ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「なにかあったら、俺んとこに来いよ」

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「言いたい気持ちはわかります。兄貴なんかに紗奈さんはもったいなすぎる」

 どういう意味なんだろう。
 体のことを言っているのか、それともそれ以外にもなにかあるのか。
 それはわからなかったけど、自分の存在を認められたみたいで嬉しかった。

「でも、それだけです。俺は紗奈さんとどうこうなるつもりはないですよ」

 セフレ以上になる気はない、とそう言われたみたいで、ツキンと胸が痛んだ気がした。
 それは気のせいだと、錯覚だと今日もまたそう言い聞かせる。
 羽琉に、琉生の弟におかしな感情なんて持っていいわけがないから。
 羽琉との関係を一言で言い表すとしたら――恋人みたいなセフレ、だ。
 それ以上には、なり得ない。

「兄貴だって、なんだかんだ紗奈さんを手離す気なんてないんですから」
「……ふうん、そうなの」
「そうですよ。だから、変なことして紗奈さんを傷つけるのやめて下さいね?」

 あぁ、気付いたか。
 彼女が琉生の浮気相手かもしれない、と疑っていることを。
 だから、こんなふうに牽制するようなことを言ったに違いない。
 羽琉が求めているのが本当にセックスだけなのか、たまにわからなくなる時がある。


「さ、そろそろ行こ。紗奈さん」

 羽琉は何事もなかったように言って、手を掴んだ。
 キスもセックスも何度もしているのに、これくらいのことでドキッとしてしまう。
 羽琉の手は琉生よりも優しく感じて、その温もりに安心した。
 手を繋ぐなんてこと、琉生とはずっとしてないな、と今さら気付いた。
 琉生がしないことを、してくれないことをしてくれるのは、いつだって羽琉だ。

「ついでに案内してよ。紗奈さんがどんなとこで働いてるのか、ちゃんと知りたい」

 なんなの、その思わせぶりな言葉は。
 体だけだって言ったくせに、どうして心に入ってこようとするの。
 こんなふうにされたら、イケナイって思っても意識してしまいそうになる。
 セフレとしてじゃなく、男として。

「ちょ、は、羽琉、くん…!」

 思わずいつもみたいに呼びそうになって、慌てて取り繕った。
 繋がれた手を離すことはできず、引かれるまま羽琉に着いてくだけだった。




***


「あー、うまかった!」

 他に誰もいない屋上。
 置かれてあるベンチに座って弁当を食べ終えると、羽琉は満足そうに笑った。
 紗奈を見て、「ありがと。ご馳走様」と律儀にも言ってくれる。
 弁当だけに限らず家で食べた後も、当たり前のようにお礼を言う。
 いつもありがとう――羽琉のその言葉は、心を優しく温かくしてくれる。
 琉生があまり言わない言葉を、羽琉は毎日毎回ちゃんと言ってくれるから。
 羽琉が来てから料理をするのが楽しくなったのは、その言葉のせいだ。

「いつもそう言うよね、羽琉って」

 何気なく言うと、彼は笑みを浮かべて見せた。
 でもそれはどこか少し寂しそうな、切なそうな笑顔だった。

「死んだ母親がそういうのうるさい人で、よく言われたんだ。口癖みたいなもん」

 羽琉の口から母親のことが出てきたのは初めてで、思わず目を見開いた。
 誰からも愛されてこなかった――いつかの羽琉の言葉が、脳に響いた気がした。
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