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「なにかあったら、俺んとこに来いよ」
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「さーなさんっ♪」
その日の昼休み、羽琉は人懐こい様子で名前を呼んで近づいてきた。
女性社員の視線を一気に感じて、紗奈は途端に居心地の悪さを覚えた。
くるり、と椅子の向きを変え、紗奈は大きく息を吐き出した。
「……ここでその呼び方はやめようか」
「なんで? 紗奈さんは紗奈さんだし、いつもそう呼んでるじゃん」
呼び捨てされることのほうが多いような気がするけど、敢えて突っ込まない。
そんなことをここで言ったら、それこそなんて思われるかわからない。
「それより、メシ一緒に行こ」
「え、弁当あるよね?」
「紗奈さんが作ってくれたやつね。だから、一緒に食おって誘ってんだけど」
……うぅ、視線が痛い。
羽琉は人の目を惹く容姿をしているんだから、もう少し考えてほしい。
挨拶をした時から、女性社員がこんなにも騒いでいるというのに。
「紗奈ちゃん、知り合いなの?」
紅音がそう聞いて、目を丸くした。
琉生が羽琉の存在を知ったのは高校の時だと言っていたから、てっきり紅音も知ってるものだと思っていた。
いくら二人が腹違いだとしても、羽琉が琉生の弟だってことは。
二人の関係は知らないけど、琉生は彼女に羽琉のことを話してないんだ。
そう思ったら安心して、彼女が知らないことを自分が知ってると思うだけでほんの少し優越感が生まれた。
「琉生の弟ですよ、羽琉くんは」
本当に知らなかったようで、紅音が声を上げる。
なんでもないことのように、「腹違いだけどね」と羽琉が付け加えた。
「知らなかったんですね、紅音さん。琉生と親しいみたいなのに」
いつもより少しキツい口調で言うと、彼女は言葉を詰まらせた。
二人のことを知ってるんだと仄めかすように、眼光も鋭くして。
「でもそっか、どれだけ親しくても紅音さんに突っ込んだことまで話さないですよね」
紗奈は意味深に微笑み、「ただの同級生ですもんね」と言って見せた。
ただの強がり。
羽琉のことを話してはくれたけど、琉生は抱いてはくれない。
自分にしてくれないことを、紅音にはしているのかもしれない。
考えるだけでモヤモヤして、ひとつでも勝るものが欲しくて。
そんなふうに意地悪く、それだけなのよ、とのニュアンスを含ませて言うことが自分の精一杯の虚勢だった。
「……紗奈ちゃん、七瀬くんの弟とやけに親しいのね?」
「一緒に住んでますからね。琉生と羽琉くんと3人で」
「すっごい羨ましいシチュエーション。それじゃ、間違いが起きても仕方ないわよね」
それは羽琉となにかあっても、という意味か。
確かに今はそういう関係だけど、それは間違いなんかじゃない。
自分で決めて、自分で選んだこと。
そういう意味も込めて、「起きませんよ」と迷いなく答えた。
「紗奈ちゃんはそうでも、彼のほうはわからないじゃない?」
ね、と問いかけるように紅音が羽琉を見るも、彼は意味深に笑うだけ。
その笑顔の理由を、彼の心の奥を紗奈は見ようとしていなかった。
ただのセフレ――そう言い聞かせて、無理やりそう思おうとするばかり。
それ以上の感情なんて必要ないのに、羽琉の存在は心を揺さぶる。
「いくら七瀬くんがいるって言っても、人のものって良く見えるし欲しくなってもおかしくないでしょ」
それは自分のこと?
だから琉生が欲しいって、ちょーだいって遠回しにそう言ってるの?
どれだけ彼女が想いを持っていたとしても、琉生と別れる気はないけど。
その日の昼休み、羽琉は人懐こい様子で名前を呼んで近づいてきた。
女性社員の視線を一気に感じて、紗奈は途端に居心地の悪さを覚えた。
くるり、と椅子の向きを変え、紗奈は大きく息を吐き出した。
「……ここでその呼び方はやめようか」
「なんで? 紗奈さんは紗奈さんだし、いつもそう呼んでるじゃん」
呼び捨てされることのほうが多いような気がするけど、敢えて突っ込まない。
そんなことをここで言ったら、それこそなんて思われるかわからない。
「それより、メシ一緒に行こ」
「え、弁当あるよね?」
「紗奈さんが作ってくれたやつね。だから、一緒に食おって誘ってんだけど」
……うぅ、視線が痛い。
羽琉は人の目を惹く容姿をしているんだから、もう少し考えてほしい。
挨拶をした時から、女性社員がこんなにも騒いでいるというのに。
「紗奈ちゃん、知り合いなの?」
紅音がそう聞いて、目を丸くした。
琉生が羽琉の存在を知ったのは高校の時だと言っていたから、てっきり紅音も知ってるものだと思っていた。
いくら二人が腹違いだとしても、羽琉が琉生の弟だってことは。
二人の関係は知らないけど、琉生は彼女に羽琉のことを話してないんだ。
そう思ったら安心して、彼女が知らないことを自分が知ってると思うだけでほんの少し優越感が生まれた。
「琉生の弟ですよ、羽琉くんは」
本当に知らなかったようで、紅音が声を上げる。
なんでもないことのように、「腹違いだけどね」と羽琉が付け加えた。
「知らなかったんですね、紅音さん。琉生と親しいみたいなのに」
いつもより少しキツい口調で言うと、彼女は言葉を詰まらせた。
二人のことを知ってるんだと仄めかすように、眼光も鋭くして。
「でもそっか、どれだけ親しくても紅音さんに突っ込んだことまで話さないですよね」
紗奈は意味深に微笑み、「ただの同級生ですもんね」と言って見せた。
ただの強がり。
羽琉のことを話してはくれたけど、琉生は抱いてはくれない。
自分にしてくれないことを、紅音にはしているのかもしれない。
考えるだけでモヤモヤして、ひとつでも勝るものが欲しくて。
そんなふうに意地悪く、それだけなのよ、とのニュアンスを含ませて言うことが自分の精一杯の虚勢だった。
「……紗奈ちゃん、七瀬くんの弟とやけに親しいのね?」
「一緒に住んでますからね。琉生と羽琉くんと3人で」
「すっごい羨ましいシチュエーション。それじゃ、間違いが起きても仕方ないわよね」
それは羽琉となにかあっても、という意味か。
確かに今はそういう関係だけど、それは間違いなんかじゃない。
自分で決めて、自分で選んだこと。
そういう意味も込めて、「起きませんよ」と迷いなく答えた。
「紗奈ちゃんはそうでも、彼のほうはわからないじゃない?」
ね、と問いかけるように紅音が羽琉を見るも、彼は意味深に笑うだけ。
その笑顔の理由を、彼の心の奥を紗奈は見ようとしていなかった。
ただのセフレ――そう言い聞かせて、無理やりそう思おうとするばかり。
それ以上の感情なんて必要ないのに、羽琉の存在は心を揺さぶる。
「いくら七瀬くんがいるって言っても、人のものって良く見えるし欲しくなってもおかしくないでしょ」
それは自分のこと?
だから琉生が欲しいって、ちょーだいって遠回しにそう言ってるの?
どれだけ彼女が想いを持っていたとしても、琉生と別れる気はないけど。
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