言った。
「貴方たちの力は不要だ。私は、この者たちが真の悪党かどうか、自分の目で見極めなければならない。蔵の難儀の蓋は、私が死んでも渡さぬ。それを欲するなら、私を討ってからにしろ」
睡蓮は、五人の組の長の力を借りることを拒否し、単独で一刀たちと対峙するという偽りの決断を下した。彼女は、悪魔の目を欺き、一刀たちを蔵へ導くための時間を稼ごうとしたのだ。
「私は家に戻る。この者たちを討つのは、私の役目だ。貴方たちは、村の警護に徹するがいい。それが、村長への忠誠だろう」
睡蓮はそう言い放ち、組の長たちの不満と村長の疑念を残したまま、集会場を後にした。
睡蓮が家へ戻るため集会場を後にした後、村長と五人の組の長だけが残された集会場は、重く、ねっとりとした悪意の空気に満たされた。
睡蓮が家へ戻るため集会場を後にした後、村長と五人の組の長だけが残された集会場は、重く、ねっとりとした悪意の空気に満たされた。
村長だった怪物が、苛立ちを露わにする間もなく、集会場の天井裏から、異様な存在が音もなく滑り降りてきた。
それは、巨大な猛禽類の頭部を持ちながら、全身は獣の毛皮と鋭い爪で覆われた、獣と鳥が合わさったような悪魔だった。
「余計な時間を食ったな」
獣鳥の悪魔は、村長と五人の組の長に向かって、血走った目を向けた。
「睡蓮など、どうでも良い。あの女の務めなぞ、この難儀の波の前では無意味だ。我々が真に望むのは、神具と、その宝が守る次の難儀の源だ」
悪魔は、その鋭い爪で床を掻きむしりながら、命令を下した。
「あの女は、宝を隠した蔵へと、光と闇の契約者を導く道標となるだろう。貴様らの役目は、道標に先行する障害の排除だ」
「あの三人の首を狙う必要はない。彼らの行く手を塞ぎ、睡蓮を追い詰めろ。そして、あの女の務め、つまり宝を守るという強固な業を、我らの食い物となるよう、絶望で塗り潰してやれ」
「ハッ!」
悪魔に支配された村長と組の長たちは、飢えた家畜のように返事をすると、睡蓮が戻る前に旧家へと先回りするため、集会場を飛び出していった。
睡蓮は虚ろな目でそう言うと、立ち上がった。
荒々しい声で「寄合に顔を出せ」と告げた村人たちを見送った後、睡蓮は一刀たちの方へ振り返った。
「行かねばならない。少々時間が遅くなるかもしれない。夜更けになるだろう」
彼女はそう告げると、優蛇に目配せをした。
「優蛇。客人たちを頼む。彼らを蔵へ近づけさせるな。私が帰ってくるまで、家の中で待たせておけ。いいな、私の務めを邪魔させるな」
優蛇はわずかに表情を硬くしたが、姉の意図を察し、すぐに頷いた。
「わかったよ、姉貴。この人たちを、しっかり見張っておく」
睡蓮は村人たちと共に家を出て、村の集会場へと向かった。一刀、静、松本の三人は、優蛇に促され、荒廃した母屋で待機することになった。
彼女が村人たちと共に家を出ていくのを見送った後、優蛇は不安そうな顔で一刀たちに言った。
「村の衆は最近様子がおかしくなってしまった。昔は、姉貴の言うことを聞いていたのに、今は誰も信じてくれない」
村の集会所に集まっていたのは、村長と、地域を区割りされた組の長たちが五人。彼らは中心の円卓を囲み、顔を曇らせていたが、その瞳の奥には、尋常ではない、冷たい光が宿っていた。
「来たか、睡蓮」
村長が、座敷に入ってきた睡蓮を一瞥した。
「お前が代々守ってきた不吉な宝のせいで、山が荒れ、病が増えている。過去にも何度も同じような事が起きるたびにお前ら一族を信じ、裏切られてきた。どうして我々が、お前の務めなぞ信じられよう」
睡蓮は目を伏せたまま答えた。
「村長。宝は、この世の難儀の蓋だ。それを信じないのなら……」
「信じるさ」
村長が発したその言葉は、人間の声ではなかった。低く、ねっとりとした、小松が変貌した際の声に酷似していた。
「我々が信じるのは、神のお告げなどではない。目の前にある安寧だ。食べて、寝て、日々を何事もなく無事に暮らすという当たり前の日常だ、神のお告げは何かことが起きたときの治療薬に過ぎん。睡蓮、お前が家に連れ込んだのは三人の野獣だ。難儀の影響がでている上に何をしでかすか判らぬ野獣までもお前はおびき寄せてしまったのだ」
組の長五人と村長の瞳には、黒い憎悪の光が宿り、彼らの皮膚は僅かに青黒い斑点が浮かび始めていた。
「お前らが守ってきた難儀の蓋は、共に寝食と苦楽を共にしてきた我々の手にあるも同じ」
村長だった怪物は、そう宣告した。
「睡蓮。お前の忠誠心を試そう。我々の安寧と秩序を乱す不届き者たち——すなわち客人の首を持ってこい。それが、お前がこの村の安寧を望んでいるという、最高の証となる」
悪魔に支配された村は、静たちを、巨悪の元凶として討ち取ることを要求した。睡蓮は、自分たちの家が、既に難儀の渦中にあることを悟った。
睡蓮は、村長と五人の組の長、そして彼らの奥から漂ってくる悪意の気配に、震えながらも、その場に立ち尽くした。
「私の生業は、この村を守ること。と、同時に世界の安寧と平和を願うもの。誰かの血で果たすつもりはない」
睡蓮の瞳の奥に、わずかながら覚悟の光が灯った。彼女は、もはや村人たちを装う悪魔の言葉に屈しなかった。
「だが、あの者たちが本当に賊ならば、私は討たねばならぬ。それが、この村を守る務めだ」
彼女は、五人の組の長に向かって言った。
「貴方たちの力は不要だ。私は、この者たちが真の悪党かどうか、自分の目で見極めなければならない。蔵の難儀の蓋は、私が死んでも渡さぬ。それを欲するなら、私を討ってからにしろ」
睡蓮は、五人の組の長の力を借りることを拒否し、単独で一刀たちと対峙するという偽りの決断を下した。彼女は、悪魔の目を欺き、一刀たちを蔵へ導くための時間を稼ごうとしたのだ。
「私は家に戻る。この者たちを討つのは、私の役目だ。貴方たちは、村の警護に徹するがいい。それが、村長への忠誠だろう」
睡蓮はそう言い放ち、組の長たちの不満と村長の疑念を残したまま、集会場を後にした。
睡蓮が家へ戻るため集会場を後にした後、村長と五人の組の長だけが残された集会場は、重く、ねっとりとした悪意の空気に満たされた。
睡蓮が家へ戻るため集会場を後にした後、村長と五人の組の長だけが残された集会場は、重く、ねっとりとした悪意の空気に満たされた。
村長だった怪物が、苛立ちを露わにする間もなく、集会場の天井裏から、異様な存在が音もなく滑り降りてきた。
それは、巨大な猛禽類の頭部を持ちながら、全身は獣の毛皮と鋭い爪で覆われた、獣と鳥が合わさったような悪魔だった。
「余計な時間を食ったな」
獣鳥の悪魔は、村長と五人の組の長に向かって、血走った目を向けた。
「睡蓮など、どうでも良い。あの女の務めなぞ、この難儀の波の前では無意味だ。我々が真に望むのは、神具と、その宝が守る次の難儀の源だ」
悪魔は、その鋭い爪で床を掻きむしりながら、命令を下した。
「あの女は、宝を隠した蔵へと、光と闇の契約者を導く道標となるだろう。貴様らの役目は、道標に先行する障害の排除だ」
「あの三人の首を狙う必要はない。彼らの行く手を塞ぎ、睡蓮を追い詰めろ。そして、あの女の務め、つまり宝を守るという強固な業を、我らの食い物となるよう、絶望で塗り潰してやれ」
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