ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

文字の大きさ
15 / 82
「だから、また会えるって言っただろ?」

(3)

しおりを挟む
 ピンポーン…♪

 そんなことを話して琉生の朝食がちょうど終わったタイミングで、インターホンが鳴った。
 出ようとすると、俺が、と制された。
 そのあいだに紗奈は空いた皿を慌てて片付け、テーブルを拭いた。


、よく来たな」

 玄関先で話す琉生の声が聞こえて、紗奈は思わず動きを止めた。
 その名前に敏感に反応してしまう自分は、あの日のことを忘れてないからだ。

 ハル――琉生はそう言った。
 でもそれは愛称で、ハル、という名前じゃないかもしれないし、もし仮にハルだったところであの羽琉と同一人物なわけがない。
 ……そう、思いたかった。

「兄貴、ワガママ言ってごめんな」

 なのに、耳に入ってくる声は聞き覚えのあるもので、ジンと体が疼いた。
 あの夜、紗奈の名前を甘く呼んだ時と違うものの、でも同じ声だった。

 ……違う。
 琉生の弟が羽琉のわけがない。
 一夜を共にしたのが琉生の弟だなんて、そんなことあってはならない。
 旅先で会ったのが、セックスをしたのがまさか琉生の家族だったなんてそんなこと。
 違う違う、と紗奈は頭を振り、羽琉じゃないと言い聞かせる。
 ただ声が似ているだけで、名前が同じだけで、あの羽琉とは別人。
 そうじゃなきゃダメで、そうあってほしいと切に願った。


「紗奈、紹介する。弟の羽琉」

 だけど、琉生に連れられるようにしてリビングに入ってきたのは、見間違うはずがない、あの夜に何度も体を重ねた羽琉に違いなかった。

 どういうことなの、弟なんて。
 あの日、羽琉に言われてスマートフォンに入っていた琉生との写真を見せた。
 だから、琉生の彼女だってこと、彼は知っていたはずなのに。
 知っててホテルに誘って、あんなにも激しく抱いたっていうの。

「よろしくお願いします、紗奈さん」

 あの時とは違う顔。
 でも、今目の前にいるのは、間違いなく羽琉だ。
 大学生らしい顔つきで見つめてくる瞳もまっすぐで、この彼が紗奈を抱いた男だとは思えないほどとても爽やかだった。
 だけど、見え隠れする意地悪そうな瞳は、あの時とまったく変わらない。

 初めまして、と羽琉は言わなかった。
 それはあの日のことを、あの夜のことを覚えているからに違いない。
 一夜とはいえ、あんなにも抱き合ったんだから覚えてないわけがない。

「……うん。よろしくね」

 紗奈は無理やりに笑みを浮かべてそう言うのに精一杯だった。
 まだ頭は追いついていなくて、この現実を受け入れるのがきつかった。

 初めて見た時、自分より年下だと思った。
 でもまさか大学生だったなんて、そんなこと思いもしなかった。
 あまり年が変わらないとはいえ、まだ学生の子と関係を持ったなんて今でも信じたくない。

「…あ、コーヒー淹れるねっ」

 紗奈は逃げるようにして、キッチンのほうへ体を潜ませた。
 気持ちを落ち着かせるように息を吐き、インスタントコーヒーを用意する。


 ――落ち着け…。

 こんな形で再会なんて思ってもみなかったけど、きっと大丈夫。
 もうあんなことにはならないし、琉生の弟ならなおさら無理だ。
 なにもなかったかのように普通に振る舞えるはず。
 あの夜は旅先で羽目を外しすぎた――そう、ただそれだけのこと。
 いくらあの時のセックスがよかったといっても、もう忘れなきゃ。
 琉生の弟と、羽琉と体を重ねたことは絶対に知られちゃいけない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にお前の心をくれ〜若頭はこの純愛を諦められない

ラヴ KAZU
恋愛
西園寺組若頭、西園寺健吾は夕凪由梨に惚れた。 由梨を自分の物にしたいと、いきなり由梨のアパートへおしかけ、プロポーズをする。 初対面のヤクザにプロポーズされ、戸惑う由梨。 由梨は父の残した莫大な借金を返さなければいけない。 そのため、東條ホールディングス社長東條優馬の婚約者になる契約を優馬の父親と交わした。 優馬は女癖が悪く、すべての婚約が解消されてしまう。 困り果てた優馬の父親は由梨に目をつけ、永年勤務を約束する代わりに優馬の婚約者になることになった。 由梨は健吾に惹かれ始めていた。でも健吾のプロポーズを受けるわけにはいかない。 由梨はわざと健吾に嫌われるように、ある提案をした。 「私を欲しいなら、相手になります、その代わりお金頂けますか」 由梨は健吾に囲われた。 愛のないはずの優馬の嫉妬、愛のない素振りをする健吾、健吾への気持ちに気づいた由梨。 三人三様のお互いへの愛。そんな中由梨に病魔が迫っていた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。 高橋涼葉、28歳。 元カレとは彼の転勤を機に破局。 恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。 そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。 勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。 ※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。 これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。 急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。 これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。                   2025/10/21 和泉 花奈

処理中です...