ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「それ、誘ってるふうにしか見えねえよ?」

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 琉生との電話を終えると、紗奈はまた大きく息を吐き出した。
 帰ってこないなら待ってる意味もなく寝ればいいのに、眠気が一向にやってこない。
 膝を立てて突っ伏すもいいろいろ考えるだけで、反対に目が冴えていく。

 こんなふうに心配になるなら、迎えに行けばいい。
 だけど、危ないから、と言った琉生の優しさを無下にするのもできなくて、ワガママを言うことで迷惑がられるのがどうしても嫌だった。
 それは他人から見ての自分らしくない。
 本当の自分は、もっとワガママで泣き虫で子供みたいなのに。

「……も、やだ…」

 本当の気持ちも言えない自分、変に大人ぶってなんでもないふりをして強がってばかり。
 同棲してる琉生にさえもうまく言えず、自分を作ってるなんて。
 こんな可愛げがないとこ、自分が一番嫌い。


 その時、ガチャッ、と玄関のドアが開く音がして、バタバタと聞こえる足音。
 リビングのドアが開くと、そこには少し髪と体を濡らした羽琉がいた。
 紗奈の姿を見て微笑み、「ただいま」と優しく声をかけてくる。

「兄貴は? まだ帰ってねえの?」
「……ん、雨で電車止まってるんだって。だから帰ってこれないみたい」
「そか。すげえ雨だもんな」

 羽琉はそっと近づいてきて紗奈のすぐ隣に自然と腰を落とすと、頬を撫でるように触れて柔らかい笑みを向けてくる。

「で、一人で気が滅入った? 紗奈は寂しがりやだもんな?」

 そんなこと、琉生は言わない。
 今まで付き合ってきたどの男も、一人でも大丈夫だろ、という態度で。
 なのにどうして羽琉はそう言って、本当の気持ちに気付いてくれるの。
 なにも言わなくても、どうしてわかってくれるの。

「……別に一人でも平気だし」

 紗奈は強がって、触れる羽琉の手を振り払う。
 その温もりが遠ざかるだけで寂しく感じる自分は、きっとおかしい。
 そんな紗奈の態度に気分を害すことなく、羽琉は柔らかく笑うだけ。

「そか。ごめんな、一人にして」
「…っだから! 別に平気だってば!」
「ふ、ははっ! そうやって強がって嘘つくとこ、やっぱ可愛い」

 可愛くない性格を羽琉はいつもそう言わず、真逆のことを言う。
 本当に言ってるんじゃないかと思うような声色で、『可愛い』と何度も。
 その声はいつも甘くて、それだけでなんだか脳がとろけそうになる。
 その言葉に深い意味なんてないのに、意識が持って行かれそうになるなんて。

「紗奈、俺がいるからな。一人で我慢する必要なんてないから」

 どうして羽琉は、こんなにも心を乱すのがうまいんだろう。
 言葉ひとつで、尖っている心を溶かしてしまおうとするんだろう。


「羽琉――」

 紗奈は憎らしいはずの彼の名前を呼び、手を伸ばした。
 なにがしたいのか決まってなくて、自分でもよくわからないまま。
 さっきは自分で振り払ったくせに、それでもなんだか触れたくなった。
 いつも意地悪で振り回す羽琉に、生意気な弟みたいな羽琉に。
 彼への気持ちがなんなのか、それはどれだけ考えてもやっぱり見えない。

 そっと触れた羽琉の頬は冷たい。
 紗奈の手を離すことなく、彼はそのまま見つめ返してくるだけ。
 琉生とは違う瞳なのに、見られるだけでドキドキしてしまう。

「……冷たいね」
「ちょっとだけ雨に濡れたからね。紗奈が温めてくれる?」
「えっ」

 伸ばした手を掴まれる。
 見つめてくる瞳から目を逸らすことができずにいると、羽琉の顔がゆっくり近づいてくる。
 抵抗しないといけない――そう思っても、やっぱり彼からは逃げられない。
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