ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「同窓会に行って、本当になにもないと思う?」

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「……それ、やめて。可愛いって言うの」
「なんで?」
「そう言われるの、好きじゃない」

 そう言われるたびに、『可愛くない』って言われたことを思い出すから。
 もう何年も前のことなのにあの時のことがトラウマになっていて、胸の奥がギュッと痛くて仕方なくなる。
 羽琉は本気でそう言ってるふうに感じて、それが余計に胸を苦しくさせる。
 琉生に言われた時とは違う感覚になって、それに後ろめたさを覚える。

 不意に羽琉の手がそっと頬を撫でる。
 じっと見つめられて「なに」と無表情に聞くと、目の前の瞳が少し揺れた。

「泣きそうな顔してる」

 ……なんで、羽琉が気付くの。
 過去のことを忘れようと何人かの男と付き合って抱かれてきたけど、誰もそのことに気付かなかったのに。
 琉生ですらも、奥底に抱えているものに気付く気配もないのに。
 なのにどうして一夜を共にしただけの彼が、こうして感じさせるだけの彼がわかるの。

 縋りたくなる衝動をなんとか抑えて、触れてくる羽琉の手をそっと払う。
 これ以上触れていると、その温もりの優しさに余計に泣きたくなるから。

「…っもう離れて。琉生が――」

 羽琉に背中を向けて乱れた服を直していると、後ろから抱き着かれた。
 琉生とは違う温もりに包まれて、でもそれが嫌じゃないなんて。
 最初から、羽琉はいとも簡単に空いた隙間に入り込んでくる。
 今もただ抱きしめられているだけなのに、なぜか安心すら覚える。

「紗奈はすごく可愛いよ? 感じてる顔も強がって見せる顔も全部」
「…っ」
「紗奈が嫌でも、俺はそう思ったら何度でも言うから」

 羽琉は抱きしめる腕に力を込めて囁くような声で、「紗奈は可愛い」と心に響くような言葉を迷いもなく言った。
 その言葉に嘘も偽りもないようで胸が高鳴った。


 その時、リビングが開く音がして、慌てて羽琉の体を引き離した。
 一瞬心臓が止まったようで、息をすることができなかった。
 琉生は頭を乱暴に拭きながら入ってきて、紗奈は目を合わせられずにいた。
 体には羽琉の温もりや感覚が残っていて、一気に後ろめたさを感じる。
 快楽に流されている時は、琉生のことなんて考えなかったのに。

「ん、どしたの」

 二人の様子を見て不思議そうな声を出す琉生に声も出せずにいると、羽琉は平然としたように「別に」と言った。
 さっきまであんなことをしていたくせに何事もなく振る舞える彼が、なんだかとても憎らしく思える。
 あまりにもいつもどおりすぎて、自分がおかしいんじゃないかとさえ思う。

「…~っお風呂入ってくる!」

 紗奈は逃げるようにしてリビングを出た。
 いまだに少し火照った体で琉生の前にいるのがとにかく嫌だった。




***


「はー…」

 バスルームでシャワーを浴びながら、紗奈は大きく息を吐き出した。
 羽琉にされたキスや愛撫を消すように、思いきり水量を激しくして。
 目を閉じてなにも考えないようにするもそんなものは無意味で、羽琉の声が、キスが、指先がまだ強く思い出されるだけだった。

 本当はあのまま抱かれてもよかった。
 ……いや違う、そうしてほしいと思った。
 ダメだと拒んだのは自分なのに、無理やりにでも挿れられたら素直に受け入れたはずだ。
 それほどまでに羽琉を求める自分が奥底にいて、思い出すだけで濡れるのを感じた。
 その部分にそっと触れると、ぬるり、とした感触を覚えて恥ずかしくなった。

「琉生……抱いてよ…」

 また流されてしまう前に、琉生の感覚をちゃんと思い出させて。
 そしたら、羽琉が与える快楽に溺れることもきっとないのに。

 だけど、琉生はその日も、決してセックスをしようとはしなかった――。
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