ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「それで楽になれるなら、もっと求めろよ」

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「あー、腹へった!」

 そう言って入ってきたのは、羽琉だった。
 帰ってきたことにも気付かずにいて、突然の彼の存在にただ驚いた。

「んー、いい匂い! うまそう! ってか、今日なんか豪勢じゃん」

 紗奈は慌てて涙を拭い、「…お、帰り」と言うのに精一杯だった。

「兄貴は?」
「遅くなるからいらないって。だから、二人で食べよ」

 紗奈は無理やり明るく振る舞い、「食べ切れるかなー」と笑って見せる。
 本当は泣きたくて苦しくて、胸の中がこんなにもぐちゃぐちゃなのに。
 なんとかして消そうとしてもそれは消えない、……消せない。
 どうすればこの不安な気持ちをなくせるのか、そればかり考えてる。
 だけど、やっぱり頭の片隅に琉生と紅音のことが引っ掛かったままだ。


「――紗奈」

 名前を呼ばれて、温かい腕に手を掴まれた。
 そのまま振り返ると、涙の跡に触れるように羽琉の手が添えられた。

「……なんか、あった?」

 優しい言葉。
 割り切った関係でしかないのに、羽琉はいつも優しさをくれる。
 また涙が出そうになるくらい身に沁みて、胸が締め付けられるようだった。

 ――なにもないよ。

 そう言おうと思ったのに、肝心の言葉はなかなか口から出てこない。
 代わりに瞳が潤んで、今にも涙が溢れそうになるのを必死に抑えた。
 だけど、触れてくる羽琉の手が優しくて、もっと触れてほしくなる。
 見つめてくる瞳がまっすぐで、触れたい衝動に勝てそうにない。

「……羽琉」

 その衝動のまま、紗奈は背伸びをして唇を重ねた。
 首に腕を回して、舌を割り込ませて。
 いつも羽琉のほうからキスをして、それを受け入れるだけなのに。
 今日はモヤモヤした感情が自分の中に溢れていて、それを掻き消してほしかった。

「……触って、気持ちよくして」

 こんな気持ちの時なのに。
 ……いや違う、こんな時だからこそなにも考えたくなかったんだ。
 たとえ間違ってるとしてもイケナイことだとしても、今だけは。

「嬉しいけど、紗奈が誘ってくるなんて珍しいな。兄貴となんかあった?」

 なにかあればよかった。
 セックスじゃなくても、もっとキスして抱きしめてくれたらそれで。
 でも琉生は望んだことをなにひとつしてくれなくて、願いを叶えてくれるのは羽琉だ。
 そこに気持ちがなくても、どこまでも体を満たしてくれるから。

「なにもないから嫌になるの」
「えっ?」
「私が望んでることを琉生はなにひとつ叶えてくれない。付き合って同棲もしてるのに、するのは軽いキスだけ。バカみたいでしょ」
「………」
「私ってそんなに魅力ないの? だから琉生は私を抱いてくれないの?」

 幾度となく語りかけた問い掛けを、今日も執拗に繰り返す。
 どうして、なんで、と何度も。
 でも、触れてくれないことが答えのような気がして涙が滲むだけ。
 もう『好き』の言葉だけじゃ、キスだけじゃ満たされないのに。
 カラダだけじゃなく、もうココロも渇き始めているような気がした。

 不意に強く抱きしめられて、確かな温もりを感じた。
 もう何度も感じた温もりは今日も優しくて、求めてるものとは違うのに胸の高鳴りを覚える。

「そんなことない、紗奈はイイ女だよ。綺麗で可愛くてエロい。抱かない兄貴がバカなんだよ」

 嫌いな言葉だと知ってなお羽琉はいつもそう言ってくれて、そのたびに自信がつくような気もした。
 あんなにもそう言われるのは嫌だったのに、羽琉の言葉はいつもまっすぐ突き刺さる。

「兄貴がなにもしなくても、俺が抱いてるんだからいいじゃん。利用しろって言っただろ?」
「………」
「それで楽になれるなら、もっと求めろよ。今みたいに」
「……いい、の?」
「いいよ。俺、他の女を抱く気になれないくらい紗奈とのセックス好きだし」

 羽琉は微笑むと、紗奈の唇を奪った。
 次第にそれは激しさを増していき、他のことなんか考えられなくなる。
 そして、今日もまた羽琉が与えてくれる快楽に夢中になった。
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