ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「同窓会に行って、本当になにもないと思う?」

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「明日、何時に帰ってくる?」

 同窓会の前日の夜、リビングでパソコンを開いている琉生にコーヒーを出しながらそう聞いた。
 彼はそれを受け取り、「ありがと」と言ってから一口だけ飲む。

「わかんないけど、多分遅くなると思う。酒飲むから電車で行くし」
「迎えに行こうか? 心配だし」
「何時になるかわかんないのに悪いよ。それに俺よりも紗奈の運転のほうが心配だし」
「もう! 本気で言ってるのに!」
「あははっ、ごめんごめん」

 琉生はブルーライトカットの眼鏡を外すと、優しく紗奈の頭を撫でた。
 こんな些細なことでも心が引き寄せられて、好きだと実感させられる。
 琉生が想ってくれているのもわかるし向けられる優しさは本物なのに、それでも不安が消えないのは二人のあいだに体の繋がりがないから。

「でも、本当に大丈夫。なんかあったら電話するから」

 そう言われたらそれ以上のことは言えなくて、うん、と言うしかできなかった。
 行っていいって言ったのは自分なのに、いざその日が近づくと不安で仕方ない。
 それは琉生がどうとかじゃなくて、紅音の態度や言葉に引っ掛かりを感じるからだ。
 琉生の名前を出した時の反応がいつもと少し違っていたから。

 ――ただの同級生、だよね?

 琉生にそう聞ければ楽なのにそう言えないのは、彼の口から本当のことを聞くのが怖いから。
 尊敬している先輩とはいえ、その名前を聞くのも勇気がいるから。

「あんまり飲み過ぎないでね?」

 聞きたいことは聞けず、紗奈はそう言うだけ。
 付き合いが長くなるだけ失うのが怖くて、本音も言えなくなる。
 なんでも話せる恋人になろう――交際当初の琉生の言葉が、ひどく遠く聞こえた気がした。


「……琉生」

 そっと名前を呼ぶと、紗奈はほとんど無意識にギュッと抱き着いた。
 いろんな感情がごちゃ混ぜになってどうしようもなく不安で、それを打ち消したくて大事な彼に抱きしめてほしかった。
 抱いてもらえないならせめて、琉生の温もりを感じたくて。

「どしたの、紗奈?」
「……なんでもない」
「そ? なんかあるなら、ちゃんと言えよ?」

 琉生は無理やり引き剥がすようなことはせず、そのままの体勢でポンポンと優しく頭を軽く叩いた。
 自分よりも大きな手の感触を感じて、なんだか泣きたくなった。
 それでも泣くなんてできなくて、ん、と頷いて更に強く抱き着いた。

「なんか今日は甘えただなぁ。いいけどね」

 琉生は少し体を離したと思うと、小さく笑って頬に優しく手を添えた。
 瞳や頬にキスをされ、そのまま軽く触れる程度に唇を重ねられた。

 琉生とのキスが好き。
 見つめてくる優しい瞳が好き。
 出会った時から変わらない笑顔で抱きしめられると、『好き』って言われてるみたいで。
 それでも琉生は、どんなに求めてもセックスをしてくれない。
 それは自分だからなのか、それとも他の人に対しても同じなのか。
 それがわからないけど、聞くような勇気はやっぱりどうやっても持てない。

「私のこと、好き?」

 そう聞けば、琉生はいつもと同じ顔で笑って頷いて答えてくれる。
 優しく頭を撫でてくれて、そして欲しい言葉をくれる。

「好きだよ、紗奈」

 琉生がくれる言葉は甘い。
 そこには偽りも嘘も見えないのに、抱いてくれないことだけが不満だ。
 その言葉だけじゃ足りなくて、心と体全部で繋がりたいと思うのはおかしいことなのかな。
 琉生はキスを繰り返して、ちゃんと想いを伝えてくれるのに。
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