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「もし兄貴に捨てられたら、俺が拾ってやるよ」
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「なんかうまいもんでも食えば、少しは気も紛れるだろ」
ポンポンと軽く頭を叩く手。
恋人でもないくせに、琉生より羽琉のほうが彼氏みたいな素振りを見せる。
小さな異変に気付いてこうして側にいてくれようとして、こんなふうに優しさを見せるからつい甘えてしまいたくなるんだ。
「外で食うのが嫌なら俺が作ってあげる。ま、紗奈ほどうまくできねえけど」
「………」
「言いたくなったら話聞くし慰めてほしかったら抱いてやるし、なんでもしてやるから」
「……羽琉」
「だからさ紗奈、俺といる時は余計なこと考えんなよ」
羽琉は優しい。
体だけの付き合いなのに優しすぎるくらいに優しくて、それが胸の奥にまで響いて涙が出そうになってしまう。
「あれ、嘘とか冗談じゃねえから。――拾ってやるって言ったの」
そう言って見つめてくる瞳は、どこまでもまっすぐで透明だった。
羽琉といると調子が狂う。
年下のくせに生意気で、やることや言うことが大人びてたりして。
まるで自分のほうが年下みたいな気になって、包み込んでくれる優しさが心地いい。
どれだけ強がって見せようにも、羽琉の前だと丸裸にされる。
嘘も虚勢も、彼が相手だとうまくいかない。
「さ、行こ。あっちに車止めてあるんだ」
「え、でも私も車――」
「明日の朝、乗せてってやるから置いてけば。どうせ行くとこ同じなんだし」
「………」
「前から思ってたんだけど、俺がバイトの日は乗り合わせで良くない? 帰りは俺のほうが早いけど迎えに来るし」
まるで恋人みたい。
もし琉生がいなかったら羽琉を好きになってたかもしれない。
そう思うほど、自分の中の羽琉の存在が日に日に大きくなってる気がする。
こんなのイケナイ――そう自制して、琉生への気持ちで上書きしようとした。
ガチャリ、と助手席のドアを開けて車に乗り込むと、そこは彼の匂いが溢れていた。
まるで抱きしめられてるみたいな変な感覚になって、なんだか落ち着かない。
もう今さらで、抱きしめられるどころかキスもセックスも幾度となくしてるのに。
いくら羽琉の車に初めて乗ったからって、こんな気持ちになるなんて。
「なに食う?」
「なんでもいいけど、まだ食べるには少し時間早くない?」
「じゃあ、メシの前にデートでもする? 二人で出掛けたことってないし」
「え? で、デート?」
「そ。絶対楽しいじゃん、それ」
羽琉は「決まりな」と優しく笑って、クシャッと紗奈の頭を撫でた。
その手がとても心地よくて、うん、と言う口元が自然と緩んだ。
ポケットに入れっぱなしのピアスのことが片隅に残っていたけど、尖った気持ちとかは薄れていた。
それはきっと、羽琉のおかげ。
ハンドルを握る彼の横顔を見て、引き寄せられる心を抑えるのに必死だった。
それからショッピングモールに向かい、適当に見て回った。
その中にあるペットショップは小動物との触れ合いもできるお店で、いつも気になっていたけど入ったことがなかった。
素直に言えばいいのに子供っぽいと思われるんじゃないかって考えたりして、琉生にも誰にも言えなかった。
「中、入る?」
なのに羽琉は、そう聞いた。
紗奈の気持ちに気付いて、続けて「気になってんでしょ?」と笑って言った。
誰も気付きもしなかったことをいつも羽琉だけはわかってくれて、言いやすい雰囲気を作ってくれる。
もしここでなにも言わなかったとしても、自分が入りたいから、って羽琉はきっと言う。
その優しさや思いやりは、いつも紗奈の心の奥に響く。
「……じゃ、ちょっとだけ」
そう言うと羽琉は柔らかく笑って、そっと手を優しく引いていく。
年下だというのを忘れるくらい、スマートに二人分のお金まで払ってくれる。
そのことを口出しすることもさせないなんて、なにもかもズルい。
ポンポンと軽く頭を叩く手。
恋人でもないくせに、琉生より羽琉のほうが彼氏みたいな素振りを見せる。
小さな異変に気付いてこうして側にいてくれようとして、こんなふうに優しさを見せるからつい甘えてしまいたくなるんだ。
「外で食うのが嫌なら俺が作ってあげる。ま、紗奈ほどうまくできねえけど」
「………」
「言いたくなったら話聞くし慰めてほしかったら抱いてやるし、なんでもしてやるから」
「……羽琉」
「だからさ紗奈、俺といる時は余計なこと考えんなよ」
羽琉は優しい。
体だけの付き合いなのに優しすぎるくらいに優しくて、それが胸の奥にまで響いて涙が出そうになってしまう。
「あれ、嘘とか冗談じゃねえから。――拾ってやるって言ったの」
そう言って見つめてくる瞳は、どこまでもまっすぐで透明だった。
羽琉といると調子が狂う。
年下のくせに生意気で、やることや言うことが大人びてたりして。
まるで自分のほうが年下みたいな気になって、包み込んでくれる優しさが心地いい。
どれだけ強がって見せようにも、羽琉の前だと丸裸にされる。
嘘も虚勢も、彼が相手だとうまくいかない。
「さ、行こ。あっちに車止めてあるんだ」
「え、でも私も車――」
「明日の朝、乗せてってやるから置いてけば。どうせ行くとこ同じなんだし」
「………」
「前から思ってたんだけど、俺がバイトの日は乗り合わせで良くない? 帰りは俺のほうが早いけど迎えに来るし」
まるで恋人みたい。
もし琉生がいなかったら羽琉を好きになってたかもしれない。
そう思うほど、自分の中の羽琉の存在が日に日に大きくなってる気がする。
こんなのイケナイ――そう自制して、琉生への気持ちで上書きしようとした。
ガチャリ、と助手席のドアを開けて車に乗り込むと、そこは彼の匂いが溢れていた。
まるで抱きしめられてるみたいな変な感覚になって、なんだか落ち着かない。
もう今さらで、抱きしめられるどころかキスもセックスも幾度となくしてるのに。
いくら羽琉の車に初めて乗ったからって、こんな気持ちになるなんて。
「なに食う?」
「なんでもいいけど、まだ食べるには少し時間早くない?」
「じゃあ、メシの前にデートでもする? 二人で出掛けたことってないし」
「え? で、デート?」
「そ。絶対楽しいじゃん、それ」
羽琉は「決まりな」と優しく笑って、クシャッと紗奈の頭を撫でた。
その手がとても心地よくて、うん、と言う口元が自然と緩んだ。
ポケットに入れっぱなしのピアスのことが片隅に残っていたけど、尖った気持ちとかは薄れていた。
それはきっと、羽琉のおかげ。
ハンドルを握る彼の横顔を見て、引き寄せられる心を抑えるのに必死だった。
それからショッピングモールに向かい、適当に見て回った。
その中にあるペットショップは小動物との触れ合いもできるお店で、いつも気になっていたけど入ったことがなかった。
素直に言えばいいのに子供っぽいと思われるんじゃないかって考えたりして、琉生にも誰にも言えなかった。
「中、入る?」
なのに羽琉は、そう聞いた。
紗奈の気持ちに気付いて、続けて「気になってんでしょ?」と笑って言った。
誰も気付きもしなかったことをいつも羽琉だけはわかってくれて、言いやすい雰囲気を作ってくれる。
もしここでなにも言わなかったとしても、自分が入りたいから、って羽琉はきっと言う。
その優しさや思いやりは、いつも紗奈の心の奥に響く。
「……じゃ、ちょっとだけ」
そう言うと羽琉は柔らかく笑って、そっと手を優しく引いていく。
年下だというのを忘れるくらい、スマートに二人分のお金まで払ってくれる。
そのことを口出しすることもさせないなんて、なにもかもズルい。
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