29 / 82
「同窓会に行って、本当になにもないと思う?」
(6)
しおりを挟む
「……それ、やめて。可愛いって言うの」
「なんで?」
「そう言われるの、好きじゃない」
そう言われるたびに、『可愛くない』って言われたことを思い出すから。
もう何年も前のことなのにあの時のことがトラウマになっていて、胸の奥がギュッと痛くて仕方なくなる。
羽琉は本気でそう言ってるふうに感じて、それが余計に胸を苦しくさせる。
琉生に言われた時とは違う感覚になって、それに後ろめたさを覚える。
不意に羽琉の手がそっと頬を撫でる。
じっと見つめられて「なに」と無表情に聞くと、目の前の瞳が少し揺れた。
「泣きそうな顔してる」
……なんで、羽琉が気付くの。
過去のことを忘れようと何人かの男と付き合って抱かれてきたけど、誰もそのことに気付かなかったのに。
琉生ですらも、奥底に抱えているものに気付く気配もないのに。
なのにどうして一夜を共にしただけの彼が、こうして感じさせるだけの彼がわかるの。
縋りたくなる衝動をなんとか抑えて、触れてくる羽琉の手をそっと払う。
これ以上触れていると、その温もりの優しさに余計に泣きたくなるから。
「…っもう離れて。琉生が――」
羽琉に背中を向けて乱れた服を直していると、後ろから抱き着かれた。
琉生とは違う温もりに包まれて、でもそれが嫌じゃないなんて。
最初から、羽琉はいとも簡単に空いた隙間に入り込んでくる。
今もただ抱きしめられているだけなのに、なぜか安心すら覚える。
「紗奈はすごく可愛いよ? 感じてる顔も強がって見せる顔も全部」
「…っ」
「紗奈が嫌でも、俺はそう思ったら何度でも言うから」
羽琉は抱きしめる腕に力を込めて囁くような声で、「紗奈は可愛い」と心に響くような言葉を迷いもなく言った。
その言葉に嘘も偽りもないようで胸が高鳴った。
その時、リビングが開く音がして、慌てて羽琉の体を引き離した。
一瞬心臓が止まったようで、息をすることができなかった。
琉生は頭を乱暴に拭きながら入ってきて、紗奈は目を合わせられずにいた。
体には羽琉の温もりや感覚が残っていて、一気に後ろめたさを感じる。
快楽に流されている時は、琉生のことなんて考えなかったのに。
「ん、どしたの」
二人の様子を見て不思議そうな声を出す琉生に声も出せずにいると、羽琉は平然としたように「別に」と言った。
さっきまであんなことをしていたくせに何事もなく振る舞える彼が、なんだかとても憎らしく思える。
あまりにもいつもどおりすぎて、自分がおかしいんじゃないかとさえ思う。
「…~っお風呂入ってくる!」
紗奈は逃げるようにしてリビングを出た。
いまだに少し火照った体で琉生の前にいるのがとにかく嫌だった。
***
「はー…」
バスルームでシャワーを浴びながら、紗奈は大きく息を吐き出した。
羽琉にされたキスや愛撫を消すように、思いきり水量を激しくして。
目を閉じてなにも考えないようにするもそんなものは無意味で、羽琉の声が、キスが、指先がまだ強く思い出されるだけだった。
本当はあのまま抱かれてもよかった。
……いや違う、そうしてほしいと思った。
ダメだと拒んだのは自分なのに、無理やりにでも挿れられたら素直に受け入れたはずだ。
それほどまでに羽琉を求める自分が奥底にいて、思い出すだけで濡れるのを感じた。
その部分にそっと触れると、ぬるり、とした感触を覚えて恥ずかしくなった。
「琉生……抱いてよ…」
また流されてしまう前に、琉生の感覚をちゃんと思い出させて。
そしたら、羽琉が与える快楽に溺れることもきっとないのに。
だけど、琉生はその日も、決してセックスをしようとはしなかった――。
「なんで?」
「そう言われるの、好きじゃない」
そう言われるたびに、『可愛くない』って言われたことを思い出すから。
もう何年も前のことなのにあの時のことがトラウマになっていて、胸の奥がギュッと痛くて仕方なくなる。
羽琉は本気でそう言ってるふうに感じて、それが余計に胸を苦しくさせる。
琉生に言われた時とは違う感覚になって、それに後ろめたさを覚える。
不意に羽琉の手がそっと頬を撫でる。
じっと見つめられて「なに」と無表情に聞くと、目の前の瞳が少し揺れた。
「泣きそうな顔してる」
……なんで、羽琉が気付くの。
過去のことを忘れようと何人かの男と付き合って抱かれてきたけど、誰もそのことに気付かなかったのに。
琉生ですらも、奥底に抱えているものに気付く気配もないのに。
なのにどうして一夜を共にしただけの彼が、こうして感じさせるだけの彼がわかるの。
縋りたくなる衝動をなんとか抑えて、触れてくる羽琉の手をそっと払う。
これ以上触れていると、その温もりの優しさに余計に泣きたくなるから。
「…っもう離れて。琉生が――」
羽琉に背中を向けて乱れた服を直していると、後ろから抱き着かれた。
琉生とは違う温もりに包まれて、でもそれが嫌じゃないなんて。
最初から、羽琉はいとも簡単に空いた隙間に入り込んでくる。
今もただ抱きしめられているだけなのに、なぜか安心すら覚える。
「紗奈はすごく可愛いよ? 感じてる顔も強がって見せる顔も全部」
「…っ」
「紗奈が嫌でも、俺はそう思ったら何度でも言うから」
羽琉は抱きしめる腕に力を込めて囁くような声で、「紗奈は可愛い」と心に響くような言葉を迷いもなく言った。
その言葉に嘘も偽りもないようで胸が高鳴った。
その時、リビングが開く音がして、慌てて羽琉の体を引き離した。
一瞬心臓が止まったようで、息をすることができなかった。
琉生は頭を乱暴に拭きながら入ってきて、紗奈は目を合わせられずにいた。
体には羽琉の温もりや感覚が残っていて、一気に後ろめたさを感じる。
快楽に流されている時は、琉生のことなんて考えなかったのに。
「ん、どしたの」
二人の様子を見て不思議そうな声を出す琉生に声も出せずにいると、羽琉は平然としたように「別に」と言った。
さっきまであんなことをしていたくせに何事もなく振る舞える彼が、なんだかとても憎らしく思える。
あまりにもいつもどおりすぎて、自分がおかしいんじゃないかとさえ思う。
「…~っお風呂入ってくる!」
紗奈は逃げるようにしてリビングを出た。
いまだに少し火照った体で琉生の前にいるのがとにかく嫌だった。
***
「はー…」
バスルームでシャワーを浴びながら、紗奈は大きく息を吐き出した。
羽琉にされたキスや愛撫を消すように、思いきり水量を激しくして。
目を閉じてなにも考えないようにするもそんなものは無意味で、羽琉の声が、キスが、指先がまだ強く思い出されるだけだった。
本当はあのまま抱かれてもよかった。
……いや違う、そうしてほしいと思った。
ダメだと拒んだのは自分なのに、無理やりにでも挿れられたら素直に受け入れたはずだ。
それほどまでに羽琉を求める自分が奥底にいて、思い出すだけで濡れるのを感じた。
その部分にそっと触れると、ぬるり、とした感触を覚えて恥ずかしくなった。
「琉生……抱いてよ…」
また流されてしまう前に、琉生の感覚をちゃんと思い出させて。
そしたら、羽琉が与える快楽に溺れることもきっとないのに。
だけど、琉生はその日も、決してセックスをしようとはしなかった――。
0
あなたにおすすめの小説
俺にお前の心をくれ〜若頭はこの純愛を諦められない
ラヴ KAZU
恋愛
西園寺組若頭、西園寺健吾は夕凪由梨に惚れた。
由梨を自分の物にしたいと、いきなり由梨のアパートへおしかけ、プロポーズをする。
初対面のヤクザにプロポーズされ、戸惑う由梨。
由梨は父の残した莫大な借金を返さなければいけない。
そのため、東條ホールディングス社長東條優馬の婚約者になる契約を優馬の父親と交わした。
優馬は女癖が悪く、すべての婚約が解消されてしまう。
困り果てた優馬の父親は由梨に目をつけ、永年勤務を約束する代わりに優馬の婚約者になることになった。
由梨は健吾に惹かれ始めていた。でも健吾のプロポーズを受けるわけにはいかない。
由梨はわざと健吾に嫌われるように、ある提案をした。
「私を欲しいなら、相手になります、その代わりお金頂けますか」
由梨は健吾に囲われた。
愛のないはずの優馬の嫉妬、愛のない素振りをする健吾、健吾への気持ちに気づいた由梨。
三人三様のお互いへの愛。そんな中由梨に病魔が迫っていた。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
お見合いから本気の恋をしてもいいですか
濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。
高橋涼葉、28歳。
元カレとは彼の転勤を機に破局。
恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる