ワンナイトラブの相手は彼氏の弟でした

羽月咲羅

文字の大きさ
71 / 82
「もし兄貴に捨てられたら、俺が拾ってやるよ」

(5)

しおりを挟む
「なんかうまいもんでも食えば、少しは気も紛れるだろ」

 ポンポンと軽く頭を叩く手。
 恋人でもないくせに、琉生より羽琉のほうが彼氏みたいな素振りを見せる。
 小さな異変に気付いてこうして側にいてくれようとして、こんなふうに優しさを見せるからつい甘えてしまいたくなるんだ。

「外で食うのが嫌なら俺が作ってあげる。ま、紗奈ほどうまくできねえけど」
「………」
「言いたくなったら話聞くし慰めてほしかったら抱いてやるし、なんでもしてやるから」
「……羽琉」
「だからさ紗奈、俺といる時は余計なこと考えんなよ」

 羽琉は優しい。
 体だけの付き合いなのに優しすぎるくらいに優しくて、それが胸の奥にまで響いて涙が出そうになってしまう。

「あれ、嘘とか冗談じゃねえから。――拾ってやるって言ったの」

 そう言って見つめてくる瞳は、どこまでもまっすぐで透明だった。

 羽琉といると調子が狂う。
 年下のくせに生意気で、やることや言うことが大人びてたりして。
 まるで自分のほうが年下みたいな気になって、包み込んでくれる優しさが心地いい。
 どれだけ強がって見せようにも、羽琉の前だと丸裸にされる。
 嘘も虚勢も、彼が相手だとうまくいかない。


「さ、行こ。あっちに車止めてあるんだ」
「え、でも私も車――」
「明日の朝、乗せてってやるから置いてけば。どうせ行くとこ同じなんだし」
「………」
「前から思ってたんだけど、俺がバイトの日は乗り合わせで良くない? 帰りは俺のほうが早いけど迎えに来るし」

 まるで恋人みたい。
 もし琉生がいなかったら羽琉を好きになってたかもしれない。
 そう思うほど、自分の中の羽琉の存在が日に日に大きくなってる気がする。
 こんなのイケナイ――そう自制して、琉生への気持ちで上書きしようとした。


 ガチャリ、と助手席のドアを開けて車に乗り込むと、そこは彼の匂いが溢れていた。
 まるで抱きしめられてるみたいな変な感覚になって、なんだか落ち着かない。
 もう今さらで、抱きしめられるどころかキスもセックスも幾度となくしてるのに。
 いくら羽琉の車に初めて乗ったからって、こんな気持ちになるなんて。

「なに食う?」
「なんでもいいけど、まだ食べるには少し時間早くない?」
「じゃあ、メシの前にデートでもする? 二人で出掛けたことってないし」
「え? で、デート?」
「そ。絶対楽しいじゃん、それ」

 羽琉は「決まりな」と優しく笑って、クシャッと紗奈の頭を撫でた。
 その手がとても心地よくて、うん、と言う口元が自然と緩んだ。
 ポケットに入れっぱなしのピアスのことが片隅に残っていたけど、尖った気持ちとかは薄れていた。
 それはきっと、羽琉のおかげ。

 ハンドルを握る彼の横顔を見て、引き寄せられる心を抑えるのに必死だった。



 それからショッピングモールに向かい、適当に見て回った。
 その中にあるペットショップは小動物との触れ合いもできるお店で、いつも気になっていたけど入ったことがなかった。
 素直に言えばいいのに子供っぽいと思われるんじゃないかって考えたりして、琉生にも誰にも言えなかった。

「中、入る?」

 なのに羽琉は、そう聞いた。
 紗奈の気持ちに気付いて、続けて「気になってんでしょ?」と笑って言った。
 誰も気付きもしなかったことをいつも羽琉だけはわかってくれて、言いやすい雰囲気を作ってくれる。
 もしここでなにも言わなかったとしても、自分が入りたいから、って羽琉はきっと言う。
 その優しさや思いやりは、いつも紗奈の心の奥に響く。

「……じゃ、ちょっとだけ」

 そう言うと羽琉は柔らかく笑って、そっと手を優しく引いていく。
 年下だというのを忘れるくらい、スマートに二人分のお金まで払ってくれる。
 そのことを口出しすることもさせないなんて、なにもかもズルい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺にお前の心をくれ〜若頭はこの純愛を諦められない

ラヴ KAZU
恋愛
西園寺組若頭、西園寺健吾は夕凪由梨に惚れた。 由梨を自分の物にしたいと、いきなり由梨のアパートへおしかけ、プロポーズをする。 初対面のヤクザにプロポーズされ、戸惑う由梨。 由梨は父の残した莫大な借金を返さなければいけない。 そのため、東條ホールディングス社長東條優馬の婚約者になる契約を優馬の父親と交わした。 優馬は女癖が悪く、すべての婚約が解消されてしまう。 困り果てた優馬の父親は由梨に目をつけ、永年勤務を約束する代わりに優馬の婚約者になることになった。 由梨は健吾に惹かれ始めていた。でも健吾のプロポーズを受けるわけにはいかない。 由梨はわざと健吾に嫌われるように、ある提案をした。 「私を欲しいなら、相手になります、その代わりお金頂けますか」 由梨は健吾に囲われた。 愛のないはずの優馬の嫉妬、愛のない素振りをする健吾、健吾への気持ちに気づいた由梨。 三人三様のお互いへの愛。そんな中由梨に病魔が迫っていた。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。 そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。 勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。 ※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。 これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。 急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。 これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。                   2025/10/21 和泉 花奈

お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-
恋愛
元カレと破局して半年が経った頃、母から勧められたお見合いを受けることにした涼葉を待っていたのは、あの日出逢った彼でした。 高橋涼葉、28歳。 元カレとは彼の転勤を機に破局。 恋が苦手な涼葉は人恋しさから出逢いを求めてバーに来たものの、人生で初めてのナンパはやっぱり怖くて逃げ出したくなる。そんな危機から救ってくれたのはうっとりするようなイケメンだった。 優しい彼と意気投合して飲み直すことになったけれど、名前も知らない彼に惹かれてしまう気がするのにブレーキはかけられない。

処理中です...