ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

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「傷つけるすべてのもんから、俺が守ってやるよ」

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「……そうするのがつらい時だってあるよ」

 呟くような声で言うと、そうだな、と言うように羽琉は頷いた。
 軽く紗奈の頭を抱き寄せ、ポンポンと撫でるように優しく叩く。

「逃げたいなら無理しなくていい。頑張らなくてもいいんだよ」
「えっ?」
「紗奈がいつも頑張ってること、俺は知ってるから。だから心配になるんだ。なにもかも一人で溜め込んで吐き出すこともできなくて、そのうち壊れちまうんじゃないかって」
「………」
「紗奈、俺がいるってこと忘れんな。助けてって言えば、すぐにでも駆けつけてきてやるよ」

 なんで、そんな優しいの。
 誰にも言われたことのないことを、どうして言ってくれるの。
 一人で大丈夫、なんて、羽琉の前では強がることもできなくなる。

「……バカね、ただのセフレにそんな優しくしなくていいのに」

 その言葉に羽琉は小さく息を漏らして、「わかってねえな」と呟いた。
 そう言われてもわからなくて、頭の上にクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。

「セフレだからとかじゃなくて、紗奈だから優しくすんだよ」
「えっ?」
「他の女に優しくしたいって思ったことなんかねえのに、泣かれても面倒としか思わなかったのに紗奈だけは別で」
「………」
「本当なんなんだよ、これ。自分でも意味わかんねえ。でも、紗奈が一人で泣いたりしてんの想像すると胸が痛くなる。だからさ――」

 今にも消え入りそうな声で、「一人で抱え込むなよ」と羽琉は言った。
 そう言った彼がつらそうに見えて、うん、と頷いてから胸に深く埋まった。
 包み込む匂いや温もりが、なぜかとても愛おしく感じた。


 しばらく抱きしめ合っていた。
 それ以上なにか言うこともなく、ただ黙って温もりを感じていた。
 それだけで安心して、気を抜けば寝てしまいそうになるほど。
 羽琉は年下なのに、いつもいつもこんなふうに包み込むような優しさをくれる。
 だから余計に離れ難くて、どうすればいいのかわからなくなるんだ。


「紗奈、今度の土曜日――」

 羽琉はそう言いかけ、でも最後まで言い切る前に途中でやめた。
 なに、と聞くように見つめても、それ以上はなにも言わない。
 無理やり笑みを浮かべて、きっと言おうとしたこととは別の言葉を投げつけた。

「……兄貴と、デート?」
「なんで知ってるの」
「ん? なんとなくそうかなぁって思っただけ。で、どこ行くの?」
「あ、まだ決めてなくて」

 自分から聞いたくせして、羽琉はつまらなそうな顔で「ふうん」と言った。
 腕をすっと離して、「まあ楽しんでこいよ」なんて笑顔で言ったりして。
 なぜかわからないけど、それが無性にイライラした。

「…っ言われなくても楽しんでくるよ! 琉生とデートなんて久しぶりだし!」

 琉生の気持ちがどうであれ、彼から誘ってくれたんだから。
 他の女に目移りしているとしても、こうして一緒の時間を過ごそうとしてくれる。
 キスしかしてくれなくても、ちゃんと想ってくれているはずだから。
 もっと二人で時間を共有すれば、羽琉のことも考えなくて済む。
 振り回されて勘違いするようなことも、きっとなくなるはず。

「けど、兄貴に抱かれたりすんなよ?」
「えっ?」
「セックスすんなって言ってんの。紗奈を抱いていいのは俺だけ」
「………」
「いつも満足させてんのは俺だから、他の男に感じるなんて許さねえよ?」

 また羽琉の唇が重なる。
 それに乱暴さはたったの少しもなく、どこまでも優しいキスだった。
 まるで『好き』と言われてるような甘い口づけで、いつも以上に優しくて、それにほだされそうになってしまう。

 羽琉は、ズルい。
 体だけのくせして、こんなふうにたまに独占欲を見せたりして。
 そんなことを言うくらいなら、行くな、ってそう言ってくれればいいのに。
 そしたら、私だって……。
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